第260話・事実を突きつけられて
「西の民は信仰心と精神力が強いあまり、そこを勘違いしてしまう傾向があるのですよ」
西の二人は小さくなるばかり。
「別にぼくたち、君たちを責めてるわけじゃないのは分かってね」
ぼくは口調を柔らかくして言った。
「ただ、集団で生きるためには、何処かで妥協しなきゃいけなくて、何処かで諦めなきゃいけないことがあるんだ。西の民の人たちは、これまでずっと小さい集まりの集まりだったから、それをまだ完全に理解していないと思う」
「仰る通り……」
「今までの生活と変わったって一番納得できてないのあたしたちだわ……」
「大丈夫、妥協も諦めもしたくないって町中を騒動に巻き込んだのでも聖女になってる……いてててて」
テーブルの下でアナイナが全力でぼくの足踏んでる。
「何よそれ。誰の事?」
「ぼくの足を全力で踏んでいる、どうやら自覚のありそうな聖女様」
バッと机の下に潜り込む二人。即座に足を退けるアナイナ。
「……何やったの?」
ヴァチカが笑顔で聞く。
「や、や~だな~。何にもしてないよ~。ほんとだよ~?」
「会議中に乗り込んできたこともあったな」
「ヴァリエとエキャルと
「朝ご飯を運んでくるのにヴァリエと競い合って結局両方とも怒られたことも」
「ただでさえワガママ放題なのに、ヴァリエと張り合って更に悪化したことも」
途端に塞がる口。アパルもサージュも口を閉ざして動かない。ぼくは視線だけを横のアナイナに向ける。
「聖女アナイナ」
「はっ、ひゃい!」
「まずは三人の拘束を解きなさい」
プレーテ大神官に静かに言われ、アナイナ凍り付く。
「聖女の力は個人的な理由で使っていいものではありません。無論、自分が害されそうなときは別ですが」
「……すみません」
小声で謝るアナイナ。
途端に金縛りが解ける。
「……てかまずいこと言われそうだからって聖女の力で口塞ぐって有り得ないんじゃ」
「もうしませんごめんなさい……」
「そう、そこですね」
穏やかにプレーテ大神官は微笑んだ。
「そうやって心から謝れる態度こそ重要」
「……アナイナ、顔が」
思わず得意げな笑みを浮かべかけたアナイナが慌てて自分のほっぺを叩く。
「謝れても、心から反省のない人間では意味がありませんよ」
「……はい……」
さすがのアナイナも小さくなるこの説得力!
こればかりは人間として積み上げた年月の経験がなければできない。
見習おう。
「で、わたくしは西の民にそのことを言い聞かせればよろしいのですかな?」
「はい。さすがに何も知らなかったでは済ませられる段階ではありませんし、ぼくたちでは彼らの暴走を止めることは……」
「申し訳ありませんプレーテ大神官。おれたちが未熟で……」
「誰もが未熟から事を始めるのです、ラガッツォ大神官」
穏やかな声でプレーテ大神官は言う。
「いきなり最初から上手く行くわけがありません。先人も失敗と努力の積み重ねて、そして成功を収めたのです。貴方たちもそうなればよろしい」
「はい!」
ラガッツォとヴァチカが大きく頷く。
そこへ、宣伝鳥によって呼び出された西の代表者たちが到着した。
◇ ◇ ◇
リジェネさんをはじめとした代表者たちは、大会議室で、アナイナ、ヴァチカ、ラガッツォ、そしてプレーテ大神官まで揃っているのを見て、目を丸くした。
呼び出したのはぼくとラガッツォの連名で、何かあるかみたいな顔をした代表者さんはプレーテ大神官に視線が行って凍り付く。
「お座りください」
ぼくの声に、面々は我に返ったような顔をして、プレーテ大神官の表情を伺いながら恐る恐る座った。
「さて、皆さんを呼び出した理由に心当たりのある方は、いらっしゃいますか?」
全員顔を見合わせて、ぼくを見て首を横に振る。
ゆっくりとラガッツォがそれまで伏せていた顔をあげた。
「西の民が、信仰心を形にグランディールのあちこちで無茶を通そうとしていた」
ラガッツォの低い声に、びくっと全員が一瞬体を震わせる。
「そう言われて、心当たりは?」
「わ、わたしたちは、何もグランディールの方々にご迷惑など……」
「成人前のわたしの面倒を見てくださった食堂のクイネさんにご迷惑をかけた話は聞きましたか?」
アナイナが視線を向けた代表の一人が、目が合って竦む。多分、見覚えのある顔だったんだろう。
「陶器工房に大神官と聖女に捧げる陶器を、と注文して、形などを聞かれたらこれだから信仰心のない民は、とそのまま帰ったのは?」
別の一人が顔色を変える。
「アナイナを神殿に送らせるのに彼女の友達をつけたら、何故お前如きが聖女様を、と因縁をつけられたという話は」
一つ告げる度に、西の皆さんの顔色が悪くなっていく。
「ヒロント長老に、西の者の方が年上だから長老を譲れと」
「…………」
「聖職者に捧げる穀物を、と畑に押しかけたとか」
「他の神殿に捧げるのに適当な陶器を、と注文したと」
「………………」
プレーテ大神官は、片手で顔の半分を覆って溜息をついた。
「それが、信仰心篤き西の民の行動ですかな?」
誰も、答えない。
「どう見ても、グランディール先住の民を軽視した行いと思えますが」
「い、いえっ、違います!」
代表者の一人……リジェネさんより少し年上な女性が声をあげた。
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