第208話・悩みの多い成人式
これは本当に悩ましい問題だ。
元スピティ門番だったポルティアも「鑑定」だけど、鑑定は鑑定でも「家具鑑定」。家具の値段や価値が分かるという限定鑑定なのだ。家具に関係すれば何とかなるけど、家具職人じゃない人間の鑑定は出来ない、と本人から申請を受けている。
人を鑑定できるスキル持ちは、レベルがどうあれどの町でも大歓迎、立場がどうあれ町長の次みたいな感じで扱われることが多い。しかし自分の能力を見抜かれるから、ちょっと拒絶……と言うか……忌み嫌われることもある。すごい人らしいから傍に居て欲しくない、て感じ?
ヴァローレは本人が目立ちたがらないから、町民の中には彼が「鑑定」持ちだと知らない人もいる。成人式を行うと自然町全体に知られることになるけど、それはしょうがないとヴァローレはほぼ諦めている。
ただ、ヴァローレの「鑑定」は低レベル上限の無敵クラス。人間からスキルからスキルの解除法まで鑑定してしまうすごいスキル。バレたら大陸中の町からどんな手段を使っても、と引き抜きの話が来る。それをどう隠すかも悩みの種の一つ。
「イベントの内容については、やはり主役に聞いてみるしかないんじゃないかな?」
アパルが丸投げ案を出してきた。
「ダメ」
ぼくが蹴る。
「アナイナに言ったら、町が出来るギリギリ限界までとんでもない式典になる」
「……?」
分からない、と言う顔をする二人に、ぼくはこれまで積み重ねた経験を思い出しながら言う。
「何を言い出してるか分からないって言うんだったら、父さん母さんに聞いてみてくれ。上限をつけなければ町の財産全部、
「……そういう
「そういう
「……本人に聞くのはやめよう」
「サージュ」
ぼくは溜息をついて言う。
「Cランクの町の成人式予算の平均値、「知識」で調べられる?」
「出来るが?」
「確かにうちは町民を必要としているし希望者は大歓迎だけど、他の町の怨みは買いたくないんだよね」
だからわざわざ西の果てまで行ったわけだし。
「確かに……」
「だから、今のところ、こちらから手を出さない人……向こうから来た人は控えた方がいいと思うんだ」
「だが、成人式に人を入れないわけには行けないだろう」
「だから平均を聞いたんだよ、サージュ」
ああ、とサージュが
「要するに、式典はランク相応の町だと思わせれば、そこまで押しかけては来ないだろう、と言う判断か」
「Dランクの中の方でもいいかもしれない。ただでさえ空を飛んで水路天井があるんだから、それだけで目立つ。成人式は地味にしたほうがいいだろう」
「問題はアナイナだな。地味な成人式で喜ぶか……」
「まあ喜ばないだろうね」
兄としてそれは自信を持って言える。可愛くてワガママで自分勝手。目立つの大好き地味大嫌い。だけど。
「まずぼくが説得してみる。それがダメならファーレ、シートス、フレディに頼む」
「力技?」
「力技以外で何とか出来ると思う?」
「まあ……
「と言うか、説得で聞いてもらえるものなのか?」
アパルもサージュも、アナイナのワガママを知っている。やりたい放題も知っている。……いや、まだ知り尽くしてはいない。兄のぼくだって完全に理解しきれているとは思えない。
兄から見ても、それほどまでに分かりにくい存在なんだよ、アナイナ・マークンっていう人間は!
ただ、分かりやすい一面もあって、そこを突くと意外と簡単に
ぼくはまだ両親までは行っていないけれど、それでも十五年近くアナイナの兄をやってきたんだ。確かにアナイナには弱いけれど、それでも扱い方はある程度分かっている。
誰に嫌われようと全然気にしないけれど、ぼくや家族、つまり自分が好きな相手に嫌われるのは絶対に嫌で、それでもやりたいことは曲げたくない。そして、相手が何を考えているのかを読むのが苦手で、人に本気で嫌われる限度があんまり分かっていない。
そこを突けば、結構意見を覆してくれたりするんだよ。
「まあ、アナイナはぼくが、あるいは女性陣が何とかする。そこで聞くけど、祈りの町の避難民が全員町民になった時、成人式人数、何人か増える?」
「三人は増えるかな」
グランディールは今のところエアヴァクセン関連、スピティ関連、ファヤンス関連で区分け出来る。前二つはほぼ大人かいたとしても小さい子供ばっかりで、成人式はいつになるやらって状況。一番大きい勢力のファヤンスにアナイナと同じくらいの年齢層がいないかと思ったら、これがまた見事なまでにいなかった。空白期間のど真ん中にアナイナがいるような状況。
避難民が町民になって成人式をするなら、もう少し豪華なものにしたいなあ。
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