第287話・再会
「ペルロ、どうしたの?」
ぼくが難しい顔をしているのに気付いたのか。ツェラちゃんがマトカさんの膝の上のぼくに声をかけて来た。
「くぅん?」
何でもないよ、と鼻を鳴らす。
不安そうにこっちを見るツェラちゃんに、目をウルウルさせてベロを出して尻尾を振る。大丈夫。お気になさらず。ぼく元気!
にしてもツェラちゃんはかなりいい勘と観察眼をしている。普通、仔犬が考え込んでるなんて思わないだろうに、ぼくが考え込んでいると様子を伺ってくる。
「ほら、何でもないって」
ぼくがはたはたを振る尻尾を指して、マトカさんが微笑む。
「そうかなあ」
「さ、お話は終わり」
マトカさんが、ぼくを抱えて立ち上がり、そして床におろしてからパン、と手を叩いた。
「プラムをジャムにします。食べたい人は手伝って」
「「はーい!」」
「ペルロはお外ね」
「わふっ」
ぼくは尻尾を振って応えた。多分トイレに行くと思われたんだろうけど、人のいない所で考えたい、という理由もある。
てこてこてこ、と歩いて、ドアの隙間から外へ行く。
そして、庭に植わっている木の根元に座って、考えてみた。
◇ ◇ ◇
ここが闇の精霊の影響が薄い聖地で、大陸からここへ来ることは可能。
逆は?
聖地と大陸が物理的に距離が離れているのか、それとも何か次元的なもので離れているのか。
日没荒野を越えなければならないのなら、この身体じゃあ難しい。ポリーティアーから見た日没荒野には果てがなかった。いや、大陸の西端だから終わりがあるのは確かだけど、聖地に続く荒野だからどうなっているかぼくには知識が与えられなかったから分からない。精霊神の一割と残りの九割は力の差だけではなく知識にも差がある。くっそう。
何か移動手段があればいいのに……。
このひ弱な四本足で、太陽照りつける灼熱の荒野を歩くことは難しい。水を携帯できないまま荒野を歩く度胸はない。
どうすればいいのか……。
その時。
バサバサバサッと羽音が。
聞き慣れた羽音……え?
はらはら落ちてくる数枚の緋色の羽根。
ぼくは立ち上がって、木の上を見た。
バサッバサッと羽音をさせて、枝から降りてくる鳥。
エキャル。
エキャルラット!
「わ……」
エキャル、と呼ぼうとして、それが鳴き声になって、イコゲニア一家に気付かれたら困る。慌てて鳴き声を飲み込み、したっしたっと前脚で地面を叩いた。
緋色の鳥は、ぼくより大きい。
そして、嬉しそうに首を伸ばして、毛繕いをしてきた。
分かってるの、エキャル?
ぼくがぼくだって、エキャルには分かるの?
エキャルは一通り毛繕いすると、嬉しそうに小さなぼくの背中に頭を擦り付けた。
よかった……!
エキャルはぼくがぼくだって分かってる! 精霊神と一緒くたにすることはなかった!
それに、エキャルが来れるってことは、次元的に違うとかそういうことじゃなく、羽根があれば移動可能ってことだ。まあ……ぼくには羽根がないから、大発見ってわけじゃないけど。
エキャルがどうやってグランディールを出てきたか、も問題だ。
エキャルは結構自由に飛んで歩いている。友達のオルニスに会うと見せかけてぼくを捜しに来てくれたのかもしれない。
もし……仮にもし誰かが飛ばしてくれたのなら、グランディールでぼくの存在に疑問を持っている人がいて、ぼくを探してくれていることになる。
そう言う人は、もちろん限られてくる。
アパルとサージュ、この二人でもない。この二人、町長の許可がないとエキャルを使えないし、そもそもエキャルはあんまり二人を好きじゃない。頼んでも断られる可能性がある。
同じ理由でアナイナやヴァリエも却下。
独自の判断で伝令鳥を飛ばせられる立場の人間……。
ティーア?
ティーアなら、エキャルにぼくを探すことを頼める。また、エキャルの不在を取り繕うことも出来る。オルニスに会いに行く、という理由があれば伝令鳥を使わない時はエキャルの好きに飛んでいい、と言ってあるから。
……ぼくを探してくれているのは、ティーアでほぼ当たり。でも、ティーアはどうやってぼくと精霊神の区別をつけた……?
ふと、目の端にとまるものがあった。
エキャルが小袋……今のぼくには大袋だけど……を
そうだ! ティーアがぼくに精神安定のためにってくれた、羽根入りの袋!
あの日、最後に会ったのはティーアだ。ティーアから小袋を貰って、部屋に引き上げたんだ。そこから精霊神にここへすっ飛ばされた。
エキャルが気付いた。それにティーアが気付いた。そしてぼくが喜んで受け取った小袋を手放していたのを知り、ティーアとエキャルはあれがぼくじゃないと言うことに気付き、ティーアはエキャルを飛ばした。
そしてエキャルは辿り着いた。ぼくのところへ。
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