第303話・ペテスタイの民
(……ぼくは精霊神の一割。大陸を救うために理想の町を創るなんて理由で
(……あなたも……なのですね……。……あなたも……精霊神の神の名の気紛れに囚われた……方なのですね……。そして、わたしの記憶が戻った理由も分かりました……。……あなたが……わたしの記憶を知りたいと……願ったから……。そして、あなたが……精霊神だから……)
(一割だけどね)
ぼくは辺りを素早く見まわす。精霊神のやその僕が見張っている気配はない。
ぼくはやっとわかった。
精霊神は人間は人間でなくなれば自分に従うと思っている。人間という器にない人間の魂は、自分に縋るしかないと思っている。だからペテスタイの人を神馬や案内精霊に変えた。気が遠くなるほどの年月、自分の僕として扱い、人間だった頃のことを忘れるようにすらした。
……でも。
でもね。
ぼくをここに放り込んだのは間違いだった。それどころか、精霊神は未だに間違いに気付いていない。
あんたは自分の一割っていう存在の重さに気付かなかった。
たった一割じゃない。たかが一割でもない。
重要なのは、それがあんたの欠片だってことだ。力では劣るけどあんたと同じことが出来るってことだ。
そしてもう一つ。
あんたは人間を舐めている。甘く見ている。自分の創造物は自分に逆らえないと思っている。思い込んでいる。
ぼくは心の中でニヤッと笑って、茂みに向かった。
そうと分かったからには、逆襲の
精霊神。あんたがぼくの魂と同じように、自分の欠片を、ほんの少しだけしか、ここに置かなかったのが間違いだったと。
思わせてやる!
◇ ◇ ◇
神殿の近く、小さな小屋がイコゲニア一家に割り当てられた寝室だった。
「ここは何?」
「精霊神様が、お祭りが終わるまでここにいていいって与えてくださったお家だ」
「わーい! ベッドふかふか!」
「お祭りって何?」
ベッドに喜んだフィウ君と疑問を口にしたツェラちゃん。
「ツェラもフィウも精霊神様にお会いしただろ」
正確には精霊神の一割よりもっと少ない力と意識のコピーを与えられた精霊小神だろうけどね。
「うん」
「そして、お父さんたちが出来る最高のものを持ってきた」
「うん」
「その捧げ物を精霊神様に受け取っていただく儀式があって、その後精霊神様が下さったものをみんなで分け合って、焚き火を囲んでお祝いするんだ。今年も一年頑張った、来年も一年頑張ろうってね」
ん? 暦の上では今は年末でも何でもないぞ? そう言う祭りって普通新年に行うものじゃない?
どうやら聖地には独自の暦があるらしい。
多分、これも聖地に住んでいる人間に特別感を与える為だろうなあ。
「お家に帰るのはいつ?」
「五日後、かな」
五日間。
ぼくは自分の口の端が持ち上がるのを感じた。
それだけあれば……出来る。やれる。
ありがとう創造神。五日も準備期間をくれて。
そして。
人間を自分の操り人形だと思って舐めてんじゃないぞ!
◇ ◇ ◇
夜。
イコゲニア一家は全員夢の中。特に子供二人が疲れたのかよく寝てる。
ぼくはペローを残し、そっと鼻先でドアを開けた。
精霊蛍……リュシオルさんがふよんふよんと浮かんで待っていた。
(ゴメン。待たせた?)
(……いいえ……わたしたちが……生きて来た刻と比べれば……)
本当に、どんだけ放っておいたんだあの腐れ神!
(集めてくれた?)
(……はい……でも……一体、何を……?)
(なあに)
ぼくは歩きながら言った。
(精霊神に一泡も二泡も吹かせてやるチャンスだってことさ)
ペテスタイの残骸に、たくさんの動物が集まっていた。
小さな虫から大きな牛まで。動物でありながら動物でない。精霊虫や神獣と呼ばれる存在。
だけど、ここにいるみんなが知っている。
ここにいる自分たちが、全員かつて人間だったこと。
肉体から引きずり出されて、人間ではない半肉体を与えられ、精霊神の為に働かされている存在なのだと。
(ぼくはクレー。クレー・マークン。大陸の町の町長……だった。今はその座を体ごと精霊神に奪われてるけど)
一頭の神馬が現れた。真っ白で差し毛の一本にも色がない。神馬の中でも一番大きいだろうか。
(私はライテル・トゥテラリィ。……ペテスタイの第十代町長だ)
(ライテル町長。……あなたは何故、この聖地にペテスタイで来たんですか?)
ライテルさんはしばらく考え込んでいた。ぼくが精霊神の力をちょっと強くすると、顔をあげる。
(……思い出した。私は、精霊神に感謝の意を伝えるために聖地に来た)
(感謝?)
(そう。十代も続き、町はますますの繁栄を遂げ、これは神に謝意を伝えなければと。そして、賛成した町民と共に日没荒野を越え、ここに辿り着いた)
(そして、精霊神の怒りを受けた?)
(そう。……私を含め、誰も知らなかったのだ。大神殿は精霊神様の許しなくして立ち入ってはならないと言うことを)
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