第214話・神殿と出島と通用口と

「何をしてるんだ?」


 地面に這いつくばって色々描いているぼくとシエルを不思議に思ったのか、アパルとサージュもやってきた。


「いや、実は」


 デザインをシエルに任せてぼくは二人に説明する。


 成人式対策にぼくが考えたのは、恐らくはとんでもないことになっているであろう神殿を会場に使うことだった。


 門から町の西に突き出た出島に神殿を作る。西に神殿を、と言うのは最初から西の民が拘っていたことなので、出島も西だし、空いた出島に神殿を作るのは、神殿に生活感も出なくていい。


「なるほど……しかし」


 サージュが眉間にしわを寄せる。


「何か問題があるの?」


「いや……門から出島に向かうなら、たとえミアストの手下が出入りしても、門から町の出入り口と出島への出入り口は逆につけられているから、出島から町へ出入りしようと思ったら、必ず門番の前に顔を出さなければならない。直接チェックが出来る。……だが」


「?」


「問題は、チェックできる人がいないところだ。今のところ、完璧に害意のあるなしを見分けられるのはヴァローレしかいない」


「う~ん……必要なスキルはやっぱり「鑑定」?」


「その他にもあるけれど、最低でも町の人間かそうでないかだけでも瞬時に見分けられる能力が欲しい。それ以上があればよりいいが」


 エアヴァクセン、スピティ、ファヤンス、西、と町民が増えてきて、ぼくもさすがに全員の顔を覚えていない。スキルなしで全員の顔を覚えている人がいたらその人は天才だ。


「あの、わたしが出来るかも」


 恐る恐る手を挙げたのは、日焼けした若い女の人だった。服装からして西の人。ぼくより少し年上でしかないだろう。


「あなたは?」


「シー・アナリシス。スキルは「分析」」


「「分析」? 「鑑定」じゃなくて?」


「ええ」


 「分析」はどういうスキルだと思っていたら、シーが教えてくれえた。


「「鑑定」は判断すること。「分析」は細かい事柄を一つ一つ確認して真実を見極める……鑑定との差を手っ取り早く言えば、時間がかかるの」


「へえ? じゃあ、一人じゃ厳しいかな……」


 一目で全部知れる「鑑定」と違って、部分を深く掘り進めるのが「分析」って感じだな。確認はできるけど、時間がかかるかあ。


「でも、最初に確認するのは町民であるかどうかよね」


「そうだね」


「なら、一見……顔を見るだけで判断できるわ。町民じゃなかったらそこから事情を掘り進めて行けばいい」


「なるほど!」


 ぼくは思わず拍手をし、サージュが大きく頷いた。


 町民と町民でない人を見分けられ、町民じゃなかったら事情を探れるシーは持って来いだ。


 ……だけど。


「本当に、いいの? やりたいこと、あるんだろ? この町はやりたいことをやるのがモットーなんだけど」


「十分、よ」


 シーは笑った。


「わたしが精霊神から与えられたスキルは、今まで誰にも何の役にも立たなかった。それが、わたしたちを助けてくれたグランディールの役に立つなんて、とても、とても嬉しいの。任せて町長。わたしがやるわ」


 シーはどん、と胸を叩く。そして、でも、と言った。


「荒事とかは全然だから、そこを考慮こうりょしてもらわないと困る」


「うん。じゃあ、ソルダートとキーパのガードの後ろから「分析」してもらえばいいね」


「外と町をつなぐ転移門以外に、出島と町をつなぐ通用門も作ればいい」


 シエルが地面に置いた紙から顔をあげずに提案してきた。


「門から町と出島をつなぐ通用路を作って、そこに門番と分析を置けば、不自然じゃないだろ」


 言いながら描いている絵は紙を飛び出して地面の上にまで描かれている。


「アパル、会議堂行って大きい紙と板持ってきて」


 戻ってきたアパルから紙と板を受け取って、シエルに完成図を頼むと渡す。


 シエルが丁寧に描き始めたのは、既にある出島を占拠する勢いで建っている豪華な神殿と、出島と町、門をつなぐ通用門だ。


 グランディールに入る人間は。門の次にある通用門で出島か町のどちらかに行くことを決める。そこには確認所。門番と、観察人が待機する小部屋がある。


 なるほどなあ。


 紙や地面に描き散らかされた絵から、必要な決定事項だけを取り寄せて描き込む。


 大きな紙数枚分になったのは、設計図や部屋のイメージ図、外見図など。


「これで上手いこと想像できるか?」


 ぼくはじっと紙を睨む。


 出島の上いっぱいに広がった、壮大な神殿。町のイベントも行える。


 シエルの描き上げた絵は、ありありと目の前にあるかのように描かれていた。


 そして、何も自分一人で作るわけじゃない。


 町を広げた時に「西の人々の希望」を覗いてほしいと頼んだように、今度は「希望の神殿」をまとめればいい。


「じゃあ、皆さん。自分の一番大好きな場所をそれぞれ想像して祈ってみて」


「祈る?」


「そう。希望の神殿を」


「それじゃ今までも変わらないじゃないか」


 シエルが不服そうに言うのにぼくは苦笑した。


「シエルだけに負担をかけないようにしたかったんだ」


「オレは負担だなんて思ってねーけど」


「うん、知ってる。でもぼくは町長だから、一人に重大な負担をかけるのは避けなきゃいけなかった。スピティの水路天井でも、シエルやヴァダーに負担をかけた」

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