第282話・プラムを持って
「ぼーく、らはー! プーラームをー! たーくさんみーつけたー! プーラムー、団ー!」
フィウ君絶好調。で、それ自作ですよね。何処の世界の吟遊詩人も「プラムを採りに行く歌」なんて歌いませんよね。
「フィウ、うるさい」
かなりの量のプラムを籠に入れて持っているので手を離せないツェラちゃんが苦情を訴えるけど、自分もかなりのプラムを抱えたフィウ君の耳には入らない。
「おーうーちーへーかーえーえーってー、プーラームーをー食ーべーよー!」
……うん、まあいいか。
人の気配がすれば普通の獣は出てこない。こんな大声で歌っていれば余計にだ。
魔獣凶獣は積極的に襲って来るけど、そいつらの気配はここにはない。
よって、現在のところ、安全。
ぼくを挟んでツェラちゃんとフィウ君で並んで歩く帰り道。
うん。プラムの甘い香りがプンプンする。
蜂とかが寄ってくる可能性があるので、小さな精霊たちに頼んで小さな虫たちを追い払ってもらう。
うん。蜂に刺されたら毒とか絞り出すの大変だもんね。犬の身体じゃできないし。危険は先に追い払っておくべき。
てってってってっと歩く。フィウ君の謎の歌についリズムを合わせて歩いてしまう。フィウ君の歌は四つ足にリズムが合うらしい。だってフィウ君は何故か足取りと歌のリズムはあってないし(よく歩けるな)、ツェラちゃん滅茶苦茶歩きづらそうなんだもん。
「フィウー、歌やめてー」
「プーラムーはおいしーのーだー!」
はい、プラムは美味しいです。でも家が近いのでそろそろ歌はやめて。
ふと、足を止める。
小さい精霊の気配が、わらわらとしている。
なんだ?
辺りを見回す。
精霊神の一割に反応して寄ってきたのか?
「ペルロ?」
歌の隙間からツェラちゃんが声をかけてくる。
「くん?」
上を見上げると、ぼくを覗き込むようにするツェラちゃん。
「何か、いるの?」
さすがは猟師の娘、ぼくがさっきまでと違うことを察したようだ。
そして、森を、甘く見てない。
獣が気配に敏感というのも知っているんだろう。だからこそマトカさんがぼくをついて行かせたってことも。
ぼくの様子をよく見ている。
うるさい歌に反応しなくなったので、何か考え事をしていると気付いたんだろう。
ゴメンツェラちゃん、心配させた。
尻尾を軽く振って変わらず前へ歩くと、ツェラちゃんはちょっと安心したようについてくる。
この辺りはこの季節だけかもしれないけど、大陸では珍しい程過ごしやすい地域だ。
太陽は心地よく、水の匂いがする。獣は森に棲み、途中途中で見える、イコゲニア家のように町に頼らず暮らしている放浪者の家族が作ったであろう隠し畑は収穫物でたくさんだ。
一年中こんな感じだとしたら、町の保護はいらない。各々が狩って飼って収穫して生きていける。
何で
「「ただーいまー!」」
元気よく帰宅の挨拶。
「はいお帰りなさい。早かったのね」
「ペルロがね、プラムたっくさんある場所見つけたんだよ!」
「ちゃんとあたしたちのこと見ててくれた! 変なのいないか探してた!」
「はい、ペルロ、ご苦労様」
どう致しまして。この程度、仕事の内に入らない。
出された水を飲む。どうしても反射的に手が出そうになって前足を出して皿のふちに手を引っ掛け、ひっくり返しそうになるのを何とか堪える。
で、顔を突き出して水を飲む。
「あらあら、いいプラム」
「ペルロが見つけたの! ペルロが!」
「そう。人噛み蛇を見つけたことと言い、鼻が特別いいんでしょうねえ」
「ぼくね、おっきくなったら、ペルロと狩りに行く!」
「ペルロはお留守番なの! あたしと一緒!」
「はいはい、こっちはジャムにするから、切って種を取ってちょうだい」
ぼくの将来で文句を言い合っていた二人が、小さなナイフと少し若いプラムを渡され、黙って作業に入る。
うん、プラムジャム、美味しいもんね。
一口大に切り、種を取る。結構な数あるプラムを黙々と切り分ける二人。行き帰りのあの妙な歌に、「プラムを切る歌」というものはないらしい。それとも刃物を歌いながら使うなと躾けられているのかな? うん、刃物使ってるとき歌に夢中になるとヤバいもんね。
「ペルロはジャム、食べる?」
「さあねえ。多分食べないと思うけど」
「なんで? プラムのジャム、美味しい」
「人間と獣の味覚は違うから」
「ペルロ、獣?」
「大きく分類すると獣ねえ」
はい。プラムジャムはぼくも好きですが、なんかこの身体で甘いものは食べちゃいけない気がひしひしとします。干し肉とパンと水で充分です。時々でいいから大きめの肉をくれると嬉しいです。
水を飲み切って、ぷふぅ、と息を吐き、ドアに向かう。
「はいはいおしっこね。行ってらっしゃい」
ドアを開けてくれるマトカさん。直接言わないでください。見た目は仔犬ですが中身は十六過ぎの成人男性です。
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