第213話・いいこと考えた
アナイナの丸い目がさらに丸くなる。
「え? あの、それって」
「お前が主役の一人だろ? お前がいるだけで充分目立つし派手になる。それ以上金を出して大事にしたくない」
「わ、わたしが、主役、ね? そう、なのね?」
「何を今更、グランディールの第一次町民で町初めての新成人が」
「うん。お兄ちゃんにとって、主役はわたしなのね?」
「成人式の主役は四人だけど、お前はぼくの妹だろ? そりゃあ立場がなければぼくにとっての主役はお前だろ」
「ふ、ふふ。へーえ」
アナイナはニッと笑った。
「いいよ、豪華な式典じゃなくても
色々、
「式典も鑑定式も全部お兄ちゃんに任せるから! 楽しみにしてるからね!」
アナイナはぼくの頭上で威嚇するエキャルを軽くからかってから、踊るように大通りを走って行った。
エキャルがしたんしたんと
「うん、アナイナの前で良く我慢できたなエキャル」
したんしたんしてたエキャルが、褒められてご機嫌を直してくれた。
……ぼくの周りには、ぼくを含めて褒められると機嫌を直す連中が多いんじゃないだろうか。
悪いことじゃないんだけど。褒めておけば何とかなるってことだから。
足元にいるぼくがそんなことを考えてるとも思わないエキャルが機嫌よさそうに左右にリズムを取って揺れている。
エキャルを乗っけしたまま、ぼくは食堂へ向かう。
新入りが来たからいないかなーと思っていたクイネは、しっかり料理の下拵えをしていた。
「おう町長! 新入りの出迎えは終わったのかい?」
「今神殿のデザインで忙しそうだから、先に広がった町を回っておこうと思って」
「ああ、それでここに」
「作業中申し訳ないけど頼める?」
「おう」
テーブルにエキャルを置いて厨房まで行って顔を出すと、クイネは料理の合間にぼくに触れる。
そうすると、少しずつ赤茶金の髪と翡翠の瞳が、栗色の髪と青い瞳に戻っていく。
最後にぽふ、と髪を叩かれると、髪も眼の色も元に戻った。
「ありがとう」
「そのまま定着させることも出来るが」
「いや、ぼくは町長のぼくと普通のぼくを分けておきたいんだ」
チラッと疑問の色を浮かべてぼくを見たクイネに、ぼくは肩を竦めて答える。
「多分、町長の仮面を被ったままだとぼくの心は壊れる可能性もある。だからぼくのままでいられる状況を残しておきたい」
「そんなもんか?」
「クイネだって好きでもない絵付ばかりさせられていて嫌だったろ?」
「町長は町長の仕事が嫌なのか?」
「ううん。町長の仕事には誇りを持ってるし、やりがいもある。ただ、町長のままだと疲れちゃうんだ。気が休まる暇がない」
「ああ、息抜きをしたいってことか」
「うん、そう言うこと」
エキャルがぼくの所に飛んで来ようとしていたので、ぼくは慌てて厨房を出てエキャルを頭に乗っけする。
「新入りにもここの事教えておいてくれよ」
「うん。じゃあ」
ひらひらと手を振って、町はずれに向かう。
うん、距離が遠くなったね! 広くなったね!
まだ広さ的建物数的にはエアヴァクセンには敵わない。
けど、見た目の広さと清潔さと住みやすさなら、ぼくが出た時のエアヴァクセンを超える自信は、ある。
ただ、今現在の町の中に人を入れるのはなあ……。
個人的にグランディールを怨んでるヤツもいるのに、完全出入り自由なんておっかない。だけど成人式はどの町の誰もが入れるのが常識。ともすれば閉鎖的な空間に陥る「町」を皆に紹介し、ここがいい町と言うのを紹介するという側面も持っている。これから高ランクの町を目指すグランディールとしては外せないイベントだ。
……あ。
ちょっといいことを思いついたかもしれない。
相談してみよう。そうしよう。
町を一通り回って、倍近い広さになった町を回ってから門の入り口近く、出島の出入り口があるところまで戻る。
「よーしどうだ! これ! これなら誰の文句もない!」
シエルがガバッと身を起こし、何枚もの紙を天にかざした。
「おおお……我らの神殿」
「祈る場所が出来た!」
歓声が上がってる。西の人たちが多いけど、東の人も結構いる。
「おお、町長! 出来たぞ!」
シエルがぼくを見て叫んだ。
「ちょっと見せて」
うわ、すごい、希望の神殿だわこれ。神殿だけならSSSランクだわ。
でも、これなら。
「シエル、悪いんだけど」
「え? どこか悪い? どこが悪い?」
「いや、ちょっと追加してもらいたいものがあって」
「追加?」
「うん」
ぼくは頷いた。
「大勢の……町中の人が入ってもまだ入れるほどの広間のデザイン」
きょとん、と目を丸くした人たち。
「広間を作る? そんなデカい広間作るって、土地も広がらなきゃだろ」
「出島に作るから」
「出島?」
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