第225話・町長の話し合い

「よし、今日も色ののり、よし!」


 目と髪の色を変えられて、クイネに指差し確認を受ける。


 いちいち面倒くさいけど、この髪と目の色替えは、仮面を心の中でつけるのと同じく、町の外で見せている町長クレー・マークンに交代するルーティンになっている。


 つまり、これから気の抜けない場所……「いくさ」の行われる「せんじょう」へ行く心構えを作ることになるんだ。


「よし、胸張って堂々と!」


「ありがとうクイネ」


 薄い笑みを浮かべて、ぼくはグランディールの転移門に向かう。アパルとソルダートも一緒だ。


 これからスピティの成人式に行く。それもフューラー町長直々のご招待でだ。


 招待がなくても見に行こうとは思ってたけど。


 なんせ、ぼく、エアヴァクセンの成人式には何度も行ってたけれど、他の町のは見てなかった! 視野が狭いっていうのか、他の町を見に行くとエアヴァクセンに通れなかった時の保険にしたみたいでいやだった! 結果、何処にも行けず追放だったけどね! でもついてきた妹と絡んできた盗賊団のお陰で運命大転換したけどね!


 ……それはいいとして、スピティ……と言うか他の町の成人式は見ておかなければならないから。自分の町の成人式をどういう風にするかを参考にするために。


 スピティに入るなり、笑顔を浮かべたフューラー町長のお出迎え。


「ようこそ、おいでくださった」


「いえ。こちらこそお招きありがとうございます」


 招かれてなかったら一般客の振りして入ろうと思ってたんだけどね。


 護衛に囲まれながら、会場の会議堂に向かって歩き出す。


「うちの新成人も、グランディールの町長がいらしていると聞いて喜んでいましたよ。スピティに留まれないならグランディールに行く! と」


「お世辞でも嬉しいですよ」


「いやいや世辞抜きですよ。また広がって」


 今はスピティに日光の邪魔にならない位置に移動しているグランディールの浮いている方向を見て、頷く。


「しかも素晴らしい神殿が出来たそうではないですか」


「おや、耳が早い」


「グランディールと行き来している家畜商が聞きつけてきましたよ。一目見たいものです」


「広場まででいいなら明日ご覧に入れますよ」


 如才じょさいない笑顔で応える。


「そこが成人式の会場ですから」


「ほう!」


 一瞬感動したように声をあげたフューラー町長だけど、すぐに顔に影が入った。


「……招かざる客も入るのでは?」


 うん、分かってる。


「だから神殿なのです」


 ぼくは声を潜めて答える。


「神殿は西の民を一時的に入れていた出島に作ったので、常に番人のいる通路を使わなければ、町とは行き来できません。そして神殿は観光地として作ったものではないので、ほとんどの場所は町民以外立ち入り禁止です」


「ほほう……」


「広場は数少ない町民以外を受け入れる場所です。逆を言えば、広場以外に行こうとする外の者は、結局広場に戻らなければならなくなります」


「なるほど。それならば安全ですな」


 そこでフューラー町長は前見て歩きながら一段と声を潜める。


「ミアストが入り込んでいるという情報が入りましてな」


「ほう?」


 意外ではないが重要情報だ。ぼくもフューラー町長の顔を見ず前を見ながら相槌あいづちを打つ。


「過日、配下を連れて企んだのを失敗して石で追い出されたので相当懲りたのか、身一つで乗り込んできたと」


 スピティのような町は、ランクが同程度から高い町に人を派遣して情報を集めさせていることが多い。エアヴァクセンのような詐欺を仕掛けてきた町なら確実に。次の動きに先手を打てれば、相手に打撃を与えられるからだ。


 ミアストはスピティに詐欺を仕掛け、グランディールに乗り込もうとして、石で追い出された訳あり懸案。表向き堂々と出てこられないが、スピティやグランディールに何か仕掛けて来るのを当然フューラー町長は警戒していて、そして案の定な情報を入手した。


「前回は部下の愚かさで痛い目に遭ったので、部下も信じられずに単身乗り込んできたのでしょうな。昔は町長自ら動くなど高ランクの町の恥と言っていた気がしますが」


「恥も外聞も構っていられないほど追い込まれたということでしょうね」


 くくく、とぼくは喉で笑う。


「……ああ、スピティの鑑定士をお借りできないかと言う話は」


「喜んでお引き受けするとの返事です。グランディールのような町を成人式に鑑定してそれを発表できるとは名誉だと。しかしグランディールにも鑑定士がいるのに、わざわざ町の鑑定にスピティの鑑定士を使わずとも……」


「ケチをつけられる要素は出来る限り排除したいですからね」


 しれっと答える。


「ミアストが来ているというならなおの事」


 西の民を入れ、新たに神殿を作ったグランディールの現在の町レベルの鑑定を、成人式の最後にスピティの鑑定士に依頼したのだ。うちの鑑定士ヴァローレは何でも鑑定できるけど、連続で鑑定するとしばらく力を補充しなければならないし、何より目立つのが大嫌い。町の鑑定まで出来ると知られたら引き抜きの連絡がガンガン来るからと、町の鑑定を嫌がっていた。


 でも、それ以上に怖いのが、「町の人間で鑑定するなんてインチキだ」と言ってくる難癖なんくせ野郎だ。


 ミアストのような性格の人間がいれば、ヴァローレが町の人間と知ったら、どんな鑑定をしても「自分の町の人間に鑑定させて信用できると思うか」と自分の子飼いの鑑定士出してきて低く鑑定させるというスピティや他の町でやった詐欺をグランディールにも仕掛けて来る可能性がある。いや、展示即売会で既に手下が仕掛けてきていた。追い出したけど。


 可能性がある限り、原因は排除しないとね。

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