第267話・どんな罰も
「ここは良い町です」
帰りの道を歩きながら、お爺さん……プレーテ大神官は感慨深げに言った。
「人々が皆、前向きです」
「それだけは保証できます」
ぼくは頷いた。
「どん底からの始まりでしたから、もう上に行く道しかないと。ぼくのスキルで小さな共同体のような町が出来てから、一生懸命頑張ってきました」
空を飛び。家具を作る力で名前を売り。トラブルに立ち向かい。
「みんながいなければ、グランディールは出来ていない。それだけは言えます」
「やはり西の民は別の町に託したほうがよろしゅうございましたかな」
「ああ、いえいえ。西の民を受け入れるとしたのはグランディールの総意ですし、反省してもらって繰り返さなければ文句もありません。その前に西の民がやったことを目の前に突き付けなければ」
まず、こちらがどんなことにどんな思いで怒ったかをしっかり言っておかなきゃだ。
何をしたら怒って何をしたら喜んでくれるのか。それを知るのが仲良くなるコツだと思うので。
「貴方の言葉は正しい」
プレーテ大神官はニコニコと笑いながら頷く。
「西の民は、その二つを調べようともしなかった。グランディールの民は自分たちを救いに来た……いや自分たちに仕える為に来たと、大いに勘違いをして応対してしまったのですな」
「それはこちらにも落ち度がある」
ぼくは溜息をつく。
「彼らがグランディールに来てすぐ、ぼくは彼らの望みを無償ですぐに叶えてしまった。こんなこと簡単だと言わんばかりに。だから、彼らはグランディールが彼らの望みを叶えるために来たと思い込んでしまった」
神殿。
彼らの望み通り……いやそれ以上の神殿を苦労もなく作り上げてしまったから、西の民の勘違いは加速してしまったんだろう。ぼくたちは、西の民の望みを叶える為だけに来たのだと。
だから、要求は無茶なものだった。
大神官や聖女を通して精霊神に捧げる穀物とか、陶器とか。だけどグランディールの町スキルはそんなふわっとした要求は答えられない。だからできない。だから腹を立てる。
自分たちの望みを叶える為の存在なはずが、自分たちに与えられた聖女様に相応しくない扱い方をしていたり、聖女様に相応しくない友人が町民だったりすると、どうしてお前たちが我々の聖女様をそんな風に扱うんだ許されんとキレたり。
ああ、他の町の神殿に送る陶器を手抜きしろってのも言ったっけか? 普通、町の力を見せつけるために最上級のものを、と言うところでしょーが。
今頃西の民は四人の聖職者に怒られてるだろう。それが終わった頃にサージュがグランディールの今回の一件による被害を教える。クイネの食堂の壁もそうだし、畑を荒らしたり学問所に乗り込んでチチェル先生たちに散々暴言を吐いたり、陶器商会で町の売りの一つである陶器を適当に扱われたことも言われてるな。前からいた長老を取り替えろも言ったし。
そこで西の民がどう出るかだ。
反省の色がなかったら……町を出てもらうしかないだろうなあ。
「西の民がグランディールを出ることになったら、スピティの上位神殿で相談に乗ってくださいますか?」
「無論。しかし、そうならないことを祈っておりますがね」
グランディールの会議堂付近をぶらっと歩いて、ぼくたちはもう一度出島の神殿へ戻った。
「さて、どうなっておりますかな」
「上手くまとまってるといいんだけど」
広場をそっと伺う。
そこにある景色は。
正直に言うね。
葬式だわこれ。
広場にいる人たちは涙を流し、鼻水も流し、目を真っ赤にして、しゃくりあげていた。
「…………?」
「お兄ちゃん! プレーテ大神官様!」
アナイナが
「いつの間にかいなくなっちゃうから……」
「悪い悪い。ぼくらがいない方が話がまとまると思ったから」
で? とアパルと、いない間にやってきたんだろうサージュとヴァリエがいた。
「グランディールの受けた迷惑を事細かく教えた。それが西の自分たちの町の中では通用してもこちら側のどの町に行っても通用しないということも」
「で、この涙?」
「さすがに恥ずかしくなってきたらしい」
うん、ミアストと違うのは、西の民は羞恥心も持っているということ。
これこれこういうことでここではその考え方は通用しないって教えて、町の人たちがこう思って、あなたたちに対して怒っていると伝えれば、自分たちの行いを恥ずかしく思う心がある。
何とか丸く収まってくれるかなあ。
リジェネさんがぼくを見て、駆け寄ってきた。
「申し訳ありません、クレー町長、プレーテ大神官様!」
五体投地して謝るリジェネさん。
「民には、これがグランディールでは通用しないこと、グランディールの民を
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