第193話・辿り着く人々

 グランディールの初の成人式はもうちょっと待ってもらうことにして、とりあえずポリーティアー含む日没荒野の祈りの町全引っ越しに集中することにする。


 今度はサージュがポリーティアーに降りて、町民にグランディールの法とかを教える予定。何も聞かずに絶対グランディールに入る! と言っている人もいるけど、サージュの町講座を聞き終わって質問を全部終えてじゃないとダメだと言ってある。


 まだグランディールに人を入れていないのは、ポリーティアーが空っぽになるのを防ぐため。ポリーティアーに誰も居ないでグランディールが上空に浮いていたら、見捨てられたと思うだろう。幸せはもう手に届かないという意味に取られる可能性だってある。


 とりあえず今は太陽が遮られて水もあるし食糧も持っていくので、今までよりずっと過ごしやすいはず。


 あと一つ分かったこと。グランディール町民にはぼくを含め暑さに弱い人間が多い。どっちかって言うと北系の人間が多かったからね。窯の前にいるのは平気でもポリーティアーは無理っていう人が結構いた。



     ◇     ◇     ◇



 数日後に、宣伝鳥は全部帰ってきた。


 各町からの返事は、大体まず疑問。出してくれるのはありがたいけど本当? みたいな。あと神殿が見捨てたってマジか、的な話が。祈りの町ってプライドがあるからね。


 それでもこの聖地という名の不毛地帯、生きていくには辛い場所。神殿が何もやらなくなったらここにいる理由もなくなる。


 と言うわけで、宣伝鳥が戻ってから更に数日後、あちこちからぞろぞろと白い布を被った隊列がポリーティアーを目指してやってきた。


 その時ぼくはグランディールにいたんだけど、グランディールで一番背の高い建物、時計塔(いつの間にか出来てた。誰が望んだかは分からないけど、趣味の良さから多分シエルが絡んでいるものと思われる)から荒野を見ていたポルティアが塔から会議堂まで突っ走ってきて、旅の一団発見の報を伝えてくれた。


 ぼくとサージュも時計塔まで走って、見下ろすと、荒野のあちこちから繋がる崩れかけの街道に沿って、力なく歩いてくる3・4の集団。でもその小さな影がこちらを認めたのか、歩きが早くなるのも分かる。


「サージュ、食糧班に連絡、出迎えの準備」


「おう」


「ポルティアは生活班の所に行って、人数とか調べる人を下ろして」


「分かった」


 うちの町の人はぼくの言うことに即座に対応してくれる。ぼくは果報者の町長です。


 やがて、ポリーティアーにヘロヘロと辿り着く人の列。


 荒野の彼方から、本当に? という疑問付きでやってきて、ポリーティアーの上空に町が浮いているのを見て急ぎ足になり、辿り着くと同時にエネルギー切れ、日陰と霧水で涼しくなってるポリーティアーでぐったりする人、多いこと。


 ポリーティアーとグランディールの人間が総出でそんな人を日陰の中に引きずり込み、水を飲ませ、それから食糧を渡す。


 その後は、一般町民はゆっくりと休養中。


 その間にもふらふらと歩いてくる集団が4・5はあるので、食糧班は大鍋でパン煮を作ること忙しく、牛さんだけでなく山羊さんもフル動員。もうとにかく栄養ある物を食べさせないとヤバいからね! 医療班がヤバいと診断した人は薬湯も飲んでもらってる。


 そんな町民を休養させつつ、ぼくはサージュとグランディールに各町の代表者を集めて説明会。


 聖地認定がなくなったことは、フォーゲル神殿からの直接書簡を見て納得してもらう。


「そうか……」


 代表の一人が溜息をついた。


「巡礼者が誰も居なかったからそろそろかな、と思っていたが……」


「実際その時が来てしまうと、キツイな……」


 はあ、と溜息をつく代表者一同。


「それにしても、ここは居心地がいい」


 一人が呟いた。


「焼ける太陽もなければ渇きもない。緑も土もある。何より水!」


「ああ、水が近くて気温が下がる。これが「涼しい」という感覚か」


「いいな」


「寒い地に行ったら冷えるんじゃないか?」


「ある程度は冷えますが、暮らせないほどではありません」


 アパルが穏やかに説明する。


「少なくとも、荒野の夜より過ごしやすいかと思います」


「冷え切らないのか?」


「そうですね。毛布があれば屋外で十分眠れます」


 この会話がよくわからなくて後から聞いたけど、日没荒野は陽が沈むと熱気がなくなって逆に凍りそうなほどに寒くなるとか。その冷気が町まで届いて、迂闊に屋外で倒れると凍死する可能性すらあるらしい。知らなかった。要らないこと言わなくてよかった、夜はグランディールに戻って寝てたのバレる所だった。夜は居心地のいい所でのんびりしてたって聞いてよく思う町はないだろう。


「とりあえず、神殿の紹介する町へ行くか、グランディールに留まるかを決めていただきたい」


 ぼくが切り出した。


「……グランディールは主にどの町の近くにあるのですか」


「その時によって違います。スピティとは親しくさせていただいているので、近くにいることも多いですが」

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