第215話・スキル発動・神殿

「あの時は町長が一番ダメージ食らってたぜ?」


「……あれはぼくが無茶な条件を力技で通そうとしたからだよ。今ならわかる。ぼくがもっと上手くやれば誰も……ぼくも倒れずに済んだんだ」


「気にすんなよ町長。オレらもやりたくてやったんだから」


「でも、スキルを使うたびに倒れてるわけにもいかないだろ」


 スピティで水路天井を作った時、ぶっ倒れる直前の浮遊感を思い出した。汗と吐き気と目眩めまいが一気に押し寄せた、あの一瞬。


「グランディールをSSSにするためには、スキルを使うたびに倒れるようなことをしていたらダメなんだ。自分で意識して、スキルを自在に使えるようにならないと」


「……ここはあんたの町だから、あんたがやりたいってんなら好きにやればいいよ。でもな、気を使い過ぎるなよ? オレ達だって協力したくてしてるんだから」


「ありがとう」


 ぼくは笑って、シエルにも神殿の想像をしてもらうように頼み、目を閉じる。


 そこで、いつの間にかスキルが自動発動しそうになっていたのに気付いた。


 危ない、危ない。


 勝手に発動するスキルはおねしょのようなもの。自分の意思で出来るようにならなけりゃいけない。今まで無事だったからと言って、これからも無事とは限らない。スピティのように気力を馬鹿遣いしてぶっ倒れる可能性だってあるんだ。あとから話を聞くと、しばらく町の機能はストップしていたらしい。みんなぼくを心配して、スピティで寝込んでいるぼくの所に御見舞いに行こうとしたり、癒し系のスキル持ちが抜け出したり、極端なところだとスピティが悪いとキレた一部が殴り込みをかけそうになっていたとか。それを抑えるのに町は大変、緊張の一週間が続いていたらしい。


 うん、本当、申し訳ございません。


 そんなことで町民に他の町の人と揉め事を起こしてもらいたくない。揉め事を起こすのはエアヴァクセン相手だけでたくさんだ。


 いや、今は揉め事じゃないな。神殿だ、神殿。みんな真剣に祈ってくれているのにぼくがスキル発動させないと終わらない。


 よし、集中。


 頭の中にある神殿の様々なデータを掘り起こして、周りで祈る人の頭の中の神殿の様子を搔き集める。最後に全体的なイメージを持っているシエルから。それをぼくの頭の中で組み合わせ、具体的な形を作る。それを最後の一押しで具現!


 よし、上手く行った!


 手ごたえを感じてゆっくり目を開ける。


 目の前に、ドーンと建つのは、スピティの上位神殿でも敵わないような真っ白の神殿。


 ……多分、多分だけどね? 西の民にとっては神殿とは日没荒野の向こうの幻の大神殿だから、こんなのが出来てしまったんじゃないかな? と。


 いやー、不敬とか言われないかな? ぼくのスキルで出来てしまったとは言え。


「おおお! 俺たちの神殿だ!」


「すごい……!」


「なんてすばらしい神殿……!」


 そりゃあ、大神殿が最高だと思っている人たちが想像する神殿ですからね? 理想の神殿が出来ちゃったねえ。他の町の神殿から苦情来ないかなあ。いや、神殿を作るのは町が精霊神への信仰を表すもので、立派なら立派なほど町の立派さをも表すから、この時点でエアヴァクセンは超えているからいいのか、な?


「とりあえず入ってみる?」


「い、いいのか?」


 この町の神殿だって言ってるでしょうが。


 みんな揃って、恐る恐る入ってみる。


 ……うん、すごいわ。


 てか、スキルがぼくに「広さを増やすべし」と告げていたけど。うん。出島広げないと神殿はみ出てたね! ありがとうお気遣いスキルさん!


 もう辺りは歓声でうるさい。


「これからここで祈るんだ!」


「毎日祈れる!」


「あのー、成人式や町のイベントもここで行うために作ったから、その点を忘れずに……」


「うん大丈夫、手前の広場でやるんだろ? 神域には入ってこないんだろ?」


「掃除やる!」


「手入れもする!」


 盛り上がる皆さん。


「あのー、神殿もいいですけど、みんなの家も……神殿探索はあとでしてもらうとして、夜が来るまでに家の場所の中を確認していただけないでしょーか……」


「あ。そんなものもあったっけ?」


 家の事……まあ忘れるよな。西の民は祈るのが生活で、今までそれが出来てなくて、そして目の前でその場所がすんばらしい勢いと姿で具現化したら。


 でもね、暗くなる前に家は確認しておいてお願いですから。さもないとその家が自分の家か分からなくて地べたに寝る羽目になりかねないから。


 それを伝えると、西の皆さんは窓から見える夕日を見て、西側にある、神官も聖職者もいない祭壇に頭を下げ、そして四散していった。


 ……やれやれ。



 町ではもう一回騒ぎが起きて(自分の好みの家に入って自分の念願の部屋があることに驚いた西の皆さんだ)、そしてやっと食事を取りに食堂に向かった。クイネ大丈夫かな。料理できる人増やしたほうがいいんじゃないかな?


     ◇     ◇     ◇


「さて、会場は出来た」


「豪華にしないんじゃなかったのか?」


「会場が豪華すぎるだけです。それに広場はもう少し地味です」


 反論してみるぼく。


「会場を神殿にするって言った時点でこうなるのは目に見えてただろ」


 西の皆さんの理想の神殿は大神殿で、一から理想の神殿を作ると言ったらそりゃあ大神殿がイメージされるよな。


「でも、一応町と出島はチェック入れないと通れないから」

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