第202話・ご厚意
「町民を増やすためとはいえ、困っていると頼まれて即座に駆けつけてくれる町には、長くもっていただきたいのですよ」
今、なんか、小声ですっごい褒め言葉貰った気がする。
「ご期待に沿えるよう頑張ります」
小声で返す。
うん、ペテスタイやディーウェスまでとはいかなくても、最低ぼくの後、三代はもってほしい。ぼくの代でSSS級になってくれれば嬉しいけど、たとえSSS級でも一代で終わったら意味がない。三代もってこその町だ。
ヴァラカイはAランク。でも、歴史は神殿クラスに古い。「くに」が戦争をしていた頃から神殿の出先として存在していた。町としての歴史はその頃からなので、これまた伝説級に古い。
そんな町の町長に、町のことを褒められるって、すっごいことなんだよ? 分かる?
うわ、やべ。テンション上がってきた。良かった町長の仮面があって。でなきゃ顔がにやけてくるところだ。
「では、こちらから神殿に進言をしておきます。これは私の個人的なお節介ですから、お気になさらず」
「感謝します」
ザフト町長はチラッと笑って、それからまたあの神経質そうな顔に戻って視線を町に戻す。
うん、さりげなく好意を伝えられる、この人はすごい人だよ。
ザフト町長はその後ヴァラカイに戻ると、大急ぎで水系スキルの持ち主を揃えてきた。
こっちはシエル、ヴァダー、アパルを連れてきて、スキルの使い方やコツ、メンタル面的なことを教える。
水を起点の場所で作り上げ、増やし続けるコツ、水をどうやって空路を使って町全体に行き渡らせるかを町の地図を使ってしっかり考えること、最終的に使われなかった水を地下から起点に戻し、再び水にして増やす仕組み。ヴァラカイのお偉いさんと、水の起点をどうするか散々悩んで、ヴァラカイの水を動かすスキルの人とシエルがどんな風に何処へ向かって動かすのかと言うことを相談している。
スピティのように作ってもらったぼく倒れたじゃシャレにならないので、完全にヴァラカイの人間だけで作るということを目指しているとザフト町長。
それだけ言い残してヴァラカイ図書堂に。多分、写本を作ってくれているんだろうな。うん、食糧に加えてこの対応。お礼、水路天井だけでいいんでしょうか。不安になってくる。
荷物を積み終えて戻ってきたサージュに、こっそり本のことを話す。
「え?」
いつもちょっぴり不機嫌そうなサージュの、顔には思考停止しています、と書かれている。
「ヴァラカイの本って、ヴァラカイ図書堂のか」
「ヴァラカイ図書堂は一つしかないから、多分サージュの言ってる場所」
「うわ」
またしても思考停止しています顔。
「ファクトゥムの書いた本と、あとは興味のありそうな古書をいくつか写してくれるって」
「「続く町の理由」「個人スキルの限界」も?」
「うん。それは真っ先に挙げてきた」
「うわそうか。本当なのか。読めるのか。それ読めるのか」
ヴァラカイ図書堂は、町自体が歴史が古くて神殿ともつながりがあるから、大量の伝説級の本が揃っているらしい。その中でグランディールに必要そうな本を
「あと」
「まだ何か」
「神殿に、避難民をグランディールに引き取らせたほうがいいって進言をしてくれるって」
「うわー」
サージュ、呆然。てか放心。
「ヴァラカイに頭あがらなくなる」
足向けて寝れないから、寝る前に方角を計らなきゃいけない。
本当にありがたい。
本当に水路天井のコツだけでいいんでしょうか。
「……まあ新しい町に恩を売っていると思えば」
無条件の好意だと不安になるらしいサージュ。うん、その気持ちは分かる。恩を売られていると思えばまだ納得できるし怖くない。
「うん、そうだ、恩を売られているんだから、いずれ返さなければならない」
サージュはそこまで考えて、何とか気持ちを落ち着けたらしい。
「大きい借りだね」
「多分お前が思っているより大きい」
「サージュ?」
サージュの顔はこわばっている。
「若い町は神殿に発言権は一切ないと言ってもいい。新しい町で高レベル……B以上になれば神官が派遣されて神殿が作られるが、その神殿は町の一部であって一部じゃない。特殊な場所なんだ。町から神殿に物申すことは出来ない。エアヴァクセンのようなSSランクの町であってもそうなんだ。ミアストは何とか神殿を支配下に置かなければと必死になっていたようだが」
言葉を切ってサージュは空を睨む。ミアストも思い通りにならなかったんだな? それは嬉しいけど。
「神殿に物申せる数少ない町がヴァラカイなんだ。古くから神殿と繋がりがあり、祈りの町を援助している。ザフト町長自身が普段意見を言わない人なだけに、その言葉は重い。そんな人がグランディールに人を任せれば、と言ったら、神殿も無視できない」
ザフト町長はちょっと神殿にお願いしてみるくらいの言い方だったけど。まあ普段何も言わない人がきちんとした手段を使って話を通して来たら断れないよな。
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