第190話・役割
サージュが会議堂の準備に去って行った後に、ぼくとアパルが並んで、門番の今回は二人揃っているソルダートとキーパが囲んだ間に金色の輪が出来る。ここまではぼくの外見は広まっていないだろうから、頭から白い布を被って、二人の衛兵とアパルを連れて下降門に入る。
パッと景色が変わった途端に、ぼくらを包み込む熱気。いや、直射日光がない分いいのかもしれない。
空気は乾いていて、光を遮る木すら見当たらない。
「ここはポリーティアーで間違いないでしょうか?」
ぼくは声を張り上げる。
「グランディール町長、クレー・マークンです」
伝令鳥を抱えていた、白い布を被っているけど多分母さんより年上の、よく日焼けした女性が前に進み出た。
「グランディール……本当に来てくださったんですね……」
声がカサカサ。
「オルドが帰ってこなかったから、辿り着かないか、それとも存在しなかったかと諦めていたのです……」
「オルドと言うんですか」
伝令鳥を抱きしめながら女性が頷く。
「オルドナンツ……この町に唯一残った宝です……」
「すいません、本当ならオルドナンツを先に帰さなければならないと思っていたのですが、彼が酷く弱っていて、飛ばすのがためらわれて……」
ちなみにエキャルは未だに出てきていない。最初は頭に乗っていたけど、サージュがぼそっと「エキャルが飛べば話が早かったのにな……」と呟いたのを聞いて引っ込んでいった。ワガママ言った自覚があったんだ。
「いえ……来ていただいただけで充分です……! グランディール、本当に存在したんですね……!」
「とりあえず必要なものは何でしょう?」
「水……を……」
ぼくは頷いて、背後で太陽を遮るグランディールを見上げる。
向こうから見下ろしているのはヴァダーだ。
この回答は十分に想像できた。だから。
ぼくは上に向かって、招くように腕を上げた。
次の瞬間。
さああっという軽やかな音と共に、乾ききった水汲み場に多めの水が、周囲に薄い霧のような水が降り注ぐ。
ヴァダーが水路天井の水を流したのだ。
あ、気温下がった。
「み……水だあ!」
三十人近い町民が水汲み場に行って、掌で
伝令鳥を抱えていた女性も、水の誘惑……というか人間の生存本能に勝てなかったんだろう、水を飲む一団に加わっている。
ぼくと衛兵二人とアパルは黙って夢中で水を飲む人たちを見守っている。水はそんな冷たくはない。乾いている時に冷え切った水を一気に飲むとヤバいらしいので、水をグランディールから下ろす間に日光で温めている。
一通り渇きを癒してから、ポリーティアー町民はこっちを一斉に向いて頭を下げた。
「ありがとうございます! 本当に、ありがとうございます!」
「久々に水を飲めた……!」
「ああ……ありがたい」
「いえ。間に合ってよかった」
下手をすれば、もう少しで全員渇死してたんじゃないか? これ。
本当に、グランディールを全速で移動させて良かった。
「こちらへどうぞ」
オルドを抱えた女性が、町の中の会議堂らしき建物に案内してくれる。
「風を通すスキルの持ち主はいるので、冷えた空気を回しましょう」
小さな小さな乾季用の窓を開けると、湿気を含んだ風が入って来た。
うん、暑い!
そして、あちこちに開けられた小さな窓から見える目、目、目!
町民総出で覗いてるよ。会議堂の意味なくない?
「改めて名乗ります。ポリーティアー町長代理のリジェネ・プレイングと申します」
「クレー・マークンです」
リジェネさんが手を差し出したので、ぼくも手を握り返した。
「本当にありがとうございます……こんな何もない町に……」
「いえ……ここまで助けに来れるのはグランディールくらいでしょうから……」
「本当に……助けていただける……この町を併合してくれると仰って下さるのですか……?」
その前に確認しなきゃいけないことがある。
「グランディールと併合したい、そう仰って頂けるのはありがたいのですが」
リジェネさんはそっと目を伏せる。
「正直、この土地にグランディールの求めるものはないと思います。私たちが欲しいのは人口です。私たちに助けを求めるということは、グランディールに住民が移動する……すなわちこの地を、先祖代々守ってきたこの土地を捨てるということです」
微かに俯いたリジェネさんの表情はうかがえない。
「それでも……土地を捨ててでも来たいというのであれば、グランディールは受け入れます。この町の全町民を受け入れもしましょう。しかし、ここにあるということは、日没荒野を守る役目を捨てるということになります」
それは、サージュが調べてきた。
日没荒野近くにある町は、精霊神を祀る神殿が、大神殿を求めて旅立つ者を祝福し、大神殿を見つける祈願をするのと同時に、無謀な冒険者を引き留める役目を兼ねていた、と。
つまりポリーティアーは日没荒野から冒険者を守るためにあった町。
グランディールに来るということは、その役目を放棄するということにもなる。
リジェネさんはオルドを抱えたまま、無言でいた。
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