第258話・直接ヒアリング

 翌朝。


 アナイナの乱入してこない朝食が終わって、ぼくはエキャルを頭に乗っけして散歩中。


 ……と言っても、呑気な暇潰しじゃない。


 西の民のやらかしを確認するためだ。


 昨日午後から、結構色々なところから苦情が来た。


 西の民の浮かれすぎ調子乗り過ぎに対する苦情が、複数。


 まだ帰らずに話を詰めていたラガッツォも思わず頭を抱えるほど、調子に乗っている。


 陶器通りでは大神官様と聖女様に捧げる器を、と注文が来て、具体的にどのような、と尋ねるとこれだから信仰心のない東の民は……とか言われて去って行かれたって。単にからかいに来たのか因縁をつけに来たのかどっちにしろ商売あがったりだとか。


 ヴァリエがアナイナを送って神殿へ行って、食堂へ戻ろうとしたら「信仰心のない者が聖女様のお傍にはべるなんて」と囲まれたのでスキルを使って逃げたとか。


 学問所のチチェル先生から、見学にきた西の民が「この程度の教育でいいと思っているとは! 聖女様を育てた学問所とは思えん!」と散々文句をつけて帰ったとか。


 もっとささやかな苦情ならそれこそ山のよう!


 このままだと、町が東と西で真っ二つ。


 それは嫌だぞ! ミアスト以下ってことになるし!


 ブルブルブルっと首を振った。


「さすがにここまであからさまだとは……」


 サージュも頭を抱えてる。


「ラガッツォ大神官の提案がなければ、俺たちだけでは押し切られていたな……」


「ぼくら、若いもんね……」


 グランディールの西の民が東の民を侮っている原因の一つが、首脳陣が軒並み若いということ。


 西の民の首脳陣も若いと言えば若いけど、年長者が乾季で亡くなったためやむを得ずに指導力のある人を選んだわけで、選ばれた理由には信仰心も当然入っている。


 一方、ぼくらは町を作るスキルがあったから、他に出来る人がいなかったから、というだけ。信仰心が高いわけでもないのに町の主に……という見くびりがある。もちろんぼくら若い人間の判断で西まで来てもらって助けられたってことは忘れてないんだろうけど、ちょっとそれに慣れたんだろう。同じ町の人間ならこれくらい許される……って甘えもあるな。


 ラガッツォが神殿に帰ってからは問題点を書き上げて、まだ「複写」のスキルがないので、アパルとサージュが徹夜で書類を書き写した。


 お前は明日に備えて寝てろと言われて部屋に押し込まれたんで、ベッドに転がってぼーっと天井を見上げながら考える。


 まさかこれ、精霊神の嫌がらせじゃあるまいな。


 聖職者を四人も送り込んで自分が動かしやすいようにしたとか?


 で、分身であるぼくが反抗したんで、神のお告げを聞くことも出来るという西の民に影響を与えて問題行動を起こすことにしたとか。


 ……もしそうだとしたら、精霊神、相当性格悪い。


 そこまで考えて、思わず頭を抱える。


 分身のぼくも性格悪いってことになる見事なブーメラン。


 ……まあ、性格がいい町長よりいい性格の町長が優秀だって話を聞くから、そういうことにしておこうと返り討ちのダメージを癒して、早く寝て。



 早起きして、みんなの今の考えや不平不満を調べるため、エキャルをお供に町を歩いているわけ。


 畑を担当している人は当然朝早いし、パン屋とかは朝一番から仕事してる。陶器職人なんて徹夜してることもある。そういう人に聞こうと思うなら、朝早い方がめんどくさい事が起こらなくていい。


 畑に行くと、ヒロント長老が早くから畑の様子を見ていた。


「長老ー」


 声をかけると、長老はあいたたたと腰をさすりながら体を起こす。


「町長」


 長老は人好きのする笑顔でやってきた。


「朝早いね」


「町長も」


 ニコニコ笑顔が優しそうに見える長老だけど、かつて反エアヴァクセン盗賊団を創立・指導していた古強者でもある。……知ってるのはグランディール設立メンバーだけだけど。


「町長がこんな朝早くに歩いているというのは、何かありましたかな?」


「……知ってるだろ?」


「さて」


 長老はニコニコ笑顔。


「昨日、西の方々が大神官と聖女に捧げるために特別な穀物を作れと言ってきたことですかな?」


「それもあったの?!」


「さて。それとも、年からして長老の座は西の民の長老こそふさわしい、その座を降りろ、と言ってきたことですかな?」


「そんなのもあったの?!」


 うわあああ。


 思わず頭を抱えてしまうぼく。


 根深い! 根深いぞ、この問題!


「言ってくれれば……」


「儂で何とか対応できそうだったから黙っておりましたのですよ」


「いや言って?! むしろ言って?! 困ったことは困ったって言って?!」


 食い気味に言うぼくに、ヒロント長老はほっほっほっと笑う。


「知らぬ人が寄れば、問題が起きるのは当然の事じゃろ?」


「いやその問題を何とかするのがぼくたちの仕事だから! そう言うのを聞いて何とかするのが……」


「きっと今朝、ここで町長に会えると思っておりましたでな」


 飄々ひょうひょうと言うヒロント長老に、まだまだじゃのう、と言われてるような気がする。

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