第247話・反抗

 アナイナを神殿の中、寝所に運ぶ。


 新成人三人がついてきて、大神官ラガッツォの御言葉でアパルとサージュは遠慮してもらうことになった。


 うん、神殿内の最高権力者だからね。そして神殿は町の一部だけど神聖で特別な場所だから、大神官がダメって言ったら町長でも入れないし、いいって言ったら放浪者であっても中に入れる。


 そして今回は聖女が町長を頼り切っているからここで引き離すには忍びないって理由でぼくが抱えて入ることになったんだけど。


 神殿の入り口で、宴会の様子を見てくれと頼んで、ぼくは神殿の中に入っていく。


「こっちだ、町長」


 ラガッツォが、四人で暮らすには馬鹿でかい神殿の、一番奥まで案内していった。


「そう言えば、聖女が生まれた時の為って……作ってたのか?」


「みんな、自分たちの神殿って張り切ってさ」


 うん、大神官と聖女のいる神殿は、信仰心篤い西の民には悲願みたいなもんだったからね。


 アナイナの聖女確定の時、どよめいたのは全員。でも、その後は両極端だった。


 西の民は自分たちの神殿に聖職者が四人も現れた、我々の信仰心は精霊神に届いた、と言う喜び。


 アナイナを知るそれまでの町民には、アナイナにそんなことできるのか? とか、精霊神間違えたんじゃないか? とか言う空気が広がって、アナイナの友達やクイネのような昔から知ってる人たちがアナイナを探しているとマーリチクが言ったので、神殿に入り込んだ人間は一周して出てしまうことにしておいてもらった。


 部屋のドアをラガッツォが開け、ヴァチカが閉める。


 アナイナを寝台のシーツの上におろした。


 泣いた跡は残っているけど、幸せそうに寝てる。


 はー、と息を吐いて。


「さて」


 ぼくは話を切り出した。


「ここで話さなきゃいけないことを話しておこう」


「何を、です?」


「ぼくの正体は絶対に隠し続けること」


 聖女がいてあの騒動。その上精霊神の現身がいると知ったら、絶対パニックが起こるし、色々な頼みごとを問答無用でされるだろう。断ったら精霊神様は我が町を滅ぼそうとしていらっしゃるとか思われる。


「それは全然構わ……いません」


「敬語はいいから」


「でも」


「相手が町長と言えど対等に喋れるのが聖職者……特に大神官だ。それが町長に敬語を使っていると、上位神殿でありながら町長におもねっていると思われる。グランディールの大神官として、町長が、間違った道に行かないよう見張っている必要があるんだ」


「でも……」


「君なら大神官の役割を分かっている。そうだろう?」


「~~~~~~~~」


 ラガッツォはしばらく両手で癖の強い髪の毛を掻きまわしてたけど。


「……分かり、じゃない、分かった。貴方の正体はおれたちだけの秘密にする。誰にも言わない……それでいいんだな?」


 ぼくは頷く。


「ぼくは「まちづくり」のスキルを持ったグランディールの町長。それ以外の存在になる気はない」


 大きく息を吐き出して、ぼくは寝室の高い天井を見上げる。


「ただ、一つだけ……一つだけ、力を使おうと思う」


「……どんな?」


「聖職者だけは、スキルイコール職業。つまり聖職者のスキルを持った人間にはそれ以外の道は有り得ない」


 最初から全てを知って覚悟を決めていた三人が頷く。


「でも、それはグランディールでは認めたくない。ていうか、ぼくはアナイナを聖女として取り上げた精霊神を怨んでいた。自由な子だったアナイナを、どうにも逃げようがない聖女にって。……まさかブーメランしてくるとは思わなかったけど」


 精霊神は人間ではない。そして、人間ではない存在から作られたぼくは、どうやらの思惑とは違った行動をしているらしい。


 だから、アナイナを聖女にしたのは。恐らくはぼくと一番近い所にいて、一番ぼくが馴染むだろうアナイナを聖女にしたんだろうな、は。


 の意図を正確にぼくに伝え、精霊神の願う正しい町を作るため。


 だから、はまさかぼくが怨むとは思いもしなかったんだろう。


 は人間ではないから。


 妹が聖女に選ばれたことでぼくが精霊神を怨むとは思わなかったんだろう。


 で、精霊神に反抗しようと行動されると厄介だから、が顔を出しに来たんだ。


 精霊神の片割れでも、あくまで人間として作り上げたぼくが、精霊神に反抗する可能性があると、やっと気付いて。


 でも遅い。グランディールを第二のスペランツァにするつもりはない。グランディールはグランディールとして、精霊神のある町ではなく、スキルで職業を選ばない町として、ぼくが作り上げたんだ。目指すはSSSランク、長く伝えられる美しい町として。


 今更、それを精霊神の捧げ物にする気はない!


「今から、アナイナにはお告げを受けてもらう」


「お告げ?」


 ぼくは頷いた。


「聖職者は神殿で祈り、守り、癒すのが仕事。でも、ほぼずっと神殿の中にいることになる。覚悟していたこととは言え、キツいだろう?」


 ぼくは三人に向かって笑いかけた。


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