第246話・「私」の目的
どんどん! と大きな音がして、ぼくも、三人も我に返った。
「町長! みんな! 無事なのか?!」
アパル! そうだ、ぼくがキレた時、ミアストを逃がすものかと無意識の内に扉を閉めたんだった。アパルは部屋の中に入っていなかったから……。
チラッと三人の方を見る。三人が「分かった」と言う意味で頷く。
ので、ぼくはアナイナを抱えたまま、ドアの封を解いた。
聖職者、じゃない。人間の皮を被った人外になってしまった……いや、最初からそうで、今気付いただけなんだとの確信を何処かに抱きながら。
扉が押し開けられ、血相を変えたアパルが入ってきて……辺りを見回す。
「ミアストが? 確かにここにいたはず」
あ。やべ。アパルはミアスト見てたんだった。どう言おう。
と、ラガッツォが声をあげた。
「アナイナ……聖女に乱暴しようとしたんで、精霊神の怒りをかって何処かへ飛ばされた……みたい、です」
「アナイナの力……?」
「と言うよりは、アナイナを守護する精霊神様の御力だと」
あ。上手い。アナイナの危機にぼくじゃなくて精霊神が謎の力で助けたみたくなってる。
「そうか」
ほっとした顔のアパル。遠くから足音がバタバタバタ、と聞こえてくる。
「
……そういやサージュにヴァローレを呼んでくれって頼んだんだった。絶対何かのスキルが使われたって確信してたから、その解除をしようと思って。
さあどうしよう。
「ミアストに何かのスキルをかけられたんだ」
今度はマーリチクが応えてくれた。
「多分解除されたと思うけど、念のため見てやってくれないか」
「ミアスト? ヤツがいたのか?!」
サージュが顔色を変える。
「……いないが」
「精霊神の怒りをかって放り出されたって」
「ミアスト、何をしたんだ?」
「僕たち四人にスキルをかけて、エアヴァクセンに連れて行こうとしたんだ」
「!」
サージュが息を呑む。
「でも、スキルに抵抗して暴れるアナイナに乱暴しようとして、精霊神様の怒りをかってミアストと大男はどっか飛ばされた。だから、僕たちはミアストのスキルの影響下にあるかも知れない。ヴァローレさんに調べてもらえるとありがたいけど」
……マズイ、か? ヴァローレの「鑑定」で、アナイナや三人に影響しているスキル……いや……。
ヴァローレがじっとマーリチクを見る。目が金色に輝いている。
「名残があるな……。多分、ミアストのスキルの名残……僕が解けそうだけど解いていい?」
「お願いします」
「よ、っと」
火花のような音がして、マーリチクがよろめく。
「解けたんですか?」
「解けた。……ミアストらしいスキルだな」
「なんだ?」
「物の認識を誤らせるスキルだよ。多分、ミアストが正しいと認識していることを相手にも植え付ける、だな。で、グランディール町民なのをエアヴァクセン町民に置き換えて認識させようとしたんだ」
「聖職者にそんなことをしたら、まずいんじゃ」
「事実、ミアストは精霊神様のお怒りに触れて何処かへ放り出された」
「あ~。まあ、こう言えばいいか」
サージュが頭を掻いていった。
「ざま見ろミアスト、ってことで」
「あー」
「そういうことで終わらせて大丈夫か」
「うん、大丈夫」
聞かれ、ぼくは頷く。
この事件はそれで終わらせればいい。これ以上の厄介事はお断りだ。
ミアストは多分二度と来れないだろう。
スキルを失い、町長の資格を失った。町長時代に町の為に働けばよかったのに、他の町を羨ましがってそれを欲しがって。自分の足元が揺らいでいるのに気付いてもいなかった。エアヴァクセンに飛ばしてやったけど、会議堂に入れないこと、町長印が壊れたことで、ミアストがもう町長ではないことが明らかになっている。町を振り向かず町の力を外のものを奪って手に入れることに夢中になって、エアヴァクセンが町として成り立っていないことに気付かなかった。
……
「それにしてもアナイナ、目を覚まさないな」
「たくさん泣いた後だし、寝かせてあげて。多分、疲れているんだと思うから」
ヴァチカがやってきて、アナイナをよしよしと撫でてやる。
「アナイナ、大丈夫だよ? 大丈夫だよ……?」
アナイナの顔に不安はない。
安からな顔で。ぼくに全部預けて、満足して。
でも……。
預けられたぼくはどうすればいいんだろう。
すべてを託されてしまったぼくは。
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