第241話・ミアストのスキル

 「誤認」。


 これが、ミアスト・スタットの持つスキルである。


 能力は、「誤って認めさせること」。


 さっきのように、「町長の許可」と偽りの言葉を相手にそうだと認識させることが出来る。


 ただ、縛りはある。


 まず、「誤認」を仕掛ける相手がいないとスキルは発動しない。


 一度に五人以上の人間に同じことを「誤認」させることは出来ない。


 そして、長い間「誤認」させ続けることが出来ない。長くて一日。四人まとめてかければ、効果時間はもっと短くなる。


 そして、事実と全く異なる、とミアストが認識していることを誤認させることは出来ない。


 さっきのキーワードは「町長の許可」。


 ミアストは町長で、自分で自分に許可を出した。キーワードに嘘はない。


 これが「クレー町長の許可」とか具体的に言っていれば、「誤認」は出来なかった。ミアストは今グランディールで確認されている四人の町長の一人ではないし、彼らから許可を貰ったわけでもない。だから、「町長の許可」とぼかしたのだ。


 そうやって、新成人の聖職者四人が居るであろう神殿に入り込んだ。


 ちなみに、「誤認」は、スキルがかけられた人間外……生物や無生物にも有効。


 町民以外に開かないドアに、自分たちはグランディールの人間だと「誤認」させる。ミアストの中ではグランディールはエアヴァクセンの一部なのだから、認識が間違っていても「誤認」は有効。


 本当は、町に入り込むはずだった。


 一般客が大勢くるこの祭りで、町民に紛れ込んで町に入り、いずれ我が物となるグランディールを調査し、あわよくば「草」になりそうな町民を探す予定だった。


 出来てすぐ高レベルになった町……グランディールのような特殊な町は、そのスキルや中心になる人物を探り、あわよくば自分の町に取り込むために近くの町が俗に「草」と呼ばれる、町民として住みついて諜報を行う者を派遣することがある。彼らは下手をすると二代、三代と町民として住みながら元の町に情報を送る。他の町の美味しい所を横取りするのにちょうどいいのだ。


 しかし、町には入れなかった。


 西の民が大勢入った今のグランディールなら、訪問者が大勢いるこの状況なら、さりげなく紛れ込めると思った。


 ところが、一般客が入れる神殿は、同じ浮遊町の中にありながら「出島」と呼ばれる隔離空間にあって、神殿と町を行き来するには確認を入れている通路を通らなければならない。


 増えた西の民、たくさんの一般客、ミアストとモルの姿はその中に紛れ込んだ。変に変装をしないのも良かったのかもしれない。まさか石を投げて追い出した町長が堂々と戻ってくるとは誰も思わない。


 だけど、町民の中に紛れ込むことは出来なかった。


 スキル「誤認」と言えど、一般町民が着ているような服をグランディール町民の正装に間違わせることは出来なかったのだ。


 グランディールに初めて侵入して、そこでグランディール町民の正装を見て、「これはエアヴァクセンでは作れない」「これは正装と誤認できない」とミアストは認識してしまった。確かに小綺麗こぎれいではあるが、この地味な服を、シミ一つない白地に黄色と紫のポイントが入っている鮮やかな衣装に見せることは出来ない、一度そう思ってしまえば、グランディール町民として誤認させることは出来ても服は誤認できないから、何故か私服のグランディール町民は逆に浮く。


 それさえなければ、グランディールの町の中に入り込めたのに。


 しかし、イライラしながら成人式を見終わって、鑑定式で四人とも聖職者と言う結果に怒り狂ったその直後、ミアストにあるアイディアが浮かんだ。


 そのアイディアは、ミアストの機嫌を直すどころかテンションをあげることだったので、さっそく実行に移すことにした。


 そうやって、いくつかのことを済ませて、ここ……神殿の奥までやってきた。


「守護者……癒し手……大神官……聖女……」


 ミアストはぶつぶつ言いながら歩くが、すっと顔をあげる。


 そこには嫌らしい笑みが浮かんでいた。


「グランディールはエアヴァクセンから生まれた……ならば、聖職者はエアヴァクセンに来ても何の不思議もない……」


 くくく、と喉の奥で笑うミアスト。


「低レベルの新成人四人……」


 口元を吊り上げ、ここにないものを見ている。


「エアヴァクセンがなければグランディールはなかった。即ちエアヴァクセンはグランディールの親……子の作ったは親に所有権がある……」


 ぶつぶつニヤニヤしながら歩いているミアストは、突然足を止めた。後ろを歩いているモルがその背にぶつかる。


「シッ」


 モルが何か言い出す前に、ミアストはモルの口を塞ぐ。


「じゃあ……ぼくは、行くよ」


 小さな声。若人のもの。


「これ以上宴席を放っておくわけにはいかないから……」


「ん……お兄ちゃん、手紙……」


「アナイナが望むなら、何度でも」


「ん……ん……」


 赤金茶の髪の男が栗色の髪の少女を抱きしめ、そしてゆっくりと離れた。


 涙でぐしゃぐしゃになった少女は……鑑定式で遠目に見た。それ以前に、グランディールからエアヴァクセンに、両親を奪いにやってきた。クレー・マークンの妹、聖女、アナイナ・マークン。


 モルが背後で息を呑むのが感じられる。


 ミアストはニヤリと笑うと、如何にも町長らしいと思っている余裕のある顔になり、クレーがいなくなるのを確認して、ゆっくりと進みだした。

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