第195話・避難民搭乗

「これで全部の町集まったかな」


 夜を迎え、聞いたぼくにアパルが応えてくれた。


「宣伝鳥が行った町は全部」


 …………。


 アパルの笑顔が少しばかりいつものと違う。


「全滅した町もあると言いたいね?」


 指摘すると、アパルは笑顔のまま眉を寄せた。


 どうやらぼくの考えは間違ってなかったらしい。


 それだけ、前の乾季は酷かったんだろうなあ。


 辛抱強い祈りの町の、町長が逃げ出し民が耐えかねるほどに。


「宿泊施設は?」


「出島に、大型の建物が三つ。家族ごとに部屋を割り当ててる。少なくとも日没荒野よりは過ごしやすいと思うね」


 エキャルが持ってきたサージュの書類は、グランディールに避難させる人のリストだ。町の名前、名前、年齢、家族構成が記されている。町民の居住地からはちょっと離れてもらった。何か起きてからじゃ遅すぎるからね。聖地の守り手だから、犯罪とかそういうことはしないだろうけどね。一応、念のため。町の人間じゃない人間が大勢いるって言うのは町民も落ち着かないだろうし。


 町民ではないけど受け入れる、とぼくが認識した時点で、町の一部が広がった。にゅうっと絞り出すかのように門の傍に地続きであるけれどちょっとグランディールとは言えないかな……? と言うような場所が出来て、ぼくらは出島と呼んでいるけど、そこに大きな建物が三つ立った。サージュの書類にミスがなければ(まあまずないだろうけど)祈りの町の人々はここに納まるはずだ。


 町民たちにはしばらくまたぼくが倒れるんじゃと不安がられたけど、ぼくのスキルで出来ているグランディールはそう言えばファヤンス町民を受け入れた時にも平気で広がっていたっけか。倒れたのはぼくのスキルとは関係ない場所で全力尽くしたからだと思う。


 それはそれとして、代表者たちにもこれで全町か、と聞いた。全員頷く。


 一応もう一度宣伝鳥を放つ。宣伝鳥が封の開いていない封筒を持って帰ってきたので、完全に全員回収したと確定。



 翌朝から、町ごとに人を入れて行った。


 これがなかなか大変。


 中が涼しいということを代表者から聞いた人たちが押し寄せるのを、何とか列にして、町と名前を確認、グランディールに送り込んでいく。


 グランディールの中は中で、当然三つの大きな建物用に町は広がっている。ところが町民は、広がった町を確認する前に知らない場所に興奮する子供や大人を引きずって何とか建物の部屋に送り込まなければいけない。


 慌てて代表者を呼び込んで、何とか指揮してもらう。代表者への信用があってあんな荒れた町に暮らしてたんだから、これは効果があって、何とか全員割り当てられた部屋に入って、全員漏れなく集まったことを確認。


 そうして、注意を教える。町に入るなとは言わないけれど、畑、窯、工場、個人宅、会議堂、鍵のかかっている所に許可なく入らないこと。グランディールに対して要望がある時は居住していた町の代表者からグランディール側に伝えてもらうこと。落ちる可能性が高いので門の傍には近寄らないこと。親は子供が変なところに行ったりしないようにしっかり見守ること。


 ……まあ、門以外は普通の町のルールまんまだけど、一応言っておかないと、後から何があったかで揉める可能性もあるからね。


 続いて宣伝鳥を飛ばした。


 来る途中に聞いた町見学希望の、ここからスピティに向かう途中の町長さんたちに、ちょっと神殿の都合で避難民もいるけど町見学構わないかーという連絡。二百人はいるんだもん。祈りの町とは言えEランクの町から救出された人と一緒にいたくないっていう人もいるかもってサージュが言うから。そんなこというヤツは呼ばなくていいってと言ったけど、そうはいかないって怒られた。ちぇ。



 全部やるべきことをやったら、移動開始。ただしゆっくり。早く移動しすぎて返事を持った宣伝鳥が間に合わず町に着いたら町長は入らないと言っていたという事故防止のため。


 何かあったら困るので、会議堂に待機。……って、グランディールにいる時はほとんど会議堂だなあ。家、帰ってないなあ。


「うわあ、動いてる」


「すごいなあ」


「それに暑くない!」


 会議堂の開けられた窓から、避難民の感心したような感動したような声が聞こえてくる。門の方には近付かないって言ってるはずだけど、と思って顔を出したら、門と会議堂まで一直線のところ、一応鉄柵を下ろしてある門のこっち側から安全な距離を取って外を見ているのでほっとする。


 小さく見える門を見ていると、その門の隙間を塗って入ってくる鳥。桃色。


 ぼくは窓を大きく開けた。


 間違いない、昨日飛ばした宣伝鳥の一羽。


 避難民に見られながら、門を抜けた宣伝鳥は真っ直ぐぼくの方に向かってくる。


 そこに、頭に重み。


「……宣伝鳥に対抗しなくてもいいんだよ?」


 エキャルが「ここは自分の場所」とぼくの頭の上に乗っかってきたのだ。


 自己主張が激しい鳥は、普段宣伝鳥と同じ鳥部屋で寝起きしてんのに、ぼくが一緒の時は自分はクレー町長の鳥だよ、とマウント取ってくる。……あんまりいいクセじゃないな。ちゃんと修正しよう。


 とりあえずエキャルを頭から下ろして、抱いたまま窓から少し体をずらす。大きく開いた窓から宣伝鳥が飛んできて、宣伝鳥用の止り木に止まる。


「ご苦労様」


 宣伝鳥はちょっと嬉しそうに首を横に揺らすと、そこに置いてある水入れに嘴を突っ込んで、上を向いて水を喉にやった。


 アパルが首筋の封筒に手を伸ばし、手紙を取る。


「ヴァラカイ……「西の果ての町」だね」


 ヴァラカイは今グランディールがあるここから一番近い町、日没荒野と森林の境にあるAランクの町。もちろん展示即売会に来てくれて、行ってみたいと言ってくれた町の一つだ。


「読める?」


「読める」


「読んで」


 アパルは机の上のペーパーナイフですっと紙を割いて、便箋を広げた。

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