第219話・西の民が望んだもの
ちなみに上位神殿を作れるのは、Sランク以上の町が建て、大神官がいる場合。それ以下の町はどれだけ立派な神殿を作っても、通常神殿と言うことになる。しかもうちには大神官いないから箱ばっかり立派でも普通の神殿。
そんなこと、もちろん信仰心篤い西の民は分かってる。
でも、自分たちが祈れる神殿がある、と言うのが嬉しいんだろう。
信仰心は誰よりあるのに、祈れる神殿は荒野の彼方、誰も見たことがない。
家で祈るだけではなく、特別な日、特別な時に、自分たちの作り上げた神殿で、精霊神に心からの祈りを捧げたい。
その願いが叶った。しかも、どんな町でも見たことがない程立派な理想の神殿が出来た。
西の民は、信仰心が篤いのに報われない。聖地を守っているのに神の救いはないと言われる。
もちろんそんなことはない。有り得ない。
精霊神に与えられる奇跡や、祈る場所で信仰心が図れるわけがない。
なのに、
だからこそ、西の民は神殿が欲しかったんだろうな。
自分たちにとっての特別な場所が欲しくて。
自分たちの信仰心を……熱い思いを馬鹿にされたくなくて。
もちろん、箱の立派さだけが信仰心じゃないってことを、西の民は知っている。
でも、箱がないからって信仰心がないとは思われたくない。
だから、箱が欲しい。
空っぽの信仰心であの箱が相応しいって言うのなら……!
うん、見せたくなるのも分かるな。西の民、敬虔な人たちで聖地守り手として誇りを持っているのに、その信仰心を甘く見られて馬鹿にされてたからな。
「神殿のことを馬鹿にするんじゃないよ」
一応釘を刺しとこう。
「西の人たちにとっては、自分の家よりずっとずっと大事な存在なんだからね」
「しないよお」
大丈夫かなあ。決して信仰心がないわけじゃないけど、思ったことはすぐ口に出しちゃう
エキャルが頭の上でまたタップを踏んでいる。
「よしよし。じゃあ行こうか」
◇ ◇ ◇
門の方に向かって、門を通るのではなく、その脇にある細い道に入る。
槍を持った兵士が一瞬槍で止め……かけて、ぼくと気付いて槍を引いて頭を下げる。
「あんったね……もが」
文句を言おうとしたアナイナの口を塞ぐ。
「ご苦労様。ええと、ファンテだっけ?」
「はい。失礼しました、町長」
ファンテ・ファンタサンは、西の地でも有数の戦士。成人した時スキル「兵士」の上限レベル7000を見込まれてヴァラカイより東の町からも勧誘があったが、自分は聖地を守る、そのためのスキルだ、と断ったらしい。
結局聖地が失われ、一時目的を見失って困っていたらしいけど、西の民が中心になって作る理想の神殿作りで理想を取り戻し、神殿と、その彼方にある大神殿を守ると自ら通用口の守りを引き受けた。
真面目で冷静、兵士としてはかなり優秀だ。
ちなみにぼくを一目で分からなかったのは、外向きの赤金の髪と翡翠の目をしていなかったから。でもすぐにぼくだと分かって槍を引く。この判断力もすごいと思う。
「誰か来たか?」
「自分と同じ西の民が、朝から」
「……ああ」
手入れに行ってるんですね?
「ですが町長、ありがとうございます」
深々と頭を下げられた。
「ん?」
「あんな立派な神殿を、我々……いえグランディールに授けてくださったことを。どこの町に行ったとしても、我々の為に神殿を作ってくださる町はなかったでしょう。西の者を代表して、御礼申し上げます」
「ああ、いやいや」
ぼくはゆっくりと首を横に振る。
「いずれ神殿は作らなきゃいけなかった。西の人たちが言い出さなくてもね。ただ単にタイミングが良かっただけ。それに、町で一番祈るのは西の人たちだろうし、だったら一番使う人たちが気に入る場所にしないと」
「そう言ってくださるのはこの町の町長くらいです」
再び頭を下げるファンテ。
「グランディールに来てよかった。我々の信仰を無意味と嘲笑う人は、この町にはいなかった。むしろ神殿を作るのに我々の意見を聞いてくれて、積極的に取り入れて、我々の理想の神殿を作り上げてくださった。元からいる町民を優先して当然なのに……」
「西の人たちのアイディアが良かったからだよ。グランディールはいいアイディアを取り込むことには積極的だ」
「いい町にいい人たちだ。この御恩に報いるためにも、このファンテ、命懸けでこの門を守りましょう」
「命懸けにならない程度に頼む」
これだけの門番が命がけになるなんて、「くに」の「いくさ」くらいだ。今いる門番は、盗賊団や犯罪者から町を守り、不審者を通さないためにいる。確かに大きな町になったら盗賊なんかに襲われる可能性が高くなり、町を守る門番や兵士が必要になる。だけど、町がファンテクラスの兵士に命を懸けてもらうのは、とんでもない敵……噂に聞く世界的盗賊団や、あるいは町が襲ってきた時……。つまり、町の存亡の危機。あってはならないこと。
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