第199話・裏の事情
避難用の建物を一通り訪問して出島から門へ出ると、そこではヴァラカイからの食品を運び入れるのに大騒ぎだった。
「本当に、感謝しています」
ぼくとアパルが一礼するのに、ザフト町長はいやいやと手を振った。
そこへやってきたのはポリーティアーのリジェネ町長代理。
「ザフト町長……!」
「や、や、やあ、リジェネ君、ひさ、しぶりだねえ」
途端にいつもの震えあがる声になった。
「これだけの食糧を、グランディールに」
「い、い、いや、グランディールも、祈りの町も、困ってて……今、ヴァラカイができるのは、これしか、ない、からね」
「グランディールからもヴァラカイからも、もらうばかりで……本当に、何と言ったらいいのか」
「いやいやいや、たた大変なのは、こここれからです。避難民を、連れていく神殿はどちらですかな?」
「スピティです」
フォーゲルの神殿からそう言われた。
「す、スピティに、辿り着いても、避難民を入れる、宿泊、し施設はない。つつつまりはグランディールは全員のいい、行き先が決まるまでは、動けない」
「!」
リジェネさんは初めて気づいたという顔をした。
「そ、そうですね、グランディールは私たちと言うお荷物を背負って……私たち何もできないのに……なのに……」
ぼくとアパルは笑顔のまま顔色一つ変えない。
「すいませんクレー町長! 新しい町なら私たちを引き受けてくださるかと希望を勝手に持って……! 西の祈りの町全部を背負わせてしまった……! そうですよね、食糧も足りないし、まずあの避難場所を造るのにどれほどのレベルのスキルを使ったか……!」
ペコペコ頭を下げだすリジェネさんの肩を、ぼくはポンポンと叩いた。
「大丈夫。想定済みです」
「……え……」
「ポリーティアーから連絡が届き、神殿に依頼された時点で、こうなることは分かっていました。だから、あちこちの町に援助をお願いしたんです」
宣伝鳥、フォーゲルよりはるかに暑い中をありがとう。
「そして、喜んで援助をするとのお返事をいくつかの町から頂きました。ほら」
リジェネさんが手紙を受け取り、目を通し始める。ザフト町長も興味があるらしく後ろから見ている。
「ああ、ああ、ああ……」
見る間にリジェネさんの丸い目に一杯の涙がぼったぼった。
「見捨てられた……神殿からも、西の町々からも見捨てられたと……思っていました……。もう、祈りの町は終わりだと……。でも、違ったのですね……。こんなにもたくさんの町が援助してくださると……」
ザフト町長が、チラリとぼくの顔を伺う。ぼくは軽く頷く。
これは「勘違いさせておいていいのか」のチラリであり、「いいんです」の頷き。
宣伝鳥を飛ばしたのは、展示即売会に来て会う約束をした町々。避難民への援助を頼めないかと言う依頼の手紙を送った。それと引き換えに、「水路天井」のコツを教えますよ、と。
西に位置する町は、暑い町が多い。水がないとカラッカラだし、水があったら蒸す。
そんな町に、水路天井は持って来いの技術。
乾燥しても水路天井が渇くわけじゃない。蒸し暑い場所でも、水路天井は余計な湿気を通さない。
つまり、何処に設置してもその町の中は快適になる。
ただ、スピティはぼく・ヴァダー・シエルが作ったけど、コツを教われば、ぼくらなしでも……いやぼくらが何もしない方がその町にぴったりの水路天井が出来る。と言うかグランディールの人間が手伝うと町に合った水路天井が出来ない。
あれからグランディールもスキル学を学んでいる人が集まって、サージュやアパルをトップにして、町の水路天井を色々調べ、他の町に合わせるにはどうすればいいかと研究している。例えばこのスキルを入れておくと便利だとか、そういうことを。
その結果とかを教えますけど、代わりにご飯ちょーだい。
と書いたわけじゃないけど、近いことをお願いした。
すると、来るわ来るわ援助の手紙。
スピティから広がった水路天井は東で作られているので、果たして西で上手く行くのかと言う不安があったらしい。それを本家本元が研究したものを教えてくれる……と興奮して食糧を提供するから教えてくれ、との連絡がかなり来てくれた。
そこを回りながらスピティに戻れば、食糧は何とかやっていけるという訳。
「せせ、精霊神の、御導きですよ。リジェネさんを、はは始めとする町の、しし信仰心のおかげですね」
「ありがとうございます……ありがとうございます……」
リジェネさんの肩を、ザフトさんが震える手で軽く叩く。
「みみ皆さんが幸せになるとといいですねね」
リジェネさんはこくりと頷いて顔を覆った。
リジェネさんが出島に戻って行ったので、ぼくらはグランディールに戻る。
門から会議堂へ真っ直ぐ続く道を歩いていく、通り過ぎる町民は全員忙しそうに早足で、町長にぼくに軽く手を上げて通り過ぎていく。いや、ぼくが忙しくさせたんだよね。ゴメン。負担かけてる。
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