第194話・この先はどうしようかな
代表者皆さん、考え込んでいる。
神殿に紹介された町に行くのは一番正しいと思ってるんだろうなあ。
でも、グランディールは居心地がいいってことも分かってしまった。
神殿に紹介された町で上手く暮らせるかって心配もある。
祈りの町としての誇りはある。でも、その資格を失って町を出た自分たちは上手くやれるんだろうかという心配や不安もある。
そうだろうなあ。町民みんなを一度に受け入れられる町はまずないと思う。スキルで組み分けられて、必要とされる町、そのスキル関係が多い町にバラバラに移動させられるだろう。下手をすると仲良し家族泣き別れなんてこともあり得る。
グランディールは、どれだけ高いスキルを持っていても誇れない代わりに、同じ家で家族でずっと暮らしていけるという保証が付いている。もちろん、出たらダメじゃなくて、正式な手続きを踏んでからならいつ出て行っても構わないという保証もある。
「神殿に行って聞いてから決めてもいいのでは?」
頭を抱えてしまった代表者さんに、そう声をかける。
「え?」
「私たちは神殿の依頼を受けてきたのですから、皆様はまずは神殿に行って話を聞くべきではないかと」
町長の仮面をつけ、ぼくは穏やかに告げる。
「その後、どの町に住むのか選べばいいのでは?」
「グランディールは……町民を増やすためにいらっしゃったのではないのですか?」
うん、図星。だけどね。
「納得しない町民を入れても、不和の元となりますし。グランディールに人を入れるとしたら、やはり短期間で移動してしまう方より長く……一生居続けてくれる方を選びたいですし」
「後回しになってもよろしいので?」
「グランディールを選んでくださった方が来てくれれば、それでいいのですよ」
微笑を浮かべて代表たちを見回すぼく。
「よ……余裕……」
「選ばれる自信はある、ということか……?」
「し、神殿に行くまではこの町にいることになるのだから。それでこの町がどんな町かを見てから決めてもいいのでは」
「そうだな」
囁き合う代表者たちも、町の町長や代表になるにはぼくほどじゃないけど若い人間が多い。リジェネさんが一番年上っぽい。
これもあれかな、前の乾季で倒れた……のかな。
祈りの町を生き残らせるためには神官でもある町長が必要。で、とにかく生命力が強く生き残りそうな人を選んだ結果、かな?
日没荒野についてサージュからいろいろ教えてもらったけど、「くに」があった頃は日没荒野はそんなにひどい荒野じゃなかったらしい。数は少なくても獣もいたし、緑も少しはあったって。
「くに」の戦争で、大神殿があるという日没荒野に、世界を創り上げた精霊神の力を手に入れようと踏み込んだ「くに」がいくつかあって、その時の荒野でも争いで獣は狩り尽くされ、緑は剥ぎ取られたらしい。それっきり、荒野に緑や獣が戻ることはなく、天候も……特に太陽が西に沈むまでの熱波と、沈み切った後の寒波が激しくなって、どうにもならなくなったらしい。
「くに」が滅び、町が出来始めた当初は「最初の町」スペランツァに精霊神が降臨してたんで日没荒野を誰も目指さなかったけど、やがて町が増え人々が増え世界が安定してきたところで精霊神はスペランツァと共に帰り、そして自分の正しさを証明したいのとか信仰心を証明したいのとか強さを証明したいのとかが日没荒野に踏み込んで、誰も帰ってこなかった……というお話。
日没荒野を聖地から外したのは、本当に誰一人帰ってこなかったからだろう。
大神殿があるという伝説を証明した人間は誰も居ない。獣すら行き来しない荒野は、もう危険地帯であってどれだけ信仰心があっても奇跡を返してくれないから。祈りの町ですら生きていくのが必死の世界で、これ以上信仰心の
祈りの町の人間は神官(の役割を負っているのは町長)を始めとして、水や食料、癒しと言った旅に必要な補助をするスキルの持ち主がたっくさんいるけど、そんなスキルの持ち主がいても町すら生き続けられない状態なんだから、神殿もフォローできないんだろうなあ。
ちなみに、ぼくたちはフォーゲルの神殿に連絡を送ったけど、フォーゲルの神殿が勝手に決めてGOサインを出したわけじゃない。Sランク以上の町の神殿は神殿間で連絡を取り合い、話し合うことが出来る。その話し合いで、各神殿の大神官全員の同意があって聖地認定が外されたとフォーゲルの大神官は説明して、グランディールに祈りの町の住人の救出を依頼してきた。
とにかく、日没荒野の祈りの町の生き残りを全員回収することが神殿から依頼されたミッション。
神殿の正式な依頼を受けたのだから、とりあえずグランディールの事情は置いとくしかない。それに希望者をグランディールに入れてOKという
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