第284話・昔話
「でも、ペルロってどこから来たんだろ」
マトカさんに習った通りにぼくの毛をブラッシングしながら、ツェラちゃんが不思議そうに言う。
「せーれーしんさまのおみちびき?」
フィウ君、一生懸命難しい言葉使ってるんだろうけど、その棒読みで意味が分かってないって分かるよ。
「精霊神様のお導きなのは確かでしょうね。この聖地に元からいたのか、外から来たのかは分からないけれど」
聖地? 外?
何それ、聞いたことない。
精霊神の一割とは言え、ぼくは精霊神の記憶のすべてを持っているわけじゃない。恐らくは新しいスペランツァを作る以外の知識は切り離されているんだろう。
耳を持ち上げて、何事も聞き逃さないようにする。
「せいち?」
「そうよ、聖地。わたしたちのずーっとずーっと前のおじいちゃんやおばあちゃんが、精霊神様に連れてきてもらった場所。ここ」
え? マジで聞いたことがない。
マトカさん?
「そうね、フィウにはまだその話してなかったわね」
マトカさんはソファの真ん中に座る。子供たちがその両端に座る。マトカさんがおいでおいでをするので近付くと、マトカさんはぼくを抱き上げて膝の上に乗っけした。
「お話してあげる。あんたたちの御先祖様が、この場所に来た時のことをね……」
◇ ◇ ◇
むかーし、むかし。ずっと、むかし。
形あるものが何もない世界には、形がない、でも力を持った、精霊だけがいました。
そして、一番力を持つのは、光の精霊神様と闇の精霊神様でした。
形あるものが何もない世界で、ある日、光の精霊神様と、闇の精霊神様は、その力をぶつけ合いました。
光と闇が混ざって、濁って、形ができました。
光の精霊神様と、闇の精霊神様は、「これは私たちが作ったのだから、これからは私たちが大事に大事に
でも、大地には何もありません。
寂しくなったお二方は、大地に水を作り、植物を作り、水や植物に力を与える精霊を宿しました。
大地は色を持ちましたが、それでも動くものはありません。
寂しくなったお二方は、魚を作り、鳥を作り、動物を作り、彼らに力を与える精霊を作りました。
大地は賑やかになりましたが、それでも鳴く声しかしません。
言葉が聞きたいと思ったお二方は、自分たちに近い存在を作りました。
精霊神様と違って形を持っていて、でも精霊神様と同じに、考え、悩み、笑い、悲しむ、感情を持った生き物。
お二方は、それを、人間、と呼びました。
闇の精霊神様は、人間に精霊を与えようとしましたが、光の精霊神様はそれはやめなさいと言いました。
人間は、既に知恵を持っているのだから、いいだろうと。
知恵があれば、精霊がなくても十分に生きていけるのだからと。
だけど、闇の精霊神様は言いました。
他のものに精霊を与えたのだから、人間にも与えないのは不公平だろうと。
光と闇の精霊神様は、人間に精霊を与えるかどうかで、意見が分かれ、いがみ合うようになりました。
小さな精霊たちも光と闇に分かれていがみあい、そして憎み合い、最後には争うようになりました。
小さな精霊たちの争いは、大きくなり、やがて、精霊神様までもが争うようになりました。
でも、精霊神様が争い力をぶつけ合うと、形ができあがります。
憎しみの力がぶつかり合ってできた形は、とても恐ろしく、怖く、凶暴で、危険なものでした。
形だけではありません。
光と闇から生まれた生き物たちも、憎しみを持った闇の力に影響されて、乱暴に、凶暴に、恐ろしい生き物になりました。
それに気づいた闇の精霊神様は、どんどん力を振るいます。
光の精霊神様が、もうやめよう、これ以上争っては大地が壊れてしまう、と言いましたが、憎しみと争いを覚えた闇の精霊神様は、作られたものは壊れるからよいのだ、と言って、争いをやめようとはしませんでした。
闇の精霊神様は、争いで、心が歪んでしまったのです。
それだけではなく、人間に、歪んだ精霊を与え、それまで真っ白で純粋で優しかった人間は、歪み、憎み、呪うようになりました。
このままでは、大地も、そこに生きるものも、すべてが壊れてしまう。
光の精霊神様は、闇の精霊神様を世界から追放する決意をしました。
光の精霊神様と、光の精霊神様の下にいる小さな精霊たちは、全員が集まって、闇の精霊神様を呼びました。
呼ばれた闇の精霊神様は、これは光の精霊神様が負けを認めるのだ、と思って、喜んで現れました。
世界に現われた、その一瞬の油断。
その一瞬に、光の精霊神様と精霊たちは全力を尽くして、闇の精霊神様を世界から弾き出しました。
ですが、闇の精霊神様は、最後の置き土産を残していました。
精霊の力を、人間に宿したのです。
人間は、もう真っ白な生き物じゃありませんでした。
知恵を持ち、怒り、憎み、呪う心を持った生き物でした。
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