第220話・不思議なつくりの神殿
ファンテの見送りを受け、ぼくとアナイナとエキャルは出島……ある意味聖域に入った。
人々がいそいそと掃除をしている。
「やあ」
「こんにちは町長!」
顔をあげた人が、ぼくを見て笑顔で挨拶してくれる。
「町長?」
「ようこそ神殿へ!」
「祈ってくださるのですか?」
ある程度安定した町になると町長の仕事が増える。
神殿で町の無事を祈ること。
どんな素晴らしい町長と素晴らしい町民と素晴らしい町でも、精霊神の御加護なしではやっていけない。故に、神殿を作った町長は町の安全を精霊神に祈る。
「それもあるけど、純粋にどんな神殿になったかを回ってみようと思って」
「神殿の見学ですか!」
うわ、みんながキラキラしてるキラキラしてる。機嫌いい時のヴァリエそっくりだ。
でも、自分たちの神殿を自慢したいんだな、と言うのも分かる。
たとえその相手がこの神殿を作った町長だとしてもね。
アナイナが何も言わずに黙っているので横を見ると、アナイナは口をあんぐり開けて神殿を見上げていた。
うん、三階建てだしね! 結構広かった筈の出島が広がらないと収まらなかったくらいの広さだしね!
「そちらは?」
「妹のアナイナ」
「ああ、成人式の!」
西の町は人数が少ないから、ポリーティアーに集まって行うという。そのために新成人はポリーティアーに向かって旅をする。西の町の成人式は季節によっては命懸け。
それが、グランディールとして統一され、しかも盛大に祝ってもらえるというのもあって西の人々の浮かれっぷりは半端ない。
「そうですか、神殿を見に。では」
男が大声を張り上げた。
「マーリチク! ヴァチカ! ラガッツォ!」
ん? 聞いたことあるな。
走ってきたのは、三人の少年少女。アナイナと一緒くらい……いや。
「成人式の三人?」
西の三人がちょうどアナイナと同じ年同じ月生まれ。アナイナと一緒に成人式の主役になる子たちだ。
「はい! マーリチク・バーンです! 二日の日はよろしくお願いします!」
「ヴァチカ・バーン、成人式をありがとうございます!」
「ラガッツォ・コピル。町長のお陰で危険な旅もその帰りもなくて済んだ! ありがとう!」
三人三様に感謝の言葉を述べてくれる。
「三人とも、神殿の案内を」
「はい!」「もちろん!」「おう!」
西の人々は、もうこの神殿は自分の家より知っているだろう。三人ももうすぐ自分たちが主役になるイベントがこの神殿で行われるんだから、興奮感も半端ない。
「では、こちらへどうぞ!」
ラガッツォが先頭を歩く。
「こちらが入り口です。聖職者が現れるまで、西の民で交代に詰めることにしました」
「あ、もちろん畑とかサボるわけじゃない……んですよ? でも、神殿の守り手が現れるまでは僕たちが守らなきゃってことで」
「変な奴は入れないぜ!」
ヴァチカが説明し、マーリチクがフォローし、ラガッツォが詰める。マーリチクとヴァチカは双子の兄妹だから息ぴったり。ラガッツォは西の北西の町の生まれで、ポリーティアーからかなり離れているので成人式に三日前から歩いてこなきゃいけないという強行スケジュールが待っていた。
それが、自分の住む町の自分の神殿で行えるって言うんだから、嬉しいよな。
分厚い扉を開けると、ちょっとした広場があって、中央に立派な下り通路、それとは別に左右二方向に繋がる上り通路があった。どの通路も階段じゃなくてスロープ。緩やかな坂。
三人が迷わず右を上っていく。
後を追ってぼく、アナイナ、頭の上のエキャルでスロープを上る。
その先にある扉を開けると、そこは高かった。
階段状の座る場所が下って行っている。
「成人式の、あるいはそれ以外の町民参加行事の会場、そしてグランディール以外の町民の祈りの場になります!」
「なるほど、他の町の人も入れるな」
一番下には広い空間と、檀があった。
壇の後ろの高いスクリーンは、そこで話す言葉が文字にされたり、成人のスキルの鑑定結果が出るようになっている。
「色んなこととか出来るんだぜ!」
「奥へは?」
「こっちからになります」
三人が先導して、一旦会場から出て、階段を降りる。そして広間に戻る。
そして、今度は中央の下りを降りていく。
緩やかな坂なので、疲れるとか大変とか言うことはない。
少し長い通路を歩いて、窓がない代わりにスキルで作られた、暗さによって明るさを自動で変える
そして、両開きの扉。
マーリチクとラガッツォがせーので扉を押し開ける。
ゆっくりと扉が開かれ、太陽光の溢れる美しい空間が飛び込んできた。
「あれ? 降りてきたのに太陽?」
不思議そうなアナイナに、ヴァチカが答える。
「えっと、会場が高い所にあるから、下り通路って言っても地面より下は通ってないの。神殿に行くには、会場の奥、壇から行くのと、この、ちょっと低い場所を通るのと、二つあるの」
「なんで二つも? 会場から直接入るだけじゃダメなの?」
「だって、会場は色んな人が入るでしょ? 分かりやすく入り口をつけておくと、そこから侵入者が雪崩れ込むかもじゃない」
だから式典などの主役格や重要人物しか降りない壇の向こうにあって、そこから神殿に行くにも幾つかのゲートを通らなければならない。
「あの入り口のドアは?」
「あれはね」
ヴァチカが声を潜めたので、ぼくとアナイナは耳を傾けた。
「グランディール町民にしか開けられないの」
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