第295話・夜空に思いを
エキャルはグランディールに着いただろうか。
夜空を見上げながらぼくは緋色の相棒に思いを馳せる。
飛んで行ったエキャルは、多分来るより早く帰れているだろう。来るのはスキルを使ってぼくの気配を探りながら飛んできたけど、多分今、グランディールはスピティの近くに留まっているはず。
エキャルは大陸を一日で飛ぶ鳥。聖地に来るのに手こずって二日かかったけど、帰りはそんなことはないはず。
問題は、今、グランディールに鎮座しているであろう精霊神。
……
何かしてみろ、この成りであいつがぼくの身体を使っていても、全力で噛みついてやるから。ぼくが戻った後で痛い目にあってもな!
でも、エキャルなら上手く
ティーアはぼくからのメッセージを受け取って、理解してくれるだろうか。
仔犬の足跡だというのはティーアなら分かるだろう。それをぼくが託した意味を分かってもらえるか。
こればっかりはティーアを信じるしかない。強面なのに動物好きで動物に関わると人が変わってぐにゃんぐにゃんになってしまうティーアを。
ティーアはアパルやサージュのように常時ぼくの傍に居たわけじゃない。だからこそぼくを演じられる
だけど、ぼくが別の所に別の姿でいるというのを分かってくれるだろうか。
もちろん、ティーア一人が分かったところでぼくを連れ戻すのは難しいだろう。なんせ精霊神が飛ばした距離。伝令鳥でも時間のかかる距離を人間が踏破するのは難しい。おまけに日没荒野を行くには人間には羽根もないしね。だからぼくも精霊神の力を目覚めさせるまでは無理だと諦めた。
そして、町長の中身が違うと信じてもらうのも難しいだろう。アパルやサージュ、アナイナと言った、ぼくをよく知り尽くしている人間が町長がぼくだと信じ込んでいるから。なんせあいつはぼくのやりそうなことは何でもできるし何でもやれる。仔犬を連れてきてこの中身がぼくだと言って信じる人間がいるとは思えない。
でも、ティーアだけでも疑問に思ってくれた。これがぼくの救いだ。
ティーアはその顔つき、体つきと、盗賊団の頭という前歴から、我慢も出来ないすぐ手を出すというイメージを持たれているけど、実際にはかなり辛抱強く、深く考え、冷静に答えを出す人間だ。そうじゃないとスピティみたいなランク上位の町の近くで捕まらずに盗賊団を率いるなんて出来っこない。
多分、エキャルを飛ばしたことでティーアは
さりげなく、気付かれないほどに外堀を埋め、精霊神の目論見を外してくれるはず。
「くぅん?」
夜空を見上げて考え込んでいたのを知ったのか、似姿のペローが寝床から出てきてぼくの傍に来た。
ペローを創ったことで、精霊神の能力、「無から有を生む」ことが、ある程度は出来るようになったと思っていいだろう。
もう少し力を使うことに慣れれば、エキャルのスキルを追ってこの聖地から飛び出すことも可能なはず。
そのためにも、人の集まる場所に行って、この大地の情報を仕入れなければ。
もしかしたら、脱出に有用な情報が手に入るかもだし。
さて、どうやって行くべきか。
方角も距離も
もちろん精霊神の力を使って、大地の情報を手に入れればいいんだけど、この大地は
だから、この身一つで歩いていくのが一番なんだけど、距離も場所も分からない所に行くって難しいよね。この辺り、本当にイコゲニア一家の他に人いなさそうだし。
でも、パテルさんが狩人やって、帰ってきてから獲物をきちんと丁寧に捌いて、肉や毛皮などを保存してるってことは、それを譲る先があるってこと。
それも結構量があるから、肉や毛皮を大量に取引する相手がいるってこと。
つまり、人が集まる市場がある……はずなんだ。
そうして、毛皮や肉の量からして、そろそろこれを何とかしないと保存も限界って感じ。
……つまり、近いうちにチャンスはあるってこと。
ぼくは夜空を見上げる。
ティーア。エキャル。
ぼくは意地でもグランディールに帰るから、それまで上手く立ち回って、何とかあの野郎の暴走を留めてくれよ……!
ぼくはペローに促され、イコゲニア一家に不審に思われないように心配かけないように、家の中の寝床に戻って寝ることにした。
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