第281話・プラム採り
「あーるーいーてーこーうー♪ どーこーまーでーもー♪」
森の、地元の人が作った道を歩きながら、フィウ君はご機嫌に、拾った棒を振り回しながら歌っている。
「ぼーくーらーはーかりうどだー♪」
ぼくはそのフィウ君の一歩前を歩く。
今のところ、怪しい気配はない。
森は、目に見えない精霊がたくさんいると言われている。
その精霊たちがぼくの所に集まってくる。
恐らくは、精霊の主とか創造主とか言われている精霊神の一割の気配を辿って来ているんだろうな。
これだけ精霊が傍に寄っていれば、敵意ある獣は寄ってこないだろう。
問題は、人噛み蛇のような闇精霊の残滓の影響を受けた、魔獣や凶獣と呼ばれるような獣だ。
そいつらは人に害意を持っているから、ガンガン襲ってくる。もっとも基本的に獣の本能も残っているので、普段は森の奥深くの巣穴に籠っている。腹が減った時は周囲の獣を仕留める。獣を襲うのは腹を満たすため。
人を襲うのは明確な害意の表れだ。
あちこちの気配を探りながら、歩く。
仔犬の姿になったせいか、人間の姿だった頃に気付かなかった気配が感じられる。
精霊とか、魔獣凶獣とか。昨日の人噛み蛇も、気配を感じ取って先制攻撃が出来た。
もしかして、これが浄化なのか?
人間より精霊に近い獣……の中でも更に精霊に近い赤ん坊や子供の姿にして、精霊に近付けて、人間っぽさを失くしていく作戦か?
……いやいや、それは帰ってから考えるべきだ。
今のぼくの仕事はこの二人を守ること。一宿一飯、護衛一日分。この姿ではそれしかできないから、パテルさんやマトカさんの期待は裏切れない。
嫌な気配がないか、辺り一面に意識を飛ばして探る。
大丈夫、嫌な気配はない。
人の目には見えない精霊たちも、そんな気配はないという意識を伝えてくる。
精霊神の一割であるぼくに精霊が嘘を吐くことはない。だから、この辺りは大丈夫。
尻尾をバランスを取るように揺らしながら歩いていく。
くん、と鼻に届く香り。
甘い。
振り向いて、一声鳴く。
「どうしたの?」
ツェラがてくてくと歩いてくる。
ぼくは少し前に出て、辺りを見回した。
「あ! プラム!」
「もう少し行った所にあると思ってたのに」
「すごいねー。ペルロは果物のあるところも分かるんだー」
尻尾をはたはたさせると、二人はプラムを採り始める。
二人から目を離さないように、ぼくはプラムの木の根元に座る。
じっと二人から離れないように見ている。
「プラム~。ジャム~。干しプラム~」
「おいしいおいしいプラム~」
変な歌を歌いながら二人がプラムを採る。
うん、みんながこういう顔で果物を採れるような町。そう言うのが作りたかったんだ。
……第二のスペランツァではこんな町は作れない。
他の町の手本となる町……それは、人が住みやすい町じゃない。モデルケースなんて、常に周りから正しい町の住み方を見られている、窮屈な町。
みんなでワイワイしながら過ごせる町。それがぼくの望み、願い。
お手本なんかいらんのだ! 欲しいなら自分で作れ! 人の作ったものを勝手に持ってくんじゃない! しかもぼくを追放までして! キーッ!
グランディールはグランディールだってーの!
……っと、いけない。今のぼくの役目は護衛だった。
再び二人に視線を戻す。
キャッキャ言いながらプラムを集める二人。
今のところ変な気配はない。
でも、目を離した瞬間に何をしでかすか分からないのが子供ってもの。アナイナも母さんが目を離した隙にふらっと消えて全然別の場所に現われる自由人な子だった。いや、今も自由人かも。
多分グランディールでは精霊神がぼくと入れ替わって仕事してるだろうけど、アナイナやアパルやサージュ、気付くかな。
多分あいつは、ぼくの仮面を使っている。
あの空間で、精霊神がぼくの顔から引っぺがした何か。多分、それがぼくを演じる鍵、ぼくが使っていた町長の仮面と同じもの。
ぼくの顔からひっぺがしたぼくらしさ。その仮面をつけていれば、精霊神はぼく以上にぼくらしいぼくを演じることが出来る。
だから、逆にぼくを知っている人がぼくじゃないと見抜くのは困難。
精霊神は、ぼく以上にぼくらしいからだ。
何処かでぼくらしくないという矛盾点を見つけて疑問に持ち、ぼくを探す……。
でもぼくの消えた先はぼくですら分からない。こっちから連絡を送る術もない。
自力で帰って、精霊神をとっちめて元の姿に戻させるしかない。
さて、どうするか……。
「ペルロ」
ん?
両手で籠を持っているツェラちゃん。籠の中はプラムでいっぱい。
「いっぱい採れたよ! ありがとねペルロ! こんな場所教えてくれて!」
いえいえ、どう致しまして。ここなら安全でいいプラムが採れると精霊たちが教えてくれたおかげです。
「じゃあ帰ろう! ペルロ、行こ!」
……ダメだな。お仕事中に考え事したら。
うん、グランディールのことは、イコゲニア家にいる時に考えよう。この二人に何かあるとぼく責任とれないもんな。
ぼくは二人を先導して、イコゲニア家への道を歩き出した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます