第248話・精霊神の誤算
精霊神の存在はムカつくけど、自分が使える力であれば使う。私、文句があるならただの人間にしなかった自分に言え。
「「癒し手」はともかく、「守護者」や「大神官」、「聖女」は神殿から基本出られない。それを、精霊神の夢によって、出歩くことを可能とする」
「えっ?! それって精霊神様が定めた……」
「だから、ぼくが認める。聖女に下った夢のお告げとして皆に知らせる。他の神殿にもお告げを下して、聖職者が神殿から出歩くのを許可する。基本、来客時と寝る時に神殿にいれば文句は言われないようにする。そうすれば、みんな、聖職者のまま、好きなことが出来る」
何か納得できないという顔をしているマーリチク。
「なんで他の町の上位神殿にも?」
「グランディールだけが許可されてるって知られたら、この町は何かおかしいとか思われるだろ。アナイナが夢に見たって言ったって、他の神殿がまだ聖女になったばかりのアナイナだけに何故そんなお告げが直々に……ってなる。なら、全部の神殿に同時に送れば……? 誰も疑わない。それは精霊神の望みと言うことになる」
実際にぼくが望んでるんだし。
「じゃ、じゃあ、聖職者が望んで外を出歩くだけでなく、望んで神殿に留まることも、可?」
「そりゃあ、そうできなけりゃウソだろ」
マーリチクの恐る恐るの言葉に、ぼくの代わりにラガッツォが応える。
「そういやお前、知らない人が怖いんだったな」
「こっ、怖く、ないッ! 怖く、なんかっ」
「うん、神殿に誰もいないってのはさすがにまずい時があるだろうから、順番で神殿待機、してもらえる?」
「それは全然構わないけど……」
「どうした、ヴァチカ」
「アナイナにはこのこと知らせるの?」
このこと……つまり、ぼくが精霊神の片割れだってこと。
「いいや……知らせない。君たちもそのつもりで……」
「理由、聞いてもいいです……いい? ……多分、同じ答えだと思うけど」
「アナイナはなー……うん、ヴァチカ、君と同じ答えだろうね。この子に「黙っていてもらう」ことはすごく難しいことだから……。町を作った時も町長の兄を持ってワガママ発動させてたし、最初聖女になったことを喜んだのも自分の意見が通りやすくなるって考えだったからかな。これでぼくが精霊神と同じ魂を持ってるって気付かれてみろ。絶対言いふらす。聖女として他の町の聖職者と会った時に、絶対喋る。「ウチのお兄ちゃんは精霊神なんだよ」って」
「うん、悪い子じゃないんだけど」
あって一ヶ月も経ってないヴァチカも、アナイナの性格を読み切っている。
何かあったら絶対言う、と言う確信がヴァチカにもあるんだよな。しかも得意げに。
このことは墓の下まで……ぼくにいつ寿命が来るか分からないけど……とにかく、死ぬまで黙っていたほうがいい。
「じゃあ、アナイナの前でもこの話をしないってことで、いいか?」
ラガッツォが確認し、ぼくは頷く。
「じゃあ、各町の神殿にお告げを送る」
ぼくの魂に刻み付けられた記憶に従って、大陸中の神殿の聖職者に夢でお告げを送る。
聖職者が清浄の為に神殿にいることを精霊神は望まないと。
悪いな、私。ぼくはぼくの望む町を作る。スペランツァ二号を作る気はない。
ぼくはぼくの町を作る。みんなが幸せだと思ってくれる町を作る。
どんなことをしてきても、それだけは邪魔させない!
◇ ◇ ◇
宴会は勝手に盛り上がっていた。
聖職者に直接会いたいと言って来た客人や、町の人間だから会う権利あるよねとか言う町民が神殿に突入かけたけど、マーリチクのスキルで神殿を一周して元の入り口に戻って来てた。チャレンジャーが何周もしているらしいけど。
宴席に戻ったぼくは四人の町長から交代で酒を注がれてそれを飲む。
渡される酒を飲みながら、ぼくはぼんやりと本体の思惑について考えていた。
精霊神が接触してくることによってぼくの魂によみがえった記憶とか力の使い方は、本来なら目覚めさせる予定はなかった筈。
自分の意思をアナイナと言う一番近い所にいる存在を使って伝え、精霊神のお告げだからとぼくに伝えるはずだったろう。
ぼくがアナイナをそんな存在にした精霊神を憎むとは思わずに。
そしてその怒り、憎しみが本物だと分かったから、慌てて出てきたんだろう。
ぼくが精霊神に反すると厄介だと思ったから。
精霊神の一割、つまり自分の分身が本体への怒りや怨みを持つと、残り九割もそれに影響されてしまう。精霊神……だけじゃない、精霊と言う存在は肉体を持っていない。力と精神の合成した、精神体だけが、日没荒野の彼方にある大神殿からこの大陸と精霊界を行き来している。
本当かどうかは知らない。ぼくも頭の中から引っ張り出さないようにしてるし。引っ張り出しちゃって、それで本体とのつながりが強くなるのは避けたいし。
これ以上、本体……ぼくの九割と接触したくはない。
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