第285話・精霊神の聖地
人間は、闇の精霊神様が最後に残した贈り物、スキルという精霊の力を貰いました。
精霊の力を得た人間たちは、それぞれ「くに」を作り、同じ意見を持つ同士で集まるようになりました。
そして、互いに争うようになりました。
「いくさ」のはじまりです。
闇の精霊神様の贈り物は、憎しみを持つ人間には呪いでした。
憎しみを持つ人間は、スキルという力を「いくさ」に使うようになりました。
大地は荒れに荒れ、追い払われた闇の精霊神様のお力で歪んだ動物や植物が増え、怒りと悲しみが世界を覆いました。
光の精霊神様は、大地に力を使う決意をしました。
宿る肉体を作り、憎しみを抑え込むことのできる強い人間を集めました。
そこで分かったのは、人間が思ったより幼いこと。
誰かと一緒じゃないと、人間は生きていけないのです。誰かと争わないと、人間は自分の立場が分からないのです。
だから人間はわざわざ「くに」を作ったのだと納得した精霊神様は、憎しみで力を振るう「いくさ」をしない「まち」、「はじまりのまち」を見本として作って見せました。
「まち」は素晴らしい出来でした。憎しみで力を振るうのではなく、信頼する同士で力を合わせる。それは素晴らしいことだと、人間は皆そう思いました。
光の精霊神様は「まち」のために色々分かりやすい、人が闇の呪いから身を守るために守らなければならない「おきて」を人間に与えました。
そして、闇の精霊神様が人間の魂に残していった「スキル」を大人になってから目覚めるように制限をかけました。
憎む心を持つ人間が、憎むことを止められない子供の時から、強い力を持っていたら危ないからです。
そして、闇の精霊神様が残した凶暴な獣や闇に歪んだ生き物を大地の外側に追い出し、人間が住める所として「大陸」としました。
そして、大陸が安定し、「まち」と「おきて」が行き渡ったことを確認して、光の精霊神様は「はじまりのまち」と共に大陸を去りました。
そして、はじまりの町を作るのを手伝った人たちに、小さな大地を作り、そこに「はじまりのまち」の人間を住まわせました。
闇によって歪む前の広い大地、「大陸」と同じ、豊かな世界でしたが、歪んだ闇は光の精霊神様にも消しきれませんでした。
歪んだ闇はそっと大地に入ります。
「大陸」のあちこちや、心の弱い人の中に入り込んで、「大陸」を闇に染め、そして「小さな大地」にもその手を伸ばしてきました。
でも、はじまりのまちの民は心の歪んだ闇を「ダメ」と言える強い心を持っていました。人間に入り込もうとした歪んだ闇は、仕方なく、森や草原の獣の中に入り込みました。
そして、人間を襲います。
でも、人間は知恵や経験で危険から身を守ることができます。
それが、光の精霊神様が最初に人間にくださった贈物です。
人間は、光と闇の精霊神様からの贈り物を、上手く使わないといけません。
上手く行けば、小さな大地のように豊かで実り多い世界になりますが、失敗すれば、「大陸」のように、雨の降らない土地、植物の生えない土地、凶暴な獣ばかりが住む地になってしまうそうです。
わたしたちは、そんなことにならないよう、努力しなければならないのです。
この小さな大地を、豊かな場所であるように、守ること。それが、はじまりのまちの末である、わたしたちがやらなければならないことなのです。
◇ ◇ ◇
「めでたし、めでたし」
マトカさんの語りが終わった。
小さな、大地?
「小さな大地って、ここ?」
「そう。わたしたちが住んでる、この大地」
じゃあ、ここは大陸じゃないってことか?
大陸とは別に作られた、はじまりのまちスペランツァの末裔が住む土地?
「このお外にも大地があるの?」
「そうよ。広くて、精霊神様の声が届かない世界」
ぼくはマトカさんの語った昔話を頭の中で整理していた。
凶獣や魔獣は大陸に当たり前にいる。闇の精霊が造ったと言われる、人間を狙って襲う凶暴で強い獣たち。
大陸では、いくら家の近くとは言え人噛み蛇の出る場所に子供だけで行かせることはあり得ない。子供の足では逃げ切れないほど、人噛み蛇は素早いのだ。そして、今のぼくのような仔犬では到底倒せない。あの時はぼく自身も興奮していたから気付かなかったけど、こんな体の仔犬一匹が食いちぎれるような弱さは大陸の人噛み蛇にはない。
首を狙った瞬間巻き付いて噛み殺されるか絞め殺される。
それにもうちょっと早く気付けば、この場所の正体に気付けたかもしれないのに。
ここは、精霊神の守護を直接受ける聖地なんだ。
なるほど、ぼくを大陸に戻さず、
ムカつくー!!!!!
「お外の大地の人たちは、ここに来れないの?」
「精霊神様の試練を越えた人ならば。この小さな大地に来ようと思って、何もない場所を自分の弱さを乗り越えて歩き続けられる人ならば」
……ん?
試練……何もない……聖地に向かう……?
まさか?
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