第229話・スキル能力

 リハーサルは粛々と行われた。


 スピティで得た情報に基づいて、派手過ぎず地味過ぎず、豪華過ぎずわびし過ぎず。


 そして、鑑定式のリハ。


 誰もが注目するのは、新成人……じゃあないんだな。


 新成人の顔を見て、そのまま視線は上に上がる。


 客席の何処からでも見られるようになっている、表示板だ。


 ここに、うちの成人式では、ヴァローレの鑑定した結果を読み込み、画像化するスキル装置。


 Cランク以上の町で、ある程度以上の町民の集まる広場を作れば、自然に出来上がるという。精霊神が立派な町だと認めた証だというけど、それにしては現実的すぎるんじゃないかとぼくは思ってる。神からの贈り物が表示板て何それって思う。


 でも、これこの通り、グランディールと言う最低Cランク判定を受けた町で、町民が集まる場所が出来たら、シエルですら考えの範疇に入ってなかったのに、最初から設置場所が決まっていたように一番目立つところに出来ている。


 本当にぼくがスキルで作る時に精霊神がぼくの頭にちょっかいをかけたんだろうか。


 そうだとしたらちょっと怖いな。


「町長?」


「ん、あ?」


 我に返るとサージュの渋い顔。


「表示板の初使用なんだから、ぼんやりするな」


「あ、ゴメン」


 ヴァローレがスキル装置に片手を置き、もう片手を成人役で立っているシーに向ける。


 ヴァローレがスキルを発動させる。


 初めて使われた表示板の画面は少し歪んで、パッと文字が浮かんだ。


 『シー・アナリシス/二〇歳/女性


  スキル「分析」:使用相手のすべての情報を一つ一つの要素や成分に分け、その構成などを明らかにする。簡単な情報であれば一秒で結果が出るが、深い情報、詳しい情報を得るには、その元の情報から分析しなければならない為、結果が出るには時間がかかる。レベルの上昇と共に分析速度と分析深度が上がる。


  現レベル3300/上限レベル5000』


 おお、と、どよめき。


 さすがはヴァローレ。スキルの意味や能力まで鑑定して表現した。


 エアヴァクセンの鑑定がこのレベルで、ぼくのスキルが鑑定されたら……クイネやピェツのような目に遭ってたな。町を好きなように創造できるスキル、なんてバレたらもうエアヴァクセンから抜け出せない。


 アパルがちょっと険しい顔。


「ヴァローレ、スキル内容は出来るだけ明らかにしないようにしてくれるかい?」


「なんでだ?」


 ヴァローレの不審そうな声。ぼくも不思議。


「それは本人と町の一部……町長、アパル、俺、そしてヴァローレだけが知っておけばいいと思う」


 サージュも明らかにしない派?


「なんで?」


 ぼくが聞くと、二人が軽く肩を竦める。


「スカウトマンが狙いをつけやすくなる」


「スキル蔑視べっしが始まるかも知れないしね」


 ???


 首を傾げるぼくと、説明を聞きに来たヴァローレに、アパルとサージュは説明を始める。


「スキルの能力が全部わかると、スカウトマンが手に入れようと必死になるだろう?」


「なんだ、レベルは高いのにこの程度の事しかできないのかっていう扱いを受ける人間が出るかもしれないし」


 ……う~。


 確かに、レベル上限が高いのは応用の利かないスキルって傾向があることは分かってきたことで、グランディールではむしろ低上限レベルがありがたがられる。ぼくの「まちづくり」、ファーレの「ものづくり」、アレの「移動」、ヴァローレの「鑑定」が低上限レベルだ。どれもスキルのカバー範囲が広く、取り替えの利かないスキルだ。西の町にも何人か低上限レベルがいるらしく、鑑定しようかと思ったけど成人式が終わるまでは、ということになっている。


「高上限レベルだと甘く見られる?」


「それもあるし、通常クラスでも内容がちょっと、と言うのもあるだろう?」


「……確かに」


「スキルのレベルや内容で入る人を見ない、と言うなら、成人式でここまでつまびらかにするのは良くないと思う」


「それは……確かに」


 本当はスキルの鑑定式は行わないほうがいいと思っていた。スキル関係なしで人を選ぶんなら、って。


 でも、十五歳になって目覚めるスキルは成人の証。鑑定式をやめとこうか、とアナイナ達に聞いたら、全員怒った。何で一番の目玉で一番の楽しみを省くんだってめっちゃ怒られた。ごめんなさいです。


「本人だけに分かるようにすればいいと思う」


「どう説明するの? 聞いてがっくりすることもあるかも」


「鑑定式が終わった後に紙に書いて各々に渡すとか」


「……判断は難しいが、とりあえず今回はそれで行くか」


「じゃあ、僕は最終的に何をすればいい?」


 ヴァローレにサージュが応える。


「表示板にあげるのは当人の名前、スキル名とレベル、上限レベル……それだけアップすればいいと思う」


「で、もっと詳しい話は鑑定式の後?」


「ああ。ヴァローレ、悪いが、スキルの詳しい説明を紙に書きとめることは?」


「……とりあえず今回は、それしかないか」


 ヴァローレも眉間にしわ。


「写本みたいなスキルか、字の綺麗な書記とかがいれば任せるんだけど……今のところ誰もいないし」


「西の人たちは正確に鑑定を受けたわけじゃないらしいから、少しずつ鑑定して行かないとだし」


 リハーサルの段階なのに、成人式が終わった後の心配をしなきゃいけないってどういうことだろう。


 分かったのは、リハをやっといてよかった! ってこと。


 いきなりあんな詳しくスキル能力が出たら、がっくりもデカいだろうしなあ。

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