第223話・今更遅いです
成人式に向けて準備が始まる。
スピティの近くに停泊させてもらって、スピティの成人式が終わった翌日だから、そっちに出席した客がこっちに流れて来る可能性が高い。
西の救出に行ったため、グランディールの知名度は西側に高い。けど、西から流れてきた話で、東でも噂になっているとか。サージュが手に入れた噂だと、エアヴァクセンと「いくさ」なしの勝負をしているとか(間違ってない)、鳥が大好きでフォーゲルにも一目置かれてるとか(間違ってはいない)、信仰心篤い町長が困り果てた西の民を助けに行ったとか(完全に間違っているわけではない)、なんか噂が乱れ飛んで、物見高い暇人は是非とも一目見たいと憧れられているらしい。
「……観光目的立ち入り禁止に出来ない?」
「それやると、新町民も増えない」
「ああう」
新しい特殊な町は、仲間内で作ることが多いので新町民を増やさない所も多いのだけれど、「仲間だけでいい、他はいらない」にすると、中心にいるスキルの主が亡くなったら町そのものが崩壊してしまう、とはフォーゲル町長からもらった写本に書いてあったこと。グランディールも随分人が増えてきたけど、特殊な町であればあるほど、
これをすべてカバーできるスキルを、ぼくが死ぬまでに揃えなければ。
ぼくは十六歳になったばかり。色々忙しくて、自分の誕生月が過ぎたのも気付かなかった。両親とアナイナがアパルとサージュに頼んで一日だけこっそり空いた日を作って、家で誕生祝いをしてくれたけど、ぼくは言われるまで家族が何をしているのか分からなかった。アナイナに「町長病だ」って言われた。……あながち間違っていない。
話は逸れたけど、ぼくは十六歳になったばかり。だけど、一人の人間としての寿命と町の寿命を一緒にしちゃいけない。人間は一人でも生きようと思えば生きられるけど、町は町民がいなくなれば消滅し、生き返らない。
これまでどれだけの「町」が、町の始祖のスキルを継げずに消えて行ったんだろう。
そして、グランディールに同じ運命を辿らせたくない。
最低三代五十年。五代続けば古い町。百五十年あれば立派な長寿の町。
町はそれほどに
だからこそ、今……町を作って一年。この時代から先を見据えて町民を増やし、その衣食住を守り、気を抜ける空間を作り、他の町との交流をしなければならない。
それが、町長の役目。
◇ ◇ ◇
「……もう一度」
「はい?」
「もう一度言ってみろ!」
モルは震えあがって、主たるミアストに繰り返した。
「は、はい、グランディールは現在スピティ近くに停泊、翌月二日に初の成人式をとり行うと……」
「あの忌々しい小僧めが!」
ミアストは拳をデスクに叩きつける。
「成人式! 成人式だ、成人式! 月に一度、町の力と威厳を示すセレモニー! それを、一年、たった一年だぞ、一年でやってしまうというのか?!」
モルは小さくなってミアストの怒りに
これまでモルの怒りの
フォーゲルは鳥を
スヴァーラがいない今、その怯える目を見て楽しむことも出来ない。その鬱屈は会議堂で働く女性たちに向き、女性陣に盛大に嫌われた。
ミアストが女性陣の批判を浴びてもモルを追い出せないのは、それまで任せた汚れ仕事が多すぎて、しかも馬鹿だから監視下に置いておかないといつ漏らすか分からないからだ。
それに、ミアストの怒りの捌け口にちょうどいい。
怒鳴っても殴っても蹴っても文句も言わず、そして壊れない頑丈さ。そして口封じのスキル「無言」。
女性陣を全員敵に回したとしても、今更ミアストはモルを手放せない。
そう、今のように怒り狂う自分を前にして逃げ出さないのはモルだけだ……たとえその愚かしさから来る敬意だとしても。
肩を怒らせ、手あたり次第に物を投げつけて、肩を怒らせ、そしてやっとミアストはモルに退出を許した。
モルが小さくなって出て行く。
ミアストは苦虫を噛み潰した顔で書類を見る。
グランディールの情報は、積極的に集めている。いずれ自分が手に入れる町なのだから、情報を手に入れておかなければと思って。
だけど、集めれば集めるほどミアストの不愉快は大きくなっていく。
集めれば集めるほど、グランディールの名が高くなっていっていることを思い知らされて。
「くそぉ……一年前、あの小僧を追い出さなければ……!」
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