第226話・あの日あの時

 スピティの会議堂大会場で行われたスピティの成人式は、盛大ではあるけれどあまり奇をてらったものではなかった。てらう必要はないんだろうな。Sランクの町だ、残留希望者も移動希望者も大勢いる。目新しいことをやって人を呼ぶ必要なんてないんだから。


 まず、町長の挨拶、賓客の紹介(ここでぼくも紹介された)、町の歴史を伝え、スピティを讃える歌を歌う。


 そして、ここからがクライマックス。鑑定式だ。


 ガチガチに緊張する新成人を一人ずつ壇上にあげる。そして名前を紹介し、鑑定士の前に立たせる。


 鑑定士が新成人に触れる。どうやらあの鑑定士は対象に触れなければならないらしい。それでも人間鑑定が出来るってのはすごい。何でもできるヴァローレを見ていると勘違いするけど、人間の鑑定が出来るのはかなりレベルが高い優秀な鑑定士なのだ。スキルやその解除方法まで鑑定できてしまうヴァローレが例外なだけ。


 鑑定士がゆっくりと新成人から手を放し、横のボードに触れる。


 ……ああ、一年前のぼくも、同じ顔をしていた。緊張して、未来を夢見て。


 この中の何人が、この町への残留を夢見ているだろう。あるいは、もっといい町への異動を願っているだろう。


 ある新成人は喜び、ある新成人は項垂うなだれ、様々な顔を見せる。町への残留を決める者、違う町へ行くことを選ぶ者、それぞれの未来を決めて。


 でも、夢破れても、諦めないで。


 Lv1、Max1と言う結果で打ち砕かれた夢は、今、形を変えて、現在進行形でぼくの手の中にある。


 諦めない限り、夢が叶う可能性はゼロにはならないから。


 最後の一人が鑑定を終え、拍手が沸き起こった。


「幸い、今回は追い出すことにはなりませんでしたね」


 ポツリとフューラー町長が言った。


 今回成人式に来た全員が、残留最低レベルをクリアしていた。


「ミアストなぞ、私を嬉々として追い出したものですがね」


と一緒にしないでいただきたい」


 お。ミアストをあれ呼ばわり。


 詐欺にもかけられてるし、相当思うところがあるなこりゃ。


「町民は財産です。町民がいなくなれば町は成り立たない。そして、町民が町を愛せなくなったらはそのことを忘れ、優秀なスキルを集めている」


 優秀なスキル……かあ?


 小さく首を傾げたぼくに気付いたんだろう、フューラー町長は小さく毒づく。


「スキル学を学んでいるとお聞きしておりますが」


「かじった程度ですよ。部下が学んで私に助言してくれる」


「それでも、よりはお詳しいはず。は偉大なる祖父レイター町長を尊敬するあまり、スキル学には手を付けなかった」


「……ああ、道理で」


 ぼくは頷いた。


 スキル学を学んでいれば、町の在り様と町に生まれる仮住人のスキルは大きな繋がりを持っていることくらい分かるはず。


「スキル名で判断してしまう癖もあるようですな」


「スキル名で判断?」


 思わず聞き返したぼくに、フューラー町長はもう一度頷いた。


「スキル名には、細かく記されたものとざっくりしたものがあることにはお気付きで?」


 そう言えば。


 グランディールには「移動」「鑑定」のようなざっくりとした名前のスキルが多い。ぼく自身「まちづくり」だしね。


 そして、ぼくの両親は「火種作り」「水滴集め」と、そのものズバリのスキル名。


「細かく記されたスキルはレベル上限が高く、ざっくりしたスキルはレベル上限が低いという特徴があります」


 ……確かに。ぼくの両親はレベル上限5000以上と言う高レベルだ。


「ミアストはレベル上限が高い者を選んで取っていたようですが」


 ぼくの言葉にフューラー町長は頷く。


「しかし、細かいスキル名は、どれだけレベルが上がっても、それ以上のことは出来ないのです」


 うん。両親ともかなりの高レベルだけど、スキルで出来るのは「すぐ火のつくほくち箱」と「水が尽きない水筒」が限度だった。


 一方、うちの「移動」のアレは連続使用はできないとはいえかなりの遠距離を一瞬で移動できる。ヴァローレの「鑑定」なんてスキルの解除法まで鑑定してくれるしね。


「つまり、ざっくりとした低レベルは」


「そちらの方が手放すには惜しい存在なのですよ。レベル上限1の「まちづくり」をお持ちのクレー町長ならばお分かりになるでしょう」


「なるほど。成人式で出た文字だけで評価しているのだから、スキル名の向こう側の内容を読み取れない」


 レベル上限と、詳しい説明になっているスキル名しか見てないのなら、「まちづくり」なんてとんでもないスキルを見逃したということか。


「クレー町長を見逃したのはの失敗。その責任を適当な相手に押し付けて、一度追い出した人間を連れ戻そうとするなど、恥知らずにもほどがある」


 フューラー町長は憤慨ふんがい


「まあ、そのおかげでエアヴァクセンから追い出してくれたのですから、私としては感謝するほかにないのですがね」


 エアヴァクセンにいる状態でグランディールは絶対に作れなかっただろうし、みんなと出会うこともなかっただろうから。

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