第228話・グランディールは準備中

 成人式の宴会も終わり、賓客と呼ばれる客は帰り始める。


 ぼくとアパルもソルダートと一緒に、フューラー町長に挨拶に行った。


「今日はありがとうございました。明日もよろしくお願いします」


「ええ、神殿を楽しみにしていますよ」


 フューラー町長の後ろで、スピーア君もうんうんと激しく頷いている。


 ぼくは笑顔で頭を下げると、合図をして上昇環を作動させ、その中に入った。



     ◇     ◇     ◇



「お帰りなさい!」


 バタバタと行ったり来たりしている町民が、ぼくを見て声をかけてくる。


「ただいま。お疲れ様」


 サージュとシエルが先導して、町民総出で成人式の準備をしている。


 会場を作って、たくさんの客を受け入れて行う成人式は立派な町の証拠なので、みんな張り切っている。それまでみんな集まってやってたけど場所によっては成人式か死かのハードなことになっている西の民は、初めての立派な成人式と自分たちの神殿のお披露目で盛り上がっている。いや、神殿はお披露目しませんからね? 広場だけよ? そのつもりで町民しか通れない扉とか作ったんでしょ?


 分かってはいるんだけど浮かれずにはいられない。そんな感じかな?


 会場の設営はシエルに任せておけば大丈夫だな。グランディールのデザイナーに任せとけば、舞台を作ってくれるだろう。うん。


 とりあえずサージュを呼んで、スピティの成人式を説明する。


「普通の成人式だな」


「そう言うのでいい」


 ぼくはまだ慣れない赤茶金の髪をいじりながら答えた。


「成人式だけ豪華にしても何の得もない。……今回は初めてだから、浮かれるのは仕方ないけど、同じレベルの式典を続けられないのは困る」


「……だな。盛り上がり過ぎるとあとで困る」


「そうだ、町長、スピーア君のことは」


「ああ、そうだった」


「スピーア?」


「スピティの新成人だよ。宴会の時グランディールに移転したいって言って来た」


「うちに?」


 サージュが首を傾げる。


「確かにグランディールは新しい町で興味がわくのは分かるけど、Sランクのスピティを蹴って?」


「しかもフューラー町長の目の前で堂々と言って来た」


「ふん……?」


 頷きかけたサージュが顔をあげる。


「連れてこなかったのか?」


「んー……」


 目を閉じて唸る。代わりにアパルが口を開いた。


「どうも町長クレーが何か引っかかったようで、明日の成人式まで考えさせてくれと言って来た」


「世話になっているスピティだからと遠慮でもしたのか?」


「いや……違う」


 今は町長の仮面を外しているけど、あの時の引っ掛かりは仮面をつけていない今も引っ掛かっている。


「何か……何っか、気になるんだ」


「気になる?」


「うん……アパルにも言ったけど、町長の仮面をつけている時のぼくに引っ掛かりが出たんだ」


「いつものお前なら気のせいと言えるが、……町長状態の時に引っ掛かった?」


 うん、と頷くと、サージュの眉間にしわが寄る。


「だから、ちょっと時間を貰った」


「……町長状態で引っ掛かったなら、何かある可能性は高いな」


「アパル」


 アパルがフューラー町長に頼んでもらって来たスピーア君の資料をサージュに渡す。


「スピーア・シュピオナージェ。スピティ生まれのスピティ育ち。スキルは「遠話」……」


 じっと見て、首を傾げる。


「怪しい所はないな。家具系のスキルではないけれど、だからスピティにいるのはおかしいという話にはならない。どこが引っ掛かったんだ?」


「んー……正直、分からない」


 うん、何度考えても、どうしてそんなに引っ掛かるのか、ぼく自身も分からない。


 だけど、何か……何かが引っ掛かるんだよ、何か。


「ヴァローレか「分析」のシーに頼んで調べてもらうか? あの二人ならしっかり調べてくれるぞ?」


「でもあの二人明日は死ぬほど忙しいよ」


 ヴァローレは成人式の目玉、鑑定式で出番がある。シーは町と神殿を繋ぐ通用口でミアストやその系列の人間にチェックを入れる役目がある。


「あー……」


「ヴァローレは鑑定式で連続四人を結構しっかり鑑定しなきゃいけないから、その後、見るだけの力が戻るかどうか分からないし、シーは通用口にずっと詰めてなきゃいけない。彼女のスキルがどんなものかは……」


「町長!」


 当のヴァローレが顔を出した。


「そろそろリハーサルをやるから、三人ともに来て欲しいと」


「あ? ああ、そうか。町長挨拶と鑑定式のリハか」


 これはやっとかないと、後で恥をかく可能性があるからなあ。


「ちょうどシーのスキル鑑定も出来るし、詳しい話はリハが終わってからでいい?」


「構わないが……それだけ気になるのか?」


 うん、と頷くと、サージュはしわの寄った眉間を揉む。


「……こっちでも調べてみよう。「知識」でどうにかなるかは分からないが」


「頼むよ」


 ぼくは輝きが失われてきた髪の毛をいじりながら、立ち上がった。


 明日は髪と目の色が簡単に変わらないように強めにスキルかけてもらわなくちゃな。

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