第235話・鑑定式
いよいよクライマックス、鑑定式だ。
ヴァローレがフードを深くかぶって出て来る。このフードがなかったら死んでも鑑定式は嫌だと揉めたもんだ。まあグランディールとしてもヴァローレの顔が割れてスカウト食らいまくるのを避けるのは望むところなんだけどね。
鑑定式の進行はアパルに任せた。ぼくは薄いワインを飲んで喉を潤す。
アナイナはにっこにこの笑顔で出ている。マーリチク、ヴァチカ、ラガッツォの三人は、かなり緊張した顔をしている。
スキルが分かるということは、自分の得意分野が分かるってことでもあるからなあ。イコール人生この先が決まることでもある。クイネみたいに「料理人になる!」みたいな決意を固めている新成人はほとんどいない。アナイナもクイネに料理を習っていたけど、料理人になりたいわけじゃないらしい。趣味程度?
実は鑑定式の司会をアパルに頼んだのは、ぼくがアナイナの番で冷静に司会進行できないかもって思ったからもある。どれだけ困らされても身内。妹。その将来を決めることを、他人事のように司会進行なんてできやしない。
親族席……新成人の家族が入る席では、父さん母さんも見ているはず。そして苦労して子供を育てたバーン兄妹の御両親、ラガッツォのお母さんもいるはず。子供の晴れ舞台をどんな思いで見守っているんだろう。
もうどんなスキルでもいい、厄介事に巻き込まれないスキルであればそれで……それはないか。スキルがあれば大体それに厄介事も付随してくる。ぼくみたいな低上限レベルとかだとそれが極端になるし。
スキル学研究家だったファクトゥムの著書では、町が出来てから数年間は強スキルラッシュになるらしい。町が形を成して町スキルを作り、そこにスキルのない仮町民……未成年が影響されることによって、強スキルがパカパカ生まれるらしい。
……あ、アッキピテル町長とザフト町長もそれが目当てかな? 強スキルになりやすい新成人を狙って?
……うーん、疑心暗鬼が過ぎるかな?
スピティ、フォーゲル、ヴァラカイとは仲良くやって行きたいんだけど、どうしても裏を考えてしまう。高ランクの町の町長は裏の裏まで考えなければいけないとアパルもサージュも言っていた。そのためか、町長の仮面をつけている時はこの三町長の言動から裏を読もうとしてしまう。そういうものなんだろうかと思ってはいるけれど、人の好意を素直に受け止められないのは何か自分がひねくれているように思えてちょっと自己嫌悪も感じてしまう。
憎まれ役を引き受けてこその町長、とも言われるけどね? やっぱり人には好かれたいじゃないですか。嫌いなヤツからはそう思われても構わないけど。
「マーリチク・バーン!」
アパルの声が朗々と響いて、緊張しまくったマーリチク君がぎくしゃくと出て来る。
紹介の時と同じように、来賓の上席、親族席、一般席にそれぞれ挨拶をして、顔を見えなくしているヴァローレの方を見る。
ヴァローレの前に出て、膝をつく。ヴァローレはその額に手を当てる。
全員の視線が、一斉に上を向く。
『マーリチク・バーン』
表示板に字が浮かぶ。
『スキル/守護者』
守護者?
ざわざわと聞こえる声。うん、分かる。初めて聞くスキル名。
『レベル1/上限レベル20』
ぼくの背後で、びくりとする気配。サージュ。
だって、いきなり一人目が低上限レベルなんだから。
ぼくの前方ではアッキピテル町長とザフト町長がびくりと反応していた。フューラー町長も指で膝を小刻みに叩いている。
どよめき半分、失笑半分。
どよめきはグランディール町民から、失笑は他の町の一般客から。
思わず笑っちゃったお客さんとは違って、グランディール町民は低上限レベルの意味を知っている。それがいきなり一人目で出たんだもんなあ。
「ヴァチカ・バーン!」
双子の妹が早足で進み出た。
再び、視線は表示板に。
『ヴァチカ・バーン』
一瞬のタイムラグの後、スキルが出る。
『スキル/癒し手/レベル1/上限レベル25』
今度こそ。
会場中からどよめきが起こった。
「守護者」は聞いたことはないけど、「癒し手」は分かる。聖職者系で、触れるだけで苦痛や病に悩める人を治すことが出来るという強スキルだ。レベルが低くても、そんなスキル持ちがいると言うだけで胸を張れる級。
「ラガッツォ・コピル!」
ラガッツォ君がガチガチの足で出て行く。
『ラガッツォ・コピル/スキル/大神官/レベル1/上限レベル15』
表示されたスキルに、どよめきが倍以上に大きくなる。
大神官。
聖職者スキルの中でもトップクラス、一人いるだけで町のランクが上がり、神殿に影響を与えられる上位神殿を作るスキルを低上限で持っている!
西の民は信仰心が篤く聖職者が多いという。西の民の特性がグランディールに来ることによって強化・具現されたのか?
低上限レベルを知っているのに、アパル、よくもまあ冷静に進行できるな?! ぼくだったら無理だぞ。動揺しまくって声震えるぞ。
スキルが決まった三人が、顔を見合わせて笑顔を交わす。
アナイナの顔が不安そうになっている。前の三人が強すぎたからな。
…………。
頑張れ、アナイナ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます