第269話・一番強いのは?

 我ながらお人好しとは思うけど、ぼくはこれで許す気にしている。


 だけど。


「しばらくグランディール町民からの風当たりは強いと思う。だけどそれでキレたりしたら、その人には町から出て行ってもらうから」


 西の民は一つ頷いた。


「じゃあ、今日はここまで」


 ぱん、と手を叩く。


「反省したなら、それは態度で示して欲しい」


 ぼくはエキャルを呼び、頭に乗せるとアパルやサージュ、ヴァリエにアナイナとプレーテ大神官と共に広場を出た。



     ◇     ◇     ◇



「これで丸く収まるって思う?」


 ぼくの後をついてきながら、アナイナが聞いてくる。


「まさか」


 ぼくは肩を竦める。


「そうですな」


 プレーテ大神官も髭を撫でながら頷く。


「西の民の辛抱強さと耐え忍ぶ精神と共に、精霊神に選ばれてあそこに住んでいたという選民思想とでもいうべきものは根が深い。代が経てばある程度減るとは思いますが、当代は難しいとは思いますな」


「難しいって分かっててみんなを許したってこと?」


「高い存在から自分は選ばれたって言われて、嬉しくない人は少ないと思うよ。アナイナだって聖女って言われた時嬉しかっただろ?」


「う……ま、まあ」


「選ばれたことには責任が伴って、その言動は選んだ相手にも届くってことを分かれば、自重するようになるだろ」


「そうだね。精霊神の名をうたった言動が、精霊神を地に落とすということを、ラガッツォも言ってたね」


 ぼくのいない間にラガッツォがきっちり言っておいてくれたらしい。


「三人もきっちり見張って、ヤバい場合は直接指導するって言ってたから、大丈夫……かな? なのかなあ?」


 クイネとその食堂を傷付けたことを許していないアナイナが首を傾げる。


「三人が、しばらく西の民が大勢集まるところに一人ついて、言動とかをチェックするって。精霊神様はそのために自分たちを神殿から出られるようにしたのかってヴァチカがすっごく感心してた」


「んー、でもそれってまずくないか? ヒロント長老に長老の座を譲れっていうような奴がいるんだぞ? 聖職者とは言え成人したばかりの相手に指摘されてキレないとも限らないぞ?」


「その時は周りを囲んでフルボッコって言ってた」


 ……まあ、一人指摘されて全員キレなきゃ何とかなる……のか?


「しばらくはぼくも集まりの所に行って確認するようにするよ」


「私たちも時間がある時は町を回ります」


「だな」


 アパルとサージュも頷いた。


「わ、わたくしもお手伝いを」


「「「「ダメ」」」」


 ヴァリエの申し出に、プレーテ大神官以外の全員の声がハモった。


「お前この町来たばかりの時どれだけ喧嘩売って回ってたか忘れたか」


「「騎士」と言う選民思想で周りを見下しまわってたよね」


「町の全員敵に回しかけてただろ」


「まあ、正直、西の民を何とか出来るのは」


 ぼくは青い空を仰いだ。


「彼らの希望の三聖職者と、ヴァリエのやらかしを怒ってきたアナイナと三女傑くらいかなーとは思ってるけど」


「三女傑、ですかな?」


「はい。町の古い方のメンバーに入っていて、妹や寝ないデザイナーとかを叱りつけて生活指導してきた女性三人です」


「ファーレ、シートス、フレディだな」


「というか三女傑の中に俺の嫁さん入ってるのはなんでだ」


「そりゃあ」


 ぼくは言いかけて言葉を飲み込んだ。


「まあ、結婚した女性は強いと言うことですよ」


「じゃあシートスが入ってるのはなんでだ。彼女は独身だろうが」


「男装して盗賊団の一員だったんだぞ? しかも盗賊な周りの男共の生活指導してたんだぞ? やってること変わらないだろ」


「盗賊団の一員?」


「ああ、聞かなかったことにしてください」


 うおっと、プレーテ大神官がいたんだった。ぼくは手をひらひらさせる。


「なるほど、まあ出来たばかりの町は仕方ありませんし、今何をしているわけでもないのですから私は聞かなかったことにしますよ」


 さすがはお爺さん話が早い。


「で、三女傑はどれほど強いのですか?」


「まあアナイナやヴァリエをしつけ直したり、デザイナーで興奮すると何徹でもするシエルの生活指導をしたり、明日偉い方と会うと言うのに徹夜して本を読もうとする誰かさんに鉄拳指導したり」


「誰かさんって誰だ」


「心当たりのある誰かさんだよ」


 アパルとサージュが目を逸らす。


「ていうか、人の奥さんにプライド高い人間の生活指導させるなよ。誰かに殴られたらどうすんだ」


「殴られたら殴り返すだろあの三人」


「殴り返すだけじゃなくて泣いて謝るまで説教し倒すね」


「あの方たちならやりますね」


 ぼく、アナイナ、ヴァリエ。


 心当たりがあるファーレの旦那のサージュは黙ってしまった。


「女性は強いのですよ」


 ほっほっほ、と笑うプレーテ大神官。……お爺さんって呼んじゃっていい?


「強すぎる……てか俺そんな強い嫁さんもらった覚えない」


「女性は守るべき相手がいると強くなるのですよ」


「最初は俺が守ってやろうって思ってたんだが……」


「頼りなかったんじゃ?」


 ぼくの一言に拳骨が落ちた。


 ごめんなさいです。

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