第255話・エキャルという存在が
アナイナの神殿へ送るのをヴァリエに頼み、ぼくは一足早く会議堂へ。
早足で歩くぼくの頭上に影が出来る。
見上げれば、エキャルラットが飛んでいた。
「エキャル」
声をかけると、緋色の伝令鳥はぼくの顔の前へ飛んでくる。腕を出すとそこに留まる。
「エキャル」
ご機嫌で頭をぼくの顔に擦り付けてくるエキャルに、ちょっとこみあげて来るものがある。
「お前は態度、変わらないんだな」
鳥は人間より勘が鋭い。特に伝令鳥はスキルで飼い主を判別するため、ぼくが人間とは違う存在だと気付いても……少なくとも以前とは変わってしまったと気付いてもおかしくないのに、いつものように懐いてくれて、頭の上に乗ってくる。
そして、どうしたの? と言いたげにぼくの顔を逆さに覗き込んでくる。
「お前はいい子だねえ、エキャル」
もっと褒めてもっと褒めて、とエキャルが頭をグリグリ。
「あーよしよし。可愛いねえお前は」
まだバレてないから、こんな風に呑気に歩けるけど。
もし、ぼくが精霊神の分身であると知られたら。
多分、アナイナ以上に堅苦しいことになるだろう。
クイネはアナイナに対して、周りから見られる人がいない時は今まで通りの反応をしてくれた。
でも、それはアナイナが人間だからだ。
精霊神はどうしたって人間じゃない。生命体や物、時には町に宿り力を振るう精霊を束ねる存在。この大陸の守護神。
まず、正気を疑われるだろう。
そして、真偽を確認されるだろう。
その上で、本当だと分かったら。
もう町長クレー・マークンは消える。
グランディールもなくなる。
ぼくが造ったグランディールは、精霊神が再臨して作り上げた第二のスペランツァとなり、大陸中から移住希望者が集まり、新しい世界への礎となる。
新しい町の決まりが生まれ、下手をすれば大陸すら新しく作り変えられるだろう。
そうして第二のスペランツァは役割を終えると共に選ばれた人間だけを連れて精霊界に消え、……ぼくが、クレー・マークンという人間がいた証すら残らなくなる。
……そんなことの為にグランディールを造ったんじゃない。
ぼくは、エアヴァクセンを超える町を……ミアストにはできなかった、みんなが笑って暮らせる町を作りたかった。
お手本を作りたかったわけじゃない!
僕にしか作れない町を作りたいんだ!
精霊神の思惑のままに動いてたまるもんか!
したんしたんと頭が揺れて、ぼくは我に返った。
頭の上でエキャルがステップを踏んでいる。
ぼくが我に返ったのに気付いたんだろう、ステップをやめて、また覗き込んでくる。
「ひょっとして、正気に戻してくれたのか?」
黒く潤んだ目でどうしたの? と聞いてきている。
「何でもないよ。でも心配してくれてありがとう。エキャルは可愛いな」
うちのエキャルは伝令鳥の中で一番可愛い。
可愛い鳥って言えば……インコのオルニスは元気かな?
ミアストから逃がしたスヴァーラさんの愛鳥。エキャルの友達。
「エキャル、オルニスは元気?」
時々エキャルははるばる飛んで自分よりずっと小さい友達に会いに行っている。
うんうん、と頷くエキャル。楽しそうなお顔。
「よかった。友達は大事だぞ」
エキャルは何度も首を上下に振ってから、くにゃりと首をぼくの顔面に当てて来た。
「? エキャル?」
すりすりと手触りのいいすべすべの羽毛がこすりつけられる。
「分かった分かった。ていうか、分かってる。お前の一番の友達はぼくなんだって言いたいんだろう?」
むふーっと満足そうに首を戻すエキャル。
ああ、よかった。
ぼくがどうなっても、エキャルは変わらず傍に居てくれる。
アパルやサージュですら、精霊神の分身だと知れば落ち着けないだろうしこれまで通りに接するのは難しいだろう。きっと、精霊神に意見する者がいてはならないとか言い出す者もいるだろう。
そんなのを望んで作った町じゃないと言っても、誰も聞きやしないだろう。
そうしてぼくが不要とされて……私に邪魔だとぼくの要素が人間に分からない形で捨てられたとしても、エキャルはきっとついてきてくれる。ぼくがどんな姿にされて、どんな状態で捨てられても、きっと、……エキャルだけは、ついてきてくれる。
「取り敢えず」
ぼくのほっぺたにすりつくエキャルの首を撫でて、ぼくは笑った。
「会議堂に入って、目の前の問題を考えるかあ」
頭の上でエキャルがその通りと言わんばかりに羽根を広げ、ぼくはそんなエキャルを乗っけしたまま会議堂目指して駆けだした。
◇ ◇ ◇
「おう、
「アナイナ……いやアナイナ様だな、彼女はどうしたんだ?」
「クイネの所。ヴァリエに送りを頼んだ」
「自称でも騎士なら、責任を持って帰してくれるだろうな」
「うん。あと、他の人間がいない所でアナイナのことを様付けで呼んだら、あいつ多分キレるから」
「うん……それは……まあ、そうだろうなあ……」
「それに関してクイネから聞いたんだけど」
ぼくはクイネの身に起きた一件の仔細を話した。
「何?」
「本当かい?」
サージュは眉を跳ね上げ、アパルが目を剥いた。
「クイネはそういうことで嘘を言う奴じゃない」
「……だな。これは至急対策を練らなければ」
「大神官を呼んで話し合うべきことかな?」
「その必要があるかも知れない」
すぐに東西問題の話し合いを始めなければ、ということで意見は一致した。
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