第221話・多分知ってる中じゃ最高
言われるまでもなく、それらの意見をまとめて形にしたぼくは知っている。
神殿の作りとかも分かっている……と言うか、かの「スキルの使い方上下巻」で、「意識して作ったならば、そのデータはキチンとまとめられ、頭の中に入る」と書いてあった通り、ぼくが思い出そうとすれば神殿の作りくらい一発で分かる。
でも、笑って応える。
「それなら安全だ」
「町の人以外が来たら、許可を貰わない限り扉は閉まって開かないの。町の人と一緒に通ろうとしても、通れないの」
「へえ」
アナイナの目も、不思議な神殿の話でキラキラ。
エキャルは……ぼくの頭の上に落ち着いて乗ってる。
「じゃあ、わたしたちは通れるの?」
「もちろん!」
アナイナとヴァチカが笑い合う。
「だよねえ! わたしたちグランディールの民だから!」
「そう! あたしもグランディールの民だから!」
「あたしもグランディールの民、じゃない! わたしたちみんなグランディール!」
きゃいきゃいと騒ぐアナイナとヴァチカ。
「町長が作ってくれたんだよね!」
「ぼくだけどぼくだけじゃないよ」
「すげー。おれらと大して変わんねーのに
変に感心された。
「やっぱ町長だな!」
「立派な町長だね!」
……町長の仮面って概念のお陰なのは言わないほうがいいかもしれない。
町長の仮面は理想的な町長になるためのもの。グランディールの素晴らしい町長になるためのマル秘アイテム。……まあアイテムって言っても概念なんで知られて探されても困りやしないんだけどね。
でも、町民にそれを説明する必要はないな。表向きは理想的な町長でいいし、町中では親しみやすい町長でいい。頭にエキャル乗っけして歩いてれば、この町長はなんか違うけど話しやすいかも……くらいは思ってくれるだろう。
しばらく
……うん、作りも色も何もかも頭の中に収まっているけど、この目で見ると違うね!
静まり返った、薄明るい空間。
白い
「くに」の「おう」のマントにも使われたという、この見た目も手触りも完璧な天鵞絨が、高い天井から床まで、向こうの扉までの通路の両脇をずっしりと覆っている。白とは何も染めていない色。少しでも触れば汚れそうで怖い。……てかこの幔幕なんて、普通この大きさ天鵞絨で作れないだろ! 自分で作っておいてツッコむのもなんだけど!
そして天井と床は白大理石。
自照灯が天井と床をほんのりと照らしていて、白一色が目に負担を与えない穏やかな薄灰色に空間を染めている。
白一色と言う、目が痛くなりそうで、緊迫感とか威圧感を醸し出してもおかしくない色が、自照灯の控え目なお仕事で穏やかで安らげる通路になっている。
その真ん中をすたすた進む三人。
まあ、ね? スキルで作られたものだし、その気になればスキルで綺麗にすることも作り直すことも出来るけどね? ぼくも空飛ぶ町の町長やってるけど根が貧乏人だから、実際に作るといくらかかるのかな~とか思っちゃうわけですよ。
……ぼくはエアヴァクセンとスピティの神殿しか知らないけど、上位神殿はスピティしか知らない(エアヴァクセンの上位神殿は仮住人や貧乏人は入れない!)けど、……通路だけで、多分どの町にある上位神殿より立派だぞ。金も時間も手間もかかっていると思われるぞ。実際には無料想像時間のみ手間なしだけど。ここ通常神殿だよね。……子供がケンカしたり旦那が蹴り出されて逃げ込むような空間じゃないぞ。
ミアストがこれ見たら……うん、絶対にグランディールを取り込もうとするだろうな……。どれだけ資産と人脈と幸運を注ぎこもうとも出来る神殿じゃないからな……。いやスキルの持ち主を集めに集めまくればできないこともないだろうけど。……あとはデザイナーか。デザイナーだけならエアヴァクセンに一時いたのに、スキルが使えなくなったって追い出したもんなあミアスト。スキル使えない追い出し人がグランディールに関わるほぼすべてのデザインをしていると知ったら、泣いて悔しがってどんな手段を使ってでも取り戻そうとするだろうなあ。
うん、会場から神殿に繋がる扉が二つで、どちらも町民以外はほぼ通行禁止で良かった。
通路を歩くと、幔幕に隙間があって、そこに扉がある。
この扉は小部屋に繋がっていて、休憩室や相談室、仮眠室だったりする。うん、良かったよこういう何にでも使える部屋作っといて。神殿の床で一晩明かすって、この神殿だと緊張して寝られない!
やがて、先に白と薄紫で作られた両開きの扉が見えた。
この先が聖堂だな。
「勿論この扉も?」
「「「用のある町民以外立ち入り禁止です!」」」
三人そろってにっこりで答えてくれた。
うん、分かってるけどね? でもここは聞かなきゃダメでしょ。
男子二人で扉を押す。
すぅっと、空気が変わった。
少なくとも通路はまだ人のいる場所だったけど、祈りの場所、聖堂は、聖なる場所だ。
三人が一礼してから入って、精霊神のシンボルが飾られた祭壇まで歩いて行って、こっちを振り返る。
「どうぞ」
さすがのアナイナもこの空気に緊張しているけど、ぼくはアナイナに頷きかけて、ゆっくりと祭壇に向かう。
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