第196話・ありがたい申し出と食糧問題
『グランディール町長クレー・マークン殿』
アパルが耳に心地いい低音で読み始めた。
『招待状及び連絡を受け取りました。ヴァラカイとしては「新しき町」グランディールを一目見て、その水路天井の効果などを学ばせていただきたく思っております。また、ヴァラカイはグランディールが移送している避難民に対しても何かをしなければならなかった立場ですので、避難民への差し入れなども持ち込む御許可をいただければと思っております。グランディールの姿を拝見する時を楽しみにしております。ヴァラカイ町長ザフト・ザーパット』
「「新しき町」グランディール?」
「二つ名。そのままつけたんだろうね」
町に二つ名がつくのは、二つの理由がある。
それだけ有名な町に自然発生的につけられたもの。
あるいは似た町があって、区別をつけるために自分で勝手につけるもの。
……グランディールにぼくが二つ名をつけた覚えがない。
そもそも有名かグランディールって?
「……本気で言っているのかい?」
「本気」
アパルは顔面に片手を当てて大きなため息をついた。
「アパル?」
「町長の認識の甘さをどうすれば矯正できるかな……」
「え?」
「最も若い町長に率いられた空を飛ぶ町。Sランクの町が次々真似をしている水路天井。すべてが新しい町。「新しき町」と言わないでなんて言う?」
「……そこまで有名?」
「エアヴァクセンと火花が散っているだけで有名だよ」
「ぅえ?」
確かにエアヴァクセンとは真正面からぶつかっているけど。
「……他の町だってエアヴァクセンに好印象もってるとこってないでしょ」
詐欺とか
「その旗手として立っているのはグランディールだからね」
「それは成り行き上仕方なく」
「よく言うね」
アパルの呆れ声に、考えを引き戻す。
……うーん。仕方なく、じゃないな。この町の存在理由そのものがミアストとエアヴァクセンを泣きっ面にすることを目指して作ったんだし。
「じゃあ喧嘩を売る町とか」
「二つ名で喧嘩を売るってどんだけ血の気が多いんだ」
便箋を手渡しつつアパルは苦笑する。
「いいじゃないか「新しき町」。みんながグランディールに新しさ……いや、新しい時代を望んでるんだよ」
「新しい時代になるために古いエアヴァクセンをぶっ壊せって?」
「そういうところだね」
あう。否定できませんです。
「まあいずれは壊す予定だろう?」
「アパルも血の気が多いじゃないか」
「私もエアヴァクセンには思うところがあるのでね」
そうだった。ミアストはアパルのスキル「法律」でエアヴァクセンをガチガチに……しかも自分の為だけに固めようとしたんだった。
スキルを悪用する代表者みたいな感じだなミアスト。
「おっと話がずれた。ミアストもエアヴァクセンもとりあえず関係ない。ヴァラカイに行ってザフト町長を迎えに行くかどうか。宣伝鳥も待っている」
あ、宣伝鳥だけどちゃんと自分のやることを弁えて、ぼくからの返事をヴァラカイに届けて戻ってくるまでで一仕事と思ってる。ティーアが面倒見てるだけあるよ。真面目だし。エキャル見習え……と思ってたら左後ろにある止まり木からエキャルが首を伸ばして少々強めにずぬっと刺してきた。
「……エキャル痛い」
まさか、頭の上に乗っけしてると、頭の中で考えてることまでエキャルに伝わるようになるのか?! いや、まさか! そうだとしたら鳥売りのパサレさんが教えてくれるはず!
そんなぼくの不安を読んでいるのかそれとも通常運営なのか、少々力にこもった
「お迎えしますって連絡を返さないと。リュー!」
声を張り上げれば、移動中絶対必要なスキル面々は会議堂に詰めるので、「場所特定」のリューもすぐ飛んでくる。
「はいっす!」
「ここからヴァラカイに進路を変えるとしたら、到着は?」
「んー、今の速度でここからだと、大体半日っすね」
「早っ」
「前にいたフォーゲル近くからここまで大体六日。こんなもんっすよ」
ワーワー言いながら返事を書いて、宣伝鳥に封筒つけて送り出す。前々から招待してたのに半日後に突然来るって何なのって話。
それでも宣伝鳥が着いて相手が入る準備をするくらいの余裕を持たせるために、ゆっくりとグランディールの方向と速さを調整する。
にじにじと進んで、その間に二回の食事をとる。食料は大量に準備はしていたけど、それでもやっぱ減り方が半端ない。食糧班が畑の収穫の回数を大量に増やしているけど、肉はやっぱり少ない。町にいるすべての家畜を潰せば町民にも避難民にも肉は行き渡るけど、その後どうするんだって話。「生産増加」でもさすがに限度があるし……。
日没荒野に近い土地は、やはり聖なる場所として夕暮れ時に太陽に向かって祈るという風習があるというので、聖地の守護町の町民を援助してくれる……と信じたい。
とりあえず宣伝鳥待ちだ。宣伝鳥なのに伝令鳥のような使い方をしていて申し訳ない。宣伝鳥や伝令鳥は自分の仕事に誇りをもっているから、それと違う仕事をやらせているのが本当に申し訳ない。
ああ、胃が痛い。
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