第203話・個人的なお節介
「つまりだ」
サージュは念を押すように繰り返した。
「ポリーティアーだけでなく、他の町の人間にも、神殿がグランディールに住むことを勧めることになるんだ」
「つまり、出島の人間がそのままグランディールに?」
「その可能性はかなり高くなる」
うーわ。
新町民が欲しくての救出劇だったけど、予想以上に増えそうだ。いや、増えると嬉しいけど。
「増えるんだよ、神殿がそう言ったら」
世界を、人間を、「くに」を、町を創造した精霊神は、大陸中の「神殿」で信仰されている。
もちろん、それ以外の神と呼ばれる存在を祀っている神殿は色々ある。けれど、ただ「神殿」と言えばそれは精霊神を祀る神殿を指す。ちなみに精霊神に特定の名前はない。「精霊神」「永遠なる存在」「偉大にして唯一の祖」を指す存在はただ一柱のみ。
偉大過ぎて、人間が勝手に名前を付けられないんだと。
「精霊神かあ。唯一無二の存在の割には、人間の歴史の中にちょいちょい顔出してるよね」
「ああ。神殿総出で一週間の不眠不休の祈りにも応じなかったかと思うと、親に捨てられた幼い子供が泣いている所に降臨して人間に化けて育てたなんて逸話があったりするしな。一部の話は、神殿が精霊神とは違うと否定したりもしてるが」
まあ、偉い人がほいほい出歩いてると気高さとか尊さが感じられなくなるよな。ぼくもほいほいエキャルやアナイナを連れて出歩くのはやめたほうがいいかな。
「お前が日常的に偉そうにしていると町民がピリつくから今まで通りにしておけばいい」
…………。
「……サージュの「知識」って、目の前の人間が考えてることも分かるの?」
「そんなわけないだろ。お前は顔に出るから分かるんだ」
……町長の仮面がなければそんなに顔に出るんでしょうか。
「出るな」
「今、出てた?」
「ああ、出てた。めいっぱい」
……それって町長としてはヤバいんじゃないだろうか。
「……だが、お前のその気取らなさがエアヴァクセンやスピティやファヤンスの人間をつないでいるんだ。そしてこれからポリーティアーやそのほかの町の人間もな。だから、無理に直そうとするな」
「え、そうなの?」
「だからって気を抜きすぎるなよ。気取らない町長は好かれるが、間抜けな町長は見捨てられる」
「間抜け……」
「踊る伝令鳥を頭に乗せてその辺ふらふら歩いたりな」
エキャルは感情が高ぶると時々踊る。それが頭の上のこともある。……うん、確かに見られたら間抜けだよな。気を付けよう。
でもぼくがふらつくこと自体はサージュは止めてはいない。
要するに親しみのある町長は悪くないってことなんだろう。度を過ぎたらいけないんだろうけど。
そこへアパルが書類を持ってやってきた。
「水路天井を試してみるので
「親しみと呆れの振れ線で検討中だ」
アパルが訳が分からない、と言う顔をする。
「ああ、ヴァラカイにデカい借りが出来たことは言っておく」
「借り? 貸しじゃなくて?」
「ヴァラカイの蔵書をいくつか写してくれるんだと」
バサリ。
サージュの爆弾発言に、アパルの手から書類が落ちた。
「ほ、んとうか?」
「ファクトゥムの著書を中心に、あとは新しい町に役立ちそうなものを」
「町長へ?」
「グランディールへ、と言うことだ。良かったな俺たちも読めるぞ」
アパル硬直。
エアヴァクセンを追い出される時も本をこっそり持ち出し、グランディールに来たときもひっそりと集めていた大量の本を持って運んでいた根っからの本好きだからなあ。
「すす、水路天井だけでは足りないんじゃ……」
「……個人的なって言ってた」
ぼくが呟くと、アパルとサージュがこっちを見た。
「個人的なお節介だから、お気になさらずって」
「そこまで言ってくれたのか?!」
アパルの声が悲鳴になってる。
「うん」
「知らないって幸せだな……」
サージュが片手で顔半分覆って溜息。そして言葉を続ける。
「それだけじゃなくて、神殿に避難民の定住を進言もしてくれるそうだ」
アパル、石になる。
「なんで、何でヴァラカイがそこまで……」
「水路天井がありがたいというのもあるが、何より
顔半分覆ったままサージュ。
「でなきゃあのザフト町長がここまででしゃばることはない」
ザフト町長、実際はかなり頭が切れて行動力もあるんだけど、それを知っている人はごくわずか。そう思われないように普段から神経質で小心者を演じているから。でも今回はかなり自分から行動してた。
「では、避難民がほぼ全員来るってことで今後の計画は進めておけばいいかい?」
「いいんじゃないか?」
アパルとサージュの意見が一致したところで、ぼくは色の変わっている髪を摘まみながら立ち上がった。
「じゃあ、行こう」
「は?」
「……アパル、アパルは何のためにぼくの所に来たか忘れた?」
「水路天井!」
ようやく思い出したらしいアパルが慌てて落とした書類を集める。
「いかん、忘れてた。ヴァラカイのお宝で頭がいっぱいになってた」
サージュも自分の頭を叩きながら立ち上がる。
うん、ぼくも思い出したのはついさっきなんだけどね。
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