第209話・大陸の聖職者

 結局、サージュがスキルで大陸中のD~Cランクの町の成人式の予算や内容をまとめて持ってくるまで持ち越しと言うことで、成人式の相談は終わった。


 その後は、シートスとフレディに頼んでアパルとサージュ、二人がちゃんと寝るか確認してもらう。最初はシエルが寝るのを見張る役目だったのに、いつの間にか睡眠不足の人が寝ないのを無理矢理寝かしつける役目になっている。……アナイナの躾と言いありがとうございますファーレを入れて三女傑。町は皆さんのおかげで動いています。


 何で三女傑に頼んでまで無理矢理寝かしつけたかと言うと、明日はスピティにつくから。


 フューラー町長の所に行くならともかく、上位神殿に行くのに側近が二人とも寝不足の顔をしているとあまりによろしくないということで、これからはスピティを出るまで本を読んじゃいけないと言ってあるけど、シエルが創作に夢中になると寝ないように、アパルとサージュも本に夢中になると寝なくなる。と言うわけで、グランディールの影の実力者、三女傑に頼む、と。


 ぼくは本は必要な時に必要なのを読めと言われて読む派なので、明日は仕事、でも徹夜してでも続きを読みたい! と言う本好きさんが今一つ理解できない。てかサージュの「知識」なら本読む必要ないじゃんって言ったら「知識と言うのは」「本とは知識の宝庫で」「仮にも町長ともあろう者が知識を取り込む機会をいっするとは」めっちゃくちゃ説教されたので、それ以来本での寝不足に関しては三女傑に任せてる。


 ぼくもベッドの中に戻る。


 スピティを含む上位神殿に、ザフト町長の進言は伝わったんだろうか。


 一応避難民には神殿の勧める町に決めるかグランディールに居残るかの決断の時が迫っていると言ってある。


 途中の町々が食糧を担ぎこんでくれたので、町から降りる避難民にも当座の食糧を配れるほどにはある。


 ありがとうヴァラカイ。ありがとうザフト町長。本当に頭が上がらないよ。


     ◇     ◇     ◇


 そして、もうグランディールが近くに浮いていることすら気にしないスピティ。


 アパルとサージュを従えたぼく、リジェネさんをはじめとする祈りの町代表団で、フューラー・シュタット町長の出迎えを受け、そのまま上位神殿へ。


「グランディール町長並びに祈りの町の代表者の方々ですね。どうぞこちらに」


 神官の出迎えを受けて、そのまま奥の部屋へ通される。


「大神官様をお待ちください」


 神官が出て行って、聖なる色である紫色の天鵞絨ビロードで包まれた部屋はぼくたちだけ。


 ぼくには良く分からないけれど、町長の仮面を装着してるから失礼な真似はしないだろう。


 と、奥の扉が開く音がした。


 紫の聖衣をまとった初老の男がゆっくりと入ってくる。


「グランディール町長クレー・マークン殿に、祈りの町の代表の方々ですね」


 背筋をピンとさせる雰囲気の持ち主。


「わたくしがこのスピティ上位神殿の大神官、プレーテ・ガイストリヒャーです」


 ぼくたちは深々と頭を下げた。


 この大陸の聖職者は、一般町民とはちょっと違う立場に置かれている。


 聖職者になれるのは「聖職者」関連のスキルの主のみ。成人式でそのスキルが確認されたら、そのまま神殿に連れていかれる。でも文句を言う新成人はほとんどいない。と言うのも、「聖職者」スキルの持ち主は、大体子供の頃から毎日神殿に通うような信仰心篤い人間だから。たまーに「え、こいつ、普段から精霊神なんて無視してたぞ?」と言うような人間にスキルが宿ることもあるけど、神殿に入ったら立派な神官になる。


 これが、スキルは精霊神が個々に与えているという説の裏付けになっている。


 その割には世知辛い一面も持ってるけど。日没荒野を聖地から外したり、乾季に苦しむ祈りの町を見捨てたり。


 ……理想だけ追いかけてもやっていけないということだろうけど。それでも精霊神は神殿が信仰心篤い町や人間を見捨てるのを見逃すんだろうか。町が「まちのおきて」で縛られているように、神殿は何かで縛られていないんだろうか。


 ぼくの考えを他所に、仮面は高位聖職者に対する丁寧な挨拶をしていた。


 うん、本当に便利、ぼくの仮面。


「座りなさい」


 ぼくたちは座るけど、祈りの町の皆さんは座るどころかまだ頭を下げたまま。


 うん、祈りの町の人間も信仰心篤い敬虔な信者なんだよなあ。


「頭を上げなさい」


 プレーテ大神官が淡々とした声で言う。


 皆さんが恐る恐る顔を上げる。


「そして、座りなさい」


 言われるままに皆さんも座る。


「さて、まずはグランディール町長、祈りの町の民を気にかけ、申請し、ここまで連れてきたことに感謝します」


 ぼくは座ったまま頭を下げる。


「そして、町の民よ」


びくっとする代表団の皆さん。


「神殿の事情があったとはいえ、乾季の援助が出来なかったことを詫びます」


「いえ、とんでもない!」


 リジェネさんが何かの土産物みたいに首を横にぶんぶん振る。


「上位神殿で話し合い、祈りの町の民に一つ選択肢を与えます」

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