第262話・不平不満をぶちまけろ

 西の民への説明に、西の代表者たちとプレーテ大神官、ラガッツォ大神官、聖女アナイナ、癒し手ヴァチカ、そしてぼくとアパル。


 サージュは結構きついことを言うのでちょっとあっち行っててねということだ。その代わりにグランディールの民に西の民に念押ししてるから、と伝えてもらう。


 神殿に続く通用口に向かうと、シーとファンテが苦い顔をして待っていた。


「町長」


「二人とも、これは」


「……分かっています。グランディールの民の顔が苦々しかったのにも気付いています」


 グランディールの町と神殿を繋ぐ通用口を守る二人なら知っていただろう。西の民の暴走とそれに対する先住の人たちの不平不満鬱屈を。


「本当にごめんなさい。わたしとファンテでみんながここを通らないよう守らなければならなかったのに」


「気にしちゃいけない。あなたたちの役目は、グランディールの民を守ること」


「それを……」


「西の民だって、グランディールの民なんだ。そうだろ?」


 ニッと笑って見せると、シーはそっと涙を拭い、ファンテはビッと背筋を伸ばした。


「……ありがとうございます!」


「……感謝します」


 西出身の二人は深々と頭を下げた。


「周りに惑わずおのが仕事を遂行した誇り高き二人に精霊神の祝福を」


 プレーテ大神官に言われて、立った姿勢ではそれ以上無理なんじゃないかってくらい頭を深く下げた二人。


 うん。この二人は冷静。聖職者四人うち三人おらが町状態に浮かれることなく自分のやらなきゃいけないことをやっていた真面目な人。


 西の民も、少し冷静になれば分かるはずだ。


 初めて会った時の、謙虚で礼儀正しい様子は覚えている。ポリーティアーの民だけでない、全員を助けたいのだというぼくの言葉に涙を流して喜んでくれた人たちだ。本質はいい人たちなんだ。ただ、自分たちが一番精霊神に愛されていると絶妙に勘違いしているだけで。


 その勘違いを何とかしないと、西の地が聖域でなくなった今、他の地で西の民がそんな態度を取ったら色々大変なことになる。西の民の評判自体落ちる。


 そして、そんな民を連れ出したグランディールも。


 グランディールの一員になった彼らの行動は、イコールでグランディールの行動になるからな。何とかこれを正さないと、大げさに言うと大陸の為にならない。


 はふぅ。気が重い。



     ◇     ◇     ◇



  ぼくたちの接近に気付いたマーリチクが、神殿の外に出入り口を作って、一行が来たことを気付かせずに神殿に招き入れる。


「どう?」


「どうもこうも」


 行動的な妹ヴァチカと違って内向的なマーリチクは、ちょっと肩を竦めた。


「僕の言葉を聞きもせず神殿に押し入ってくるよ。その度に出口に繋げてるけど」


「……神殿も自分たちだけで造ったって思ってんなみんな……」


 ラガッツォが呟いた。


「うん。……僕の言うことなんてお構いなしだ」


「守護者、の言うことかね?」


「えぇと、こちらは」


 マーリチクの問いに、ヴァチカが答える。


「スピティの大神官プレーテ・ガイストリヒャー様」


 途端に直立!


 同じスキルでも、長い間大神官を務める存在は、一段上に見られる。ましてやスピティなんて大規模な町の大神官をずっと続け、町と神殿の間を繋いでいる大物だ。信仰心が高いのを自慢する人間は、自慢する人間ほどプレーテ大神官には逆らえない。


「では、最初に聖職者四人とぼくとアパルで出るから、機を見てプレーテ大神官が出てきてください」


「分かりました」


 恐らくはプレーテ大神官が出ないと西の民は言うことを聞かない。だけど、最初からプレーテ大神官を出すと「大神官様がいらっしゃったから言うことを聞く!」になってしまう。


 それじゃダメなんだよなあ。



 広場にラガッツォとマーリチク、ヴァチカ、アナイナが姿を現すと、西の民は歓声を上げた。


 続いてぼくとアパルが出て行くと、歓声に「ん?」という疑問形が混ざる。


「悲しい知らせがある」


 ラガッツォは全員に聞こえるように、声を張り上げた。


「西の民が、救い主であるグランディールの民への恩を仇で返しているということが分かった」


 一瞬、静まり返り。


 辺りから反論が沸き起こった。


「忘れているのはグランディールです!」


「神殿と聖女と大神官を持つ町でありながら、全く信仰心がなく――!」


「我々は神殿と聖職者に相応しい町にしようと尽力しただけ!」


 あー。


 出会ったばかりの頃のヴァリエを思い出すなあ。


 勝手にぼくを主と定めて飛んでまで逃げたのについてきたあの頃のヴァリエだ。


 ラガッツォは首を二・三度横に振ると、溜息をついた。


「では、今の西の民は、神殿と聖職者に相応しい民だと言えるのか?」


「勿論!」


「当然ですとも!」


「グランディールの民に無用な迷惑をかけ、不愉快な思いをさせたとしても?」


「それが、グランディールの為だからです!」


「どう、グランディールの為と?」


 ぼくの声に、西の民は一斉に文句を吐き出した。


 空飛ぶだけで偉そうにだの信仰心もない癖にSSランクになれるわけがない自分たちが来たからってことを忘れてるだのとにかく不平不満のオンパレード。


 グランディールの民の中に入ってからは平等に扱っていたつもりだけど、それでもここまでの不平不満があったんだな。


 でもなあ……西の民には寛容さがないと、これから先、何処とも一緒にやっていけない。


 ここで食い止めないと。

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