第204話・ヴァラカイ図書堂の本

 で、ヴァラカイ。


 やっぱり水路の起点は町の中心部が一番良くて、町の中心には会議堂と会議堂で使う一番立派な水汲み場があるので、そこになったらしい。


 ザフト町長、シエル、ヴァダー、それからヴァラカイの水系スキルの主が待っていた。


「遅くなって申し訳ない」


 ぼくは頭を下げる。


「い、い、いえいえ、とと、とんでもない」


 ザフト町長は震えながら首を横に。


「ここ、これくらい、待ったうちに、はは入りません」


「ありがとうございます」


 にっこり付きで応じる。


 笑顔? 振りまくよそりゃ。笑顔くらいでヴァラカイの皆々様への印象が良くなるのなら、そりゃあ大量に振りまくよ!


「ヴァダー、シエル、どんな感じだ?」


「いい感じ、だと思う」


「オレたちが来る前に、水路の大体の回り方を作っていたようでね、あとはどれだけ具体的に想像できるかってところだ」


「水の着地地点は主に水汲み場、湯処、畑?」


「あと神殿」


 基本的に「神殿」と呼ばれる施設は大体どの町にもある(うちはまだだけどね)けれど、上位……他の神殿にも物申せるランクの神殿があるのはSランク以上。でもヴァラカイは聖地に一番近い高ランクの町なので、一応上位神殿から神官が派遣されて、祝福や聖別と言った神の御業が出来るし上位神殿に物申すことも出来る。ザフト町長は多分ヴァラカイ神殿から他の神殿に進言するんだろうな。


 おっと、考えが逸れた。


 ヴァラカイの人が広げた地図を見ると、町の鳥観図に青い絵の具で水の巡る方向が描かれている。そこにシエルの字で流れの強さや上下関係なんかを描き込んである。


 ヴァラカイの水スキルの人たちはこれを頭の中でリアルに想像するのに相当時間がかかったらしい。


 グランディールの人たちはすごいと言われたけれど、ごめんなさいうちはぼくのスキルがあるんでシエルの思った通りになあれとみんなで祈れば出来上がっちゃうんです。ぼくが意識しなくても町のある程度以上の人数が祈れば出来るっぽい。時計台とかね。


 面白がって変な施設とか作られなければいいけど。


 ああ、また逸れた。今はヴァラカイ! うちの話はあと!


「じゅじゅじゅ準備っ出来たか」


 ザフト町長の言葉に、二十人近い水スキルの人たちが頷いた。


「でででは、始めてくれれ」


 つっかえが一層激しくなって、全身でつっかえたザフト町長の声に、水スキルの人たちが目を閉じた。


 水を作るスキルの人は、この水汲み場に水を満たすことを。


 水を動かすスキルの人は、ヴァラカイの空を縦横無尽じゅうおうむじんに駆け巡る水路を。


 水を増やすスキルの人は、何もない所を駆け巡る水の量が減った地点で補給し、更に元の水汲み場に戻ってきたところでさらに増やすことを。


 しばらくスキルを使っていた人たちが、一人、また一人と恐る恐る目を開く。


 最初は不安定にちょろちょろと流れていた水が、スキルが町と噛み合うことによって、水量は豊富、勢いもあり、西特有の熱波から町を守っている。


 集まっていたヴァラカイの人たち……いや、ヴァラカイの各地から歓声が巻き起こった。


「水だ!」


「すごい、水だ!」


「こんなにたくさんの水だ!」


 歓声が上がる。


「涸れない、のです、かな」


「水スキルの人間が……そうですね。落ち着くまでは半月に一度チェックをすれば」


「なな、なるほど。たた、確かに、こまめなチェックは、必要です、な」


「でも、既に基礎は出来ているから、そんな難しい顔しなくても大丈夫だぜ……じゃない、大丈夫です、ザフト町長」


 普段からぞんざいな口調なので、こういう時うっかり地が出るシエル。ザフト町長はあんまり気にしない人なので良かった。ミアスト系だとキレてる可能性もある。


「あああ、ありがとう、ありがとう、ヴァラカイは救われた、グランディールのお陰です」


 ザフト町長は何度も何度もぺこぺこと頭を下げる。


 その間にも、町の熱波は少しずつ水に吸い取られて心地よい空気になっていく。


「うわ、気持ちいい」


「これが「涼しい」ってヤツか!」


「こんな気持ちいい感覚があったなんて!」


 ヴァラカイの皆さん、熱波から解消されて大喜び。うん、教えたこっちとしても嬉しいです。


「ありがとうグランディール!」


「グランディールに感謝を!」


「ヴァラカイ万歳! グランディール万歳!」


「グランディールとヴァラカイに、精霊神の祝福あれ!」


 ヴァラカイ町民が、それぞれの言葉で感謝を示す。


「ここ、これから、東、に向かうのですかな?」


「そうですね。他の町長たちもグランディールに招待しなければなりませんし」


「少し、お待ちいただけますすすかか」


 遠くから、走ってくる三人の男たち。


「ままま間に合ったか」


「はい、お待たせしました!」


 三人の男たちは、手に手に箱を持っていた。


「ぐぐぐ、グランディールに役立つと思われる、本です。写本ししましたのでおお受け取り下さい」


「ありがとうございます!」


 ぼくよりサージュとアパルの声の方が大きい。腰の曲がる角度も深い。受け取ったのもこの二人。古くから伝わるヴァラカイの図書堂の書物を写してくれるだなんて、感涙物って言ってたしな。

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