第286話・精霊神の目的
「しれんって?」
「試練は……そうね、その人の決意とか思いとかを、精霊神様が試されるの。聖地に招くのにふさわしい人かどうか」
「どうやって分かるの?」
「精霊神様のお考えはお母さんには分からないけど、何処まで行っても何もないような場所に踏み込んで、ひたすら真っ直ぐ歩けるか」
それって……。
「真っ直ぐって、何処に向かって歩くの?」
「お日様を追いかけるの。沈もうとするお日様を見失わずに真っ直ぐ歩けるか。そうやって精霊神様に認められた人が、この森に辿り着くの。わたしたちは、そのお出迎えをして、精霊神様のいる大神殿に案内するために、ここにいるのよ」
……それって、日没荒野って言いません?
大陸では戻ってくる人がいないから本当に聖地があるか判明できなくて、神殿から聖地認定が外されたんですけど。
もしかして大神殿とやらがあるかも知れないこの小さな大地に辿り着いている可能性はあるってこと? とすると日没荒野に町ごと乗り込んだペテスタイがここに辿り着いた可能性もあるってこと?
うわ、うわ、うわ。
大陸の常識がぼくの頭の中でひっくり返されています!
聖地実在は知ってた。と言うか知識の中にはあった。
でもその聖地に辿り着いた人間がいたと、この一家はそのお出迎えをするのが仕事だと、そう言うこと?
「もしかしたら、あんたたちが初めてお出迎えした外の世界の方なのかもしれないわねえ」
「じゃあ、じゃあ! ペルロもお外から来たのかな!」
「可能性はあるわねえ。森から突然現れたんだから」
子供たち、一気にテンション上がる。
ぼく、一気にテンションが下がる。
なるほど、自分が直接守護している聖地なら、ぼくを見張って、精霊神の言う「歪み」が正されるのを確認できる、ってわけか。
だけど。
諦めると思うな精霊神。意地でも帰ってやるからな!
「ペルロさんいらっしゃい!」
「ペルロさんようこそ!」
決意を固めているぼくに、水や干し肉を持ってくる二人の子供。
あの……ぼく、聖地に巡礼で来たんじゃないんです。精霊神に姿まで変えられてすっ飛ばされた結果なんです。いや、イコゲニア家が外から来た存在を受け入れる役目があるんならぼくが恐らくは初めてのお出迎えだろうから嬉しいのは分かるけど……。
「そういうお出迎えは、ペルロにはいらないんじゃないかしらねえ」
「なんで?」
「犬が一頭で試練の旅に出るとは思えないもの。誰か、人と一緒だったはずよ。そしてその誰かが今はいない。それはペルロにとっては悲しいことじゃない?」
「あ……」
「そっか……」
しゅん、と落ち込む子供たち。
うん、歓迎されると困るの。
ぼく、大陸には要らないってすっ飛ばされてきたんだからね。精霊神直々に。
「もしかしたら、後から来るかもしれないから、そうしたらちゃんとお出迎えしましょうねえ」
「「はーい!」」
お出迎えごっこが終わったので、落ち着いて水を飲める。
なるほどね。
水を飲みながら考える。
欲しい情報は大体手に入った。
ここは日没荒野の果てから繋がる大陸とは別の大地。
幾人もの信仰者や空飛ぶ町ペテスタイが目指した、精霊神が直接治める聖地。
そして、誰も帰ってこなかったという伝説の向こうで、何人……いや、もしかしたらもっとたくさんの人が、この聖地に辿り着いているらしい。
問題は……聖地から出る方法だな。
大陸と聖地は、少なくとも東に向かって真っ直ぐ進んだら着くような簡単な場所じゃないらしい。……西に向かって真っ直ぐ歩けば誰でも必ず着くんだったら、西の祈りの町が廃れるはずがない。そんな情報でも一つ入ってきたら、人間全員精霊神の聖地を目指して歩きだす。いや、動物も、鳥も。自力で地面を歩ける生き物なら、全部が移動開始する。
そして、闇の精霊も。
闇の精霊神の下にいたり、その影響を受けて闇に変化した精霊たちは、獣や植物、時には人間の内に入り込み、その枝葉を伸ばして大陸に広がって行こうとする。大陸の北端、東端、南端は闇に侵食されて人の住む世界ではなくなっている。そして今、その果てに聖地を抱えた西の端から人間が撤退した。
中央付近にある町も、恐らくは影響を受けてエアヴァクセンやファヤンスのように崩壊を始めている。町の長が己を律して町を治めていれば、闇の影響を受けることは少ないけれど、デスポタやミアストのような人間は闇に影響されて悪い方へと流されていく。
そもそも、スキルは闇の精霊神の
好意で与えられたのは確かだけど、それでも大きな力の持ち主が自分を制御できなければ、悪い道に飛び込んでいく可能性が大きいから。
……そうか。
今になって
スキルを最優先する風潮が、それを進めてしまった。
レベルの高いスキル、強いスキル、と町が求め始めて、集まったスキルから闇が少しずつにじみ出し、影響し、世界中で崩壊が始まり出す。
精霊神の力が大きすぎるため、大陸と人間を守るために秘かに置いていた精霊や精霊小神だけの力では、間に合わなくなってきたから。
自分が出ないとまずいから。
だから、ぼくという存在を作り出して、スペランツァを作った時と同じに、見本の町を造り出して、大陸中に広めようと思っていた。
ところがそのぼくが反抗したから、自分自身が出てきたのだ。慈しんできた大陸を、闇の精霊から守るために。
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