第201話・心配を覆す方法

「たくさん……そう言えば、グランディールはスキルでは入れないと」


「ええ。好きなことを、みんなの役に立つためにやる」


「町長に頼り切りの町のようですが」


「ええ。だから、人数がいるんです」


「町長が失われた後、の町スキルの維持が重要になりますな」


 警備に隠れるように小声でぼそぼそと喋り合うぼくたち。


「次代以降……」


 うんそう、その通りなの。


 次代以降……つまり純粋町育ちの子供が、町の運営に必要なスキルに目覚める。スキルに関係なく仕事を選べるとしたけれど、その子たちが「やりたいことがあるから手伝わない!」と言ったら、別の誰かを探さなきゃいけない。その子も嫌だって言ったら次……。


 グランディールはやりたいことをやりたい人がする町。


 本当なら「こんなスキル出たからオレ、これやりながら町の仕事も手伝うよ!」と名乗り出てもらいたい。町を保つのに、みんなが仕事片手間に町のことも手伝ってくれるのが一番。


 だけど名乗り出られなければ困っちゃうんだよなあ……。


 それを回避するには、……数を増やすしかないんだよなあ。


「恐らくファクトゥムの著書をお読みのことと思われるが」


 ファクトゥム? ファクトゥムって何ぞや……と考え込み、それが「富める強国」ディーウェスのスキル研究家で、グランディールがこのままだとどうなるかとそれを回避するための方法を書き記した「滅び逝く町」の著者がプラーグマ・ファクトゥムだと思い至った。そうだ、とにかく最初の代でたくさん子供を作るという、身もふたもないけど分かりやすい解決方法があった。


「「滅び逝く町」以外の書はお持ちか?」


「……いえ」


 フォーゲルのアッキピテル町長が写してくれた写本しかないです。


「写本つくりのスキルの持ち主は」


 ……アッキピテル町長がご厚意で写本スキルの人や紙やじ紐まで用意してくれました。


「うちの町の者も貸しましょう」


「……ありがたいのですが、いいのですか」


「何、こちらにもスキルの借りはあるのですし、本は読まれるためにあるのですから。グランディールは潰れるには勿体ない。私の持つ本が何かの役に立てばそれは喜ばしい」


 小声……傍から見ればぜえはあしているザフト町長にぼくが合わせているように見えるけど、実は壁の中での内緒話。


「どのような本が?」


「「続く町の理由」ですかな。あとは「個人スキルの限界」とか。ファクトゥムは色々な書を残しているのですよ。あとはうちの古書で興味のありそうなものをいくつか」


 !


 うん、見たい。アパルもサージュも見たがる。


「……写しをいただけるのですか」


「ええ」


 ザフト町長はほんの少し、口の端に笑みを見せた。


「水路天井が上手く行ったら礼として」


「食糧の援助もして頂いて、そこまで」


「何、私の自己満足ですよ」


「自己満足?」


「「新しき町」グランディールが長持ちすれば、それは私のお陰であるという自己満足を、グランディールの良い噂を聞くたびに思えるように」


 思わずぼくの口元がほころんだ。ぼくの顔を見て、いつも神経質に痙攣しているザフト町長の口元も、小さくではあるけれど確かに笑みを浮かべている。


「では、よい噂がヴァラカイまでしばしば届くように努力しなければなりませんね」


「そうしてください」


 とっても期待しているのだと言外に言ってくれる言葉は嬉しい。


「あとは……そうですね、これはクレー町長の判断にしますが、祈りの町の住民をグランディールに留めるよう神殿に進言を」


 ?!


 目を丸くしたぼくに、ザフト町長はチラリと自分を守る警備の塀の隙間を見て、グランディール町民が忙しそうに行き来するのを確認してから言った。


「……私は一応神殿にも発言力があります。これだけの人間を各町に振り分けるのは大変ですし、まとめてグランディールに押し付ければいいのではないかと進言することは出来ます」


「……いやそこまで……」


「なに、私にとってはちょっと内緒話をする程度です。大したことではないし上手く行く確率の方が高い。……グランディールが避難民を全部受け入れられるのが前提条件ですが」


「……お頼みできますか」


「お任せください」


 ザフト町長は足を一歩踏み出して、何もない所で地面に蹴躓けつまずいた。即座に警備がその手を取り体を支える。


 ……頭脳がかなりキレる町長なのに一見キレるように見えないから、自由に動けるし意見も通せるんだよなあ。


 偉そうな町長の仮面だけじゃなく、こういう人として弱みを見せる仮面もありかも知れない。


 ……あ、ダメだ。他所の町で盛大にスキル使ってぶっ倒れたり躍るエキャル頭に乗っけして歩いたりアナイナやヴァリエにビクついてたりしてたんだった。


 弱みばっか見せて昼間に往来歩いてます、はい。



 町民が野菜や荷物を抱えて忙しそうに行き来するグランディールの町中を、素晴らしいと呟きながら歩くザフト町長と歩く。


 町民はぼくの髪と目を見てああ町長仕事中かと納得して、すれ違いざまに軽く手を上げたり声をかけたり。


 ザフト町長はそんな町民を目を細めて眺めている。

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