第198話・ザフト町長の仮面

「た確かに、涼しい」


 ザフト町長が何度も頷く。


「東の、方では、流行っていると、聞いたが……」


 ああ、何で東に水路天井がいるのか分からないんだな。東の方は西に比べて熱波は来ない。熱波を防ぐ水の網が必要なのかと思ったんだろうな。


「乾季があるところもありますから」


 ぼくは出島まで伸びた水路天井を見上げて応える。


「スピティも乾季が酷い場所です。それほど暑くなることはなくても水がない」


「あ、ああ、町に、ずっと水を留められる、素晴らしい、方法ですな」


 ふとそこで考えるザフト町長。


「水が、気化、しないのですかな?」


 気化。水は、熱すると空気に溶け込んで消える。西の乾季は熱波により水が溶けるから厳しい。あれ? でも。


「ポリーティアーに滞在していましたが、水が減る様子はありませんでしたね」


「スキル、で、守られている、という、ことですかな?」


「恐らくは」


 だって、あれだけ照ってた太陽を遮って、風を遮ってしてたのに、水路が細ることもぼくのスキルが使われるようなこともなかったし。


 ぼくがスピティでぶっ倒れたのは、ぼくの力に馴染んでいないスピティで全力を出したせい。ぼくの力で出来ているグランディールにぼくのスキルを使うのは、問題はない。それと同じに、町の人が町の為にスキルを使えば、長持ちする。


 スピティではぼくが倒れてすぐ水路天井の調子が悪くなったらしいけど、アパルやサージュの提案でスピティのスキル持ちで補強したら何の問題もなくなったとか。


 やっぱり町スキルと人スキルを「合わせ」るためにはスキルの使い手が町に馴染んでいるかどうかが問題なようだ。


 逆を言えば、熱波があろうが乾季があろうが冷気があろうが一旦町スキルと共鳴したスキル効果は消えなくなるってこと。消えそうになっても補強できること。


 これを町の上層部がしっかりと覚えていれば、どの町も続くはず。……なんだけどなあ。


 私利私欲とか、他の町への対抗心とか、そう言うのが問題らしい。


 器がどれだけ頑丈で、どれだけ整えても、中身が腐ってたらアウトってことらしい。中身が腐らないようにする方法は……今は思い付かないなあ。でもグランディールをもたせるためには考えておかなきゃなあ……。


 おっと、見学案内を忘れる所だった。


「とりあえず、この建物に避難民は住んでいます」


「ひ、広い、ですな」


 だって、避難民、グランディールの町民数に近いくらいいるんだもん。


 グランディール町民の住んでいる家に比べれば、この建物はかなり大きいけど、住める面積はかなり少ない。だって、中が小部屋に分かれていて、そこで家族とかがぎっしり住んでいるんだもん。


 でも文句を言う避難民はいない。助けに来てくれたグランディールに迷惑はかけられないと我慢してくれている。でも、我慢しすぎるといつかは爆発する。とりあえず爆発させないためには十分な食事と水、寝る場所、着るもの。寝る場所は多少狭くてもあるし、着るものは避難民が持ってきたり、グランディールで作って渡したりしてる。問題は食糧。


 何か、数が足りなーいという話になって、アパルが飛んで行った。サージュは下から積み込む仕事をやっているから、対応できないのだ。


「私から、伝えておきましょうか」


 少し震えが収まったようなザフト町長。


「これから行く町に、食糧の追加を」


「本当ですか?」


 願ってもないことだけど。……いいの?


「ヴァラカイはこの辺りの町では最も発言権はありますから。そして大あれ小あれ各町も祈りの町を見捨てた形になったのを気にしていますし」


 静かに笑うザフト町長。


 そう、これがこの人の本当の顔。


 西は、神殿(聖地)と町(居住地)の板挟み。その中で町のトップに立つザフト町長のモットーは、「神殿に警戒されないこと」だ。


 ヴァラカイはAランク。で、東にある神殿から祈りの町や日没荒野への命令を届ける役目を負っている。


 神殿としては、聖地が信仰を集めるのは歓迎だけどそれで神殿に参らなくなることはあってはならない、よって祈りの町があんまり立派になり過ぎないように援助は調整される。


 ただ、今回はそれが裏目に出た。


 東の環境のいい所にある神殿は、去年の日没荒野の乾季と熱波を甘く見て、町全員が逃げだしたり全滅したりした。


 明らかに神殿の手落ちだけど、神殿がそれを認めることはない。神殿が間違いを認めたらその後やっていけなくなるじゃないか。


 間違いを起こさない神殿と、必死に生きる祈りの町の間で、ヴァラカイも見事に板挟みだった。


 そんなところでトップを張るには、ハッタリか演技が必要になる。ザフト町長が選んだのは、ストレスに弱く神経質と言う仮面だった。強く押されると倒れるかも、町長が倒れると厄介だろう、と神殿も手加減してくれる。


 でも西の町は神殿の下になるので、神殿の意向に背くことは出来ない。


 だからポリーティアーのリジェネ町長代理もヴァラカイではなく、賭けでグランディールに助けを求めた。新しい町……新しく大きくなりそうな町には、神殿は甘い。甘い汁を吸えそうだから。グランディールが大きくなるために祈りの町の救いを求め、神殿はそれでやっと危機を認め、前々から考えていた聖地条件撤回を実行し、グランディールが町民の一部……何人かは分からないけど……を吸収することで町へ配分しなければならない避難民の数を減らせると判断、全町民を脱出させることに合意させた。


 リジェネ町長が投げたサイコロ。幸いそれはいい方に転がっている。今のところ。


「不安は食糧でしょう」


「はい」


 素直にぼくは頷く。

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