第212話・成人式の相談
それでいい。足りなければあとから増やす、と答えると、スキルがびくんっと反応した。いや、ぼくの心の中だけなんだけど、そんな感じがして、スキルが動き出す。
西の民の頭を覗き、その望む家を。その望む場所に。
そして人数が増えた分湯処も。畑や牧草地も勿論。
……何か周りがざわざわしている。
意識を集中するためにいつの間にか閉じていた目を開くと、グランディールはまたその様相を変えていた。
広く、広く。
倍になった人口を支えられる町なんだから、当然簡単に考えても倍以上の広さが必要となる。
狭い土地にキツキツに詰め込んでいる町もあるけど、グランディールは土地が広がるからね。そのアドバンテージは最大限に生かすからね!
西の……ヴァラカイの建物に似た様式の建物がたくさん増えている。
統一性はないけれど、それがこの町の味、と思ってしまえばいい。慣れると逆に住人の趣味が一発でわかる。
「あ……」
「これ……」
「はい、皆さんの家です」
ぼくは頷いた。
「好きな家……っていうか、多分町の中の好きなところに理想の家が出来ているはず。成人一人につき一軒。だけど結婚してるとか一緒に住んでるって場合はそれだけの人数が住める家になっているはずだから、どうぞ」
入ってください。
「いや、家は理想なんだけど」
あれ? ぼくの意思を入れる所で理想の家じゃなくなった?
「神殿を作らなきゃ!」
……はい西の民の皆さんの信仰心甘く見てましたね。そうですね神殿! グランディールにはなかった! 民の皆さん神殿で祈りたいのを西向いての祈りで我慢してた! つらかったでしょう! だから存分に理想の神殿を作っちゃってください! 神殿が出来て聖職者スキル持ちがいなかったら、プレーテ大神官が神官を派遣してくださると言ったから!
西の皆さんがわいわいと盛り上がっていて、その中に今までの町民も混ざってる。あーでもないこーでもないという意見をシエルが全部文にしたり絵にしたりしている。
「紫の
「それは大神官様と大神官様に許された者しか入れない聖域だぞ」
「いつかグランディールに大神官が生まれるかもじゃないか」
盛り上がってんなあ。
「じゃあ、まとめといて」
ぼくは広がったグランディールを確認しに歩き出す。
エキャルが飛んできてぼくの頭に当たり前のように止まる。お前、結構重いんだぞ? 分かってる? まあ大きいから肩に乗られたらバランスがとりにくいのでいいんだけど。
「お兄ちゃーん」
人の輪を抜けて歩き出したぼくの後を追いかけて、アナイナが走ってきた。
「ああ、アナイナ」
「成人式、どんなの?」
腕に飛びつきながら聞いてくるアナイナ。ああ、忘れてくれているといいなと思ってたのに。
「派手にはやれない」
「え?」
アナイナの顔が曇る。
「豪華にもやれない」
「ええ?」
アナイナの顔が膨れる。
「なんで? 最初の成人式なんだよ? わたしの出番なんだよ?」
「お前一人じゃないから」
西の民の双子のマーリチク&ヴァチカ・バーン兄妹とラガッツォ・コピルくん。ちょうどアナイナと同じ年同じ月生まれ。つまり、成人式の主役その二、三、四。
「四人もいるんだったら、豪華にしないとグランディールが舐められるよ? ミアストなんか「なんだあの町けち臭い」とか言い出すよ? そんなこと言わせていいの?!」
「言いたい奴には言わせておく。とにかく、今のグランディールはエアヴァクセン並みの成人式は出来ない」
「えええ~~~???」
ぶーたれるアナイナ。
「そりゃあお兄ちゃんにとってはいい成人式じゃなかったかも知んないけど! 成人式は大人の仲間入りしてスキルを受け取る大事な式なんだよ?! それをケチるだなんて」
「ケチってない」
「ケチってる!」
「お前のいうケチって言うのは、人口が増えてお金が必要になるのが目に見えているのに、月に一度の行事の一回目に必要経費全部突っ込んで慌てて売るものを探すようなことか?」
「…………!」
「自分の時だけ立派にしようって考えてるんじゃないか?」
「そ、んなこと」
「お前の言うことは、そう言うことなの」
顔を赤らめたアナイナは必死で言葉を探している。その間にぼくは畳みかけた。
「今グランディールはやっと一流の町として動き出そうとしてるんだ。今無駄遣いをしている暇はない。第一、お前が言った通り、ミアストも絶対成人式に人を送り込んでくるだろう? 成人式を豪華にするってのは、ミアストに今の経済状態をさらすようなものなんだ。今、グランディールの総力がこれくらいだと計算して、少しでもエアヴァクセンを上回ると思ったら、ミアストは絶対本格的にグランディールを取り込みにかかる。あと豪華っていうならヴァローレもそうなるよな、今の計算ならフード被って顔隠すくらいで済むのに、派手にして姿晒して見ろ。ミアストが絶対さらっていく。そうなったら、お前、責任とれるのか?」
しゅーん、としたアナイナに、とどめ。
「第一、お前がいるだけで充分派手じゃないか」
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