第292話・どっちかが
爆睡して起きると、太陽が南にかかっていた。
もう昼かあ。そろそろ起きよう。似姿……ペローは上手くやってくれているはず。もしあの二人に何か危険が迫れば、ペローに仕込んだスキルがぼくを叩き起こしてくれて、ペローも二人を守る体勢に入る。聖地でぼくとペロー二匹の力で敵わない敵がいるとは思えないので、多分大丈夫。
体を起こして、んー、とのび。
「あら、起きた?」
欠伸してカッカッカッと後足で首筋を掻いていると、マトカさんが声をかけて来た。
「お水、飲む?」
「わふ」
ちょっと日光を浴びながらうとうとしてたんで、軽く喉が渇いてました。ありがとうございます。
「本当にあんたは賢い子ねえ。ペローもそうだけど、ちゃんとあたしたちの言うことを分かってて嫌なことはやらないし。本当、何処から来たのかしらね?」
「わふ」
首を横に傾ける。如何にも「分かりませんよ?」という感じで。
「家の子たちの為に来てくれたような仔たちねえ。この辺りにはあんまり家もないから、本当に誰かと一緒に荒野を越えて来たか、もしかしたら精霊神様が遣わしてくれたのかしらねえ」
精霊神がすっ飛ばして下さったんです。ここまで。
「ね、ね、ペルロ。ペローもそうだけど、お願いだから、飼い主が来ても、どっちかは家に残ってくれない?」
おや? いや、ペローは残すつもりで作ったんだけど、それはなんで?
きょとん、とした顔を作って見上げると、マトカさんはぼくの頭を撫でながら言った。
「この近く、家の子たち以外に子供がいないのよ。だからあの子たちには友達がいない。ずーっとお友達が欲しいって言ってたけど、こればっかりはあたしたちが叶えてあげられる願いじゃないしねえ……。あんたたちがいれば、寂しくはないと思うんだけどねえ」
何を言っているかよくわかりませんよ、という顔を作って首を傾げる。
「どう? ペルロもペローも、家、嫌い? 飼い主が恋しい?」
逆の方向に首を傾げる。
「なんてね。仔犬に言っても分からないか」
くすっと笑って、マトカさんはぼくの頭をポンポンした。
「でも、家にどっちかが残ってくれると、嬉しいんだけどねえ……」
はあ、と溜息をついて、マトカさんは立ち上がった。
大丈夫です。ぼくが消えてもペローは残る予定ですので。ペローは元々この家にいてもらうつもりで創ったんで。
尻尾をはたはた振って、家に戻っていくマトカさんを見送る。
うん。最初の思い通り、ぼくの手足になれて、聖地を探れて、ぼくがお世話になったイコゲニア家を守れる似姿が出来たみたいだ。
試しに、視界を同調してみる。
……ペローの見ている景色が見える。
昨日プラムを採りに行った場所だ。森の中でちょっと拓けていて、子供が遊ぶにはちょうどいい自然の広場。
フィウ君が手を伸ばして熟したプラムを採り、機嫌よくかじりついている。
ペローは広場の一角でじっと見守っている。
「ペロー、プラム食べる?」
お勧めされて、ペローはちょっと困ったようだけど、試しにかじってみて……。
「ふしゅん!」
鼻を鳴らしてプラムから口を離すペロー。ぼくの味覚にも皮の酢っぱみが残る。うん、プラムの皮って酸っぱいんだよ……。
「あれ? ペローも、プラム、ダメ?」
「ペルロもダメだったよね」
フィウ君とツェラちゃんが顔を合わせて話し合う。
「犬って果物ダメなの?」
「プラムだけかも」
「色々食べてみてもらおう」
……あのー、果物がダメとか言うより、犬の身体は人より小さいんで、人間と同じものを同じ量食べてたら食べ過ぎになるんです。分からないだろうけど。
とりあえず、ペローの方は大丈夫そうなんで、ぼくはとっとことっとことマトカさんの後をついて歩いて、洗濯物を干すのを見守っている。
「見てるの好きなのねー」
マトカさんが時々ぼくを振り返って、笑いながら洗濯物を振るう。
「そんな感じで家の子たちも見守ってくれたのねー。本当に、あんたたちが居れば安心なんだけど」
マトカさんもこっちに心を許してくれたようだ。笑いながら声をかけてくれる。
子供が二人、しかも姉弟しかいないってのは寂しいだろうなあ。ぼくの生まれ育ったエアヴァクセンはSSランクで子供も多かったから、そんなことは感じなかったけど。
……というか、周りに子供がいない、という環境がなかったな、ぼくは。
周りに同年代がいない、というのはエアヴァクセンに追い出された後の話だし、グランディール創って町民増やしてと忙しかったんで考えてる暇もなかったし。アナイナも傍にいたっちゃいたし。
でも、あの年頃で、遊び相手が自分の姉弟しかいないっていうのは寂しいんだろうなあ。
うん、ペローを作ったぼく、グッジョブ。
でも、聖地ってのは子供がいないのかなあ。いや、いないことはないと思う。ツェラちゃんとフィウ君がいるんだから、他に子供がいてもおかしくない。
マトカさんは、この近くに子供はいない、と言っていた。
とすると、聖地の中心街? とでも言える場所へ行かないと子供はいないってことだろう。
そこに行けば、色々な情報もあるだろう。
次の目標。ぼくかペローが、この聖地の人の集まる所に行くこと!
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