第207話・成人式とは
あちこちで挨拶と援助を受けながら東へ向かい、あと一日でスピティに着くという距離まで来た。
で、ファーレにお願いして、彼女に頭の上がらない旦那のサージュと古い友人アパルから本を引きはがしてもらって、話し合いのテーブルにつかせる。
「何の相談だ、一体」
「成人式」
ぼくがぼそりと言うと、アパルとサージュは顔を見合わせていた。
呆然とした顔。
「忘れてただろ」
同時に頷く二人。
……ぼくだって、何日か前にアナイナに言われるまですっかり忘れてた。
成人式は、仮町民のスキルが目覚め、町を構成する一員になったと認められる大事な儀式。
これまでグランディールで行われることのなかった、大事な大事なイベント。
ぼくの一つ下のアナイナがもうすぐ十五……グランディールの「最年長の子供」から「最年少の大人」になる日が来る。
それを忘れたら……町は町じゃない!
成人式をやらない町なんて、誰も来たがらない!
成人式は町民が増えるイベントであると同時に、町民がどれだけ町を大事に思っているかを示すイベントでもある。
町に不要なスキルの持ち主は追い出されるイベントでもあるけれど、……Dランク以下でその理由で新成人を追い出す町は、ほぼない。
だって、町民の数が足りないんだもん。
その代わり、出て行く新成人は多い。
有用なスキルに目覚めたと思ったら、あっさり出て行く。
自分のスキルで少しでも上の町に行けると思ったら、出て行く。
特に行きたい町がなくても、何処かに迎え入れてくれるかもしれない町を探して出て行く。
そうやってランクの低い町の人口は更に減っていく。
残るのはよっぽどスキルの使いようがないか、あるいはとっても町を気に入っているか。
残留じゃなくて増えるとしたら、もっと下のランクの町から来た新成人か。
だから、月に一回の成人式は、どの町もどの町の町民もみんな気合を入れる。
成人式はよっぽど高ランクの町でない限り、他の町の人も、放浪者だって見学できる。そこで町は特徴を紹介して、必要な人員を探して、一人でも多くの町民希望者が入って来れるように工夫する。
新成人はすごいスキルに目覚めて上の町に行けるように。
町は一人でも多く残るように、一人でも多くやってくるように。
そして新しい町を探して旅する放浪者は、成人式で町を見る。
どんな成人式をやるか。それで町民が増えるか減るかが決まる。
Cランク以上は来るばっかりだからそんなことないんだけどね。
エアヴァクセンみたいなランクになると、もう出て行きたくないって町民ばっかりでどうやって追い出すかを考え始める。……そして、町の可住区域には限度があるから、どんどん追い出してどんどん招くという、下のランクから見るとよだれが出るほど羨ましい話。
そのランクから零れ落ちた新成人は、下のランクで妥協するか、放浪者になるか。それとも盗賊にでも身を落とすか。
成人式は一人の人生だけじゃない、町の運命だってかかってるんだ。
町が出来てから初めての成人式を、忘れてたで済ませたら、ファヤンス組や祈りの町の人たちが出て行く可能性だって大きい。
盛大にやらないと……。
でも、一人しかいない成人式でどう盛り上げるかって問題もある。
アナイナは得意になるだろうけど……。
ああ、いや、祈りの町で成人目の前の子供っていなかったっけ?
その人たちを加えればもうちょっと盛大に……。
いや、まだ町民になると決まったわけじゃないんだから、先走っちゃダメだ。
「とにかく、最低一人でも成人式は行わなきゃ」
うん、とアパルとサージュが頷くのは、今まで何も考えてなかった……んだろうなあ。本に夢中になり過ぎて、余裕がある時は本の世界に行ってしまっていた。
「何処におろす?」
おろすとは、グランディール……つまり成人式をやる場所の相談だ。
「スピティの近くはまずいね」
「エアヴァクセンが絶対来るぞ」
そう、成人式は月に一度、町が出入り自由になる日。つまり、エアヴァクセンの間者が入り込む可能性がある。グランディールの情報を垂れ流されたら、絶対ミアストがグランディールを取り込みにかかる。
我が町の唯一の鑑定士ヴァローレなら、エアヴァクセンの間者かどうか一発で見分けられる。
しかし。
鑑定士は一人しかいない。
そして、成人式の主役が新成人なら、もう一方の花形は鑑定士!
式典が一番盛り上がる、新成人の鑑定式に、絶対必要なのがヴァローレ!
だから……成人式が始まるギリギリまで門の前で一人ずつ鑑定してもらうわけにはいかない。
ヴァローレの「鑑定」は、限度がある。スキルの内容からその解除方法まで見分けられるそのスキル、使い過ぎたら休憩しないといけない。肝心の式典でエネルギー切れで鑑定できませんでした、なんてお話にならない。
う~ん……。
本当、どうしよう。ただ今絶賛悩み中です。何をどうすれば解決できるのか。全然思いつかない。どうしよう。
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