第251話・服を持って
はーっ。
神殿から使いが来て手紙を受け取ってみれば。
『ゴメンお兄ちゃん! わたしの服、部屋から適当に持ってきて!』
……だった。
……なんか、気を使っていたのが馬鹿馬鹿しく思える……。
いや、アナイナは元々こういう
うん、そうだった。それでもアナイナに笑っていて欲しかったからこの道を選んだんだ。
なら、やるしかない。
みんなの前ではこれまで通りいつものクレーを。
町以外の場所では若き町長クレーを。
そして、精霊神に引きずられないように。
引きずられて、グランディールを第二のスペランツァにしないように。
一番最初に出来た、ぼくとアナイナが住んでいた家に向かう。と言ってもぼくは会議堂が出来てからそっちに詰めっぱなしでろくすっぽ入る機会はなかったし、みんなアナイナの家と認識してるだろう。
ガチャリとドアを開けると、エアヴァクセンの元有った家とほぼ同じ内装の部屋。
アナイナの部屋のドアを開ける。
人が住んでいた気配がある。生きた人間が確かにそこにいたという気配。ぼくの部屋にはなかったもの。
でも、アナイナは多分この部屋には帰ってこない。いや、荷物を取りに来たりはするだろうけど、住むことはもうない。聖女の眠りとは精霊神と繋がること。神殿という安全な場所でなければ、誰かが精霊神のお告げを聞いて捻じ曲げて伝える可能性もある。だから、町と聖女の安全を取るならば、聖女には神殿にいてもらいたいと思うのが本音。
でも、アナイナは閉じ込めたらアナイナにはならないから。
洋服ダンスを開け、適当に普段着らしい服を引っ張り出し、籠に入れる。
聖女の衣装ってのは大体ひらひら~でぴらぴら~で表を歩くには向いてない。町中を走ったり何かしている所に顔出して混ざったりするアナイナにとっては、何これ動きにくい! の代表格。
アナイナが聖女として神殿に籠ったら、まず衣装で文句言ってたろうなあ。「こんなの着ない!」とか言って。
あんな服着て神殿に籠るのはアナイナには似合わないし、ラガッツォやヴァチカも結構行動的なので、いざ聖職者となっても神殿から一切出るなと言われたら息苦しかった、とか思ってたらしい。マーリチクは結構引っ込み思案なので神殿から出ずに生活するつもりだったらしいけど。人それぞれだね。
一応、「出たくない人は出なくていい」「聖職者に対して敬意を」というのは付け加えてあり、不審者やミアストのような人間にかっさらわれるのを防ぐため、聖職者には何かあった時神威を使っての反撃を許可してある。聖職者ってのは精霊神の力の一部を人間でありながら使えるという、精霊神に選ばれたスキルの持ち主ってことだ。
グランディールに一気に上級聖職者が四人も出たのは私がグランディールの運営に関われるように、だろうな。
人間のぼくがあっちから見れば暴走を始めたので、聖女を下すことによってぼくをコントロールしようと思ったんだろう。アナイナを選んだのも、ぼくが最終的にアナイナの言葉に逆らえないからだ。
セコイよな、精霊神って。
その存在の一割を持って生まれさせられた身としては腹が立つ。
新しいスペランツァを作りたいなら自分で作れっての。
わざわざ人間を作って一から作らせるってどうよ。私がその気になりゃ、そのまんま大陸に来て人間集めて本当にスペランツァ作り直せるだろうに。
今度接触してきたら、そこら辺を突っ込んでやる。
服を入れた籠を持って、町と出島を繋ぐ通路に向かう。
苦々しい顔をしているファンテとシーがその顔のまま頭を下げた。
「申し訳ありません……」
ミアストのスキルに引っ掛かって通してしまった二人。解除されてからも、相当もやもやしてたらしい。
「いや、スキル対策をしてなかったのはぼくたちも一緒だ。君たちの不首尾じゃないよ」
「しかし」
「君たちはぼくの言う通り神殿を守ってくれた。ミアストのスキルが極端だっただけだし、ぼ……精霊神の御力で町を追い出されたってことは多分二度と来れないってことだから、あんまり気にしないで」
ひらひらと手を振って、通路を歩いていく。
巨大な神殿を乗せて重そうな出島。
神殿の入り口に行って、ノッカーでぼくが来たことを知らせる。
「あ、町長」
ヴァチカが出てきて、笑った。
「連絡通りアナイナの服持ってきたけど」
「良かった。あの子、今の服じゃしわくちゃだし、聖女の服はひらひらだしで普通の服を持ってきてくれってうるさくて」
「ごめんね、妹が」
「いいのいいの。西じゃあんな風にはっきり物が言える人間って少ないから、見ててちょっと気持ちいいの」
ヴァチカはカラカラと笑って言った。
あんまりにも楽天的過ぎて文句も言っちゃうけどね、と言ってくれるヴァチカは、アナイナのいい友達になってくれそうだ。
私の都合で知り合い近しくなった二人だけど、この出会いだけは私に感謝してやってもいいな。
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