第293話・待ちぼうけ(ティーア視点)
エキャルラットに旅立ってもらって、三日目。
時々、
「エキャルは何処?」と。
「またオルニスに会いに行ってるんじゃないか? 何か急ぎの用でもあるなら」
「いや、そうじゃないんだ。ちょっと心配なだけ。急いで戻さなくても構わないよ」
それは当たり前のように聞こえる会話。
だけど、それはクレーを知る者には違和感を感じさせるだろう。
まず、エキャルがクレーに何も言わずに出て行くことはなく、そして、クレーはエキャルが必要な時以外は何をしているかなんて聞かないのだ。
アパルやサージュ、アナイナと言った親しい人間に違和感を感じさせない為だろう。
多分、俺が
そうして、これ以上自分を疑う者を増やしたくないんだろう。他の誰にもエキャルのことは聞かない。
つまり、俺にも言っているのだ。
余計なことはするなよ、と。
お前なんか簡単に潰せるんだぞ、と。
いつもののほほんとした仕草で、穏やかな笑みで、しかし俺を威嚇して戻っていく。
町長の中身が入れ替わったのは、確かだ。
俺に向ける気配が凶悪なものだったりすれば、闇の存在に食われたとも思うだろう。そうして、そう言うことなら俺はアパルやサージュに急いで教えて、
ただ。
気配が……邪悪とか、そう言うものじゃない。
それに、
つまり、少なくとも動物に警戒されるような存在じゃない。
かと言って今までのように羽繕いをしに行ったりもしない。
警戒でも威嚇でもない。言うならば……畏怖?
鳥に畏怖なんて感情があるのかとも思うが、宣伝鳥たちの仕草は、西の民が神殿に行くときのようなものに見える。畏怖……に近い感覚で、宣伝鳥は
エキャルラットが帰ってきたらまずいのでは?
エキャルが何かされるかもしれない。
そうなったら、クレーに申し訳が立たない。
エキャルは、クレーにとっては大事な大事な相棒なのだ。クレーが帰ってきた時に、グランディールが乗っ取られかけていて、エキャルが何かされたなんて知ったら、きっと落ち込む。自分のせいだと思う。
鳥飼……鳥の責任者として、
戻ってきて、クレーが町長の座に戻ったら、いつも通りの……クレーが頭にエキャルを乗せて歩く様子が見られるだろうか。朝一番に緋色の鳥を頭に乗せて歩く町長は、戻ってくるだろうか。
戻ってこないと、困る。
みんなが望むのは、
他の誰にも、クレーの代わりは出来ない。
宣伝鳥の手入れが終わって、今日は家族の元へ戻る。
一応家族持ちなんで、
しかし、今日は
いつもの穏やかな顔で、穏やかな笑みで。
だけど、その裏にある意思は違う。
エキャルがそろそろ戻ってくるんじゃないか? と。
何のためにエキャルを飛ばせたのか、確認させてもらうぞ、と。
そして、家族のことも知っているんだぞ、と。
確実に、俺をも脅しにかかっている。
俺の握っている秘密が、自分に打撃を与える。
だから、人質は取っている。
エキャルや宣伝鳥、家族だけじゃない。アパルやサージュ、アナイナ、そして……クレーまで。
グランディールそのものを人質に取って、俺に脅しをかけているのだ。
くそっ。
しかし、ここで抵抗してはいけない。
アパルやサージュに疑問を抱かせてはいけない。アナイナにもだ。
クレーと親し過ぎる人間が
今俺がここにいるのは、クレーと一歩引いた関係だからだ。
町長と鳥飼。仕事上としては絶対に毎日会わなきゃではないし、俺も町政に関わるわけでないし。考え事してエキャルをもしゃもしゃにしてしまった時に助けを求めてくる程度。そんな関係。
だから、俺が
でも、だからこそ俺に強硬手段を使ってこないのだ。俺の中身を取っ払って代わりの何かを入れることもなく、様子を見て脅しをかけるだけに留めている。
だから、このことは俺の中に留めておくしかない。
エキャルが……あいつがクレーの行方を突き止めてくれれば。クレーがどんな姿をしていても、中身がクレーであると証明できたら。
それしか、俺にやれることはないのだ。
溜息をついて、家路をたどる。俺の動物好き、鳥好きを知っている妻フレディにも言えない。子どもたちにも言えない。
何ができるんだろうか……俺に。
その時。
空に影が過ぎった。
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