第291話・もう一匹の仔犬

「…………」


 んー。


 ゆさゆさされてる。


「…………」


 ごめんなさい、眠いです。


 昨日は日中は子供たちに遊びにお付き合いして、夜は精神力と体力を削ったんです。もう少し寝かせて。


「…………ロ」


 だから、もうちょっと……。


「ペルロ?」


 ゆっさゆっさと起こされて、ぼくは渋々目を開けた。


「ペルロ!」


「……わふ」


 もうちょっと寝かせてくださいのお願いを込めて鳴いたけど、それがフィウ君のスイッチを入れてしまったらしい。


「ペルロペルロペルロ!」


 お願いです、甲高い声で名前を連呼しないで。


 しょうがない、起きる。


 ブルブルブルっと身体を振るわせて、目を覚ました。


「ペルロ! この子、お兄ちゃん? 弟? いつ来たの?!」


 フィウ君の手の中には、舌を出してはっはっはっと呼吸をする、今の姿のぼくそっくりな仔犬がいた。


「ほほーう、兄弟犬が来たのか?」


 パテルさんがフィウ君から仔犬を取り上げてじっと見た。


「うん、そっくりだな。瓜二つだ。間違いなく兄弟だな」


 尻尾を千切れんばかりに振って、はっはっはっはっと呼吸しながら愛想を振りまくそれは、ぼくが創った、ぼくの似姿。


 同じ大きさ、同じ毛色、同じ愛想を振りまく姿。


 ここまでそっくりにしたぞ。ていうかアレンジを加えることができなかっただけで、ぼくの形をそのまま創り出しただけだけど。


 ちなみに一応スキルがあって、こいつの見た物聞いた音嗅いだ匂いなど、感覚をぼくに届けることが出来る。離れた場所にいても、こいつが見たものはすぐにぼくに伝わるってこと。スヴァーラさんがその小鳥オルニスで使うスキル「鳥観図」をモデルにぼくが創ったスキル「五感投影」だ。これでぼくがスキルも作れることが分かった。


 そうして、仔犬の中身は普通の犬よりちょっと賢いくらいにした。それでも精霊神の力を使わないぼくと同じように犬らしいことが出来る。五感とか。あと、人噛み蛇とかから子どもたちを守るために同じような肉体能力もある。


 例えぼくが聖地から自由になっても、子供たちの所に仔犬は残る。一応成長する設定にしてあるんで、後から疑われることもないだろう。


「おかあさん、おかあさん、ペルロの兄弟!」


「飼っていーい? 飼っていーい?」


 子供二人が声を合わせる。


 難しい顔のマトカさん。まあそりゃあそうだろう。


 別に飼ってもらわなくても構いませんよ? ぼくは全然問題ありません。一緒に飼ってもらうつもりで作りはしたけれど。


「この子がペルロと同じくらいお行儀が良ければいいんだけど」


「お行儀いいよ! 絶対!」


「ペルロの兄弟だもん!」


 マトカさんが困ったようにパテルさんを見る。


「ま、いいだろ。よっぽど行儀が悪かったら追い出すから、そうならないようにおまえたちは面倒見ろよ」


 お父さんの言葉で全部が決まった。


「はい!」「はーい!」


 良かった。二人ともお気に召してくれたみたいだ。


 これはぼくの代理。


 飼ってもらえなければぼくの目として聖地を回ってもらって情報を集めるつもりだけど、第一目的はこの家族のため。


 ぼくはいつかここを出て行く。


 出て行かないといけない。


 でも、ぼくが出て行ってしまったらこの二人がとてもとても悲しむだろうから、その代わりを。


 二人を、家族を守ってあげられる存在を。


 そう思って創りました。可愛がっていただければ幸いです。


 特に二人に愛想よく振舞うよう創りました。


 満面笑顔で千切れそうなほど尻尾を振る仔犬の名前をどうするか賑やかになる姉弟を見て、よし、と思い、そして欠伸した。


「眠いの? ペルロ」


 マトカさんの言葉に、もう一回欠伸をする。


「そうよね、兄弟を迎えに行ってたなら眠いわよね。ご飯食べたらまた寝なさい。どうせあの子たち、あんたの兄弟に名前つけるのに夢中なんだから」


 はい。好きな名前を付けてあげてください。ぼくは寝てますから。


 くああ、と欠伸して、水とご飯を食べて、その後は陽だまりの木の下に移動。


 ぽかぽかと暖かい太陽に光を受けてうとうとと……。


「ペルローっ!」


「きょーだいの名前決まったー!」


 うん、喜んでくれて嬉しいよ。でも眠い……。


「ペローっていうの!」


 ……ペルロとあんまり変わりませんね。


「一緒に遊ぼーっ!」


 ゴメン、寝かせて……。眠いのよ……。


「ペルロは、ペローを迎えに行ってたから眠いのよ」


 マトカさんが柔らかく止めてくれた。


「少し寝させてあげなさい?」


「「えー」」


 不満そうに口を尖らせる二人。


「ペローといっぱい遊べばいいでしょう?」


「でも、ペルロ……」


「大丈夫よ、ペルロはペローとだけ遊んで文句を言うような子じゃないから」


「でも……」


 ぼくがこらえ切れず大あくびすると、本気でぼくが眠いのが分かったらしい。


「ペルロ、おねんねしてからまたあそぼーね」


 はい。とりあえず今は寝かせてください。


「ペロー、あっちであそぼ!」


 きゃっきゃっと二人と一匹の声が遠ざかったのを確認して、ぼくは改めて体を丸めた。


 おやすみなさい……。


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