第233話・上級席と一般席

 町の偉い人や、商会やギルドと言った町に必要な人、本人や代理がぞろぞろと入ってくる。


 上昇環から出てきた人に、一礼。


「やあやあクレー町長!」


「グランディール最初の成人式を見に来たぞ」


「いい、以前、よ、呼ばれた時、よりも、町が、広がっていますな」


 最初に入って来たのはスピティのフューラー町長に……ええ?


「アッキピテル町長? ザフト町長も?」


 確かに世話になったし招待状も送ったけどさ、アッキピテル町長の町フォーゲルはスピティから結構あるし、ザフト町長のヴァラカイは結構西。そんな遠くからわざわざ町長自らが出てこなくても……! 移動にかなり時間がかかるはず!


「はっは、相当驚いたようだね」


 町長の仮面をつけても驚いたのが隠しきれなかったのか、アッキピテル町長がぼくを見て楽しげに笑う。


「君たちがスピティに着いたのと同じ頃かな、ザフト町長が自ら鳥を買いにフォーゲルへいらっしゃってね」


「じょ、乗用鳥を買おうと、お思ったんだが、ググ、グランディール絡みで、アッキピテル町長と、おお知り合いになってね、スキル学で盛り上がって、かか会話鳥をいただいて」


 会話鳥?!


 二羽で一対の鳥。どれだけ距離が離れていてもスキルでつながっていて、片方の鳥に話しかければもう片方の鳥がその言葉を喋る。どれだけ離れていても会話が出来る便利な鳥だけど……高いんだよ、会話鳥これ。Sランク以上の町でも買うのは厳しいって言う鳥だよ?


 ザフト町長、そんなに思い切ったの? いや違う、会話鳥を「いただいて」と言っていた。ってことはアッキピテル町長が張り切った?!


「で、それぞれの町に招待状が届いたのでね、話し合って、是非伺おうと。でも、我々が直接伺うのは内緒にして驚かせようと思って」


「……正直、驚きました」


 ザフト町長が神経質に笑う。


「そそそ、それならよかった。お、怒られるんじゃないかと、し、し、心配、してた、からね」


「怒りはしませんが……心底驚きましたよ」


 フューラー町長は平然としているけど、近くの町の町長代理たちが目を丸くして驚いている。


 まあ、Sランク「鳥の町」フォーゲルと、Aランク「西の果ての町」ヴァラカイの町長がはるばる足を運ぶなんてありえないからねえ。しかも代理じゃなく本人登場だもん。そりゃあねえ……。BランクとかCランクの町長、後で代理からそれ聞いて、代理を出してきたの恥ずかしく思うだろうなあ……。せっかく高ランクの町と繋がれるチャンスだったのにねえ……。


 その証拠にフューラー町長は笑顔で話しかけているけど、他の町の町長代理は近付けもせず困り果てた顔で三人のレベル上位町長の話し合いを見ている。


「では皆様、どうぞこちらへ。会場にご案内させていただきます」


 アパルが丁寧に、お偉いさんたちを通路の方に案内する。


 そこでシーとファンテ、ソルダートのチェックを受けることになる。


 見当たらない姿に心の中でほっと息を吐く。


「ミアスト、いないな。良かった」


「エアヴァクセンに招待状は送っていないし、スピティ近くの町ではミアストは評判が悪い。代理ですら送って来れないだろう」


 サージュが応えてくれる。


「でも、念には念を。しっかり確認して」


「ああ。全員心得ている」


「町長、一般客を入れますので、神殿の方へ」


 服でわかるグランディール町民がそっと声をかけてくる。


「ありがとう。行こう、サージュ」


 通路を通って、しっかりとチェックを入れてもらって神殿へ。町長だからとチェックを受けなかったら他の町の町長とかが、なら自分もとか言い出すもんね。


 上席である西側に入って、舞台の近い場所に座る。


 それから一般客がぞろぞろと入ってきて、巨大神殿の巨大広場は人でいっぱい……おいおい、町民より多く客入ってるぞ。どこからこれだけ人が沸いてきたんだ?


「……ちょっと席外す」


「サージュ?」


「宴会部門に人を増やさないとヤバい」


「……お願い」


 サージュは早足で通路に戻って行き、ぼくは一人会場を見ている。


 う~ん、これだけ距離があると人の顔なんか分からん。白と黄、わずかに紫の服を着てるのがグランディール町民だと一発で分かるんだが。


 一応怪しいヤツは入り口と通路で弾かれてるはずだし。


 上手く行きそうだな。


 ぼくは小さく息を吐いた。



(スピティ町長フューラー、フォーゲル町長アッキピテル、ヴァラカイ町長ザフト、だと?)


 ミアストは糸切り歯で爪を噛み始めた。


(高ランクの町長が三人も……! エアヴァクセンの成人式に招待状を送っても遠いからと代理すら送ったことのない高ランク……!)


「ちょう……ミ……いいや、スト」


 偽名を使うと言っているのに三度も言い直したモルをじろっと睨む。


「……何でもない」


「……はあ」


 モルは心配そうにミアストを見るが、ミアストはガチガチと爪を噛みながら会場を見ている。


 モルはさりげなく体で苛立つミアストを隠しながら、上級席を見る。


 クレー、フューラー、アッキピテル、ザフト。四人の町長。本来だったらミアストもあそこに並ぶはずなのに。


 ミアストはその他大勢一般席。


 招待されてもいなければ名乗って入ったわけでもないので当然だけど。


(だけど、クレー・マークン)


 モルは心の中で叫んだ。


(貴様は元町長に対する礼儀もないのか?!)

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